いつものひとりごと

いつものひとりごと

第二話






しばらく一緒に夜の街を歩いた。
たいした話はしていない。
僕の知っているお店や公園を教えて欲しいと言われ、いわば『ガイド』をしていたに過ぎない。

それから彼女は僕の家へ行きたいと言った。
さすがに初対面の女性を家に招くのは躊躇ったが、どうしても、と言われて
次の日なら、と約束した。

次の日の朝6時。
時間は彼女が指定した。時間がないから、と。

僕は断らなかった。
断れなかったんだ。




それから僕は歩いて帰ってきた。
彼女はビジネスホテルへ泊まってると言って帰っていった。

家に帰ってから、慣れないお酒を飲んでいたこともあって僕はすぐに寝てしまった。
そして夢をみた。

彼女の夢だった。
彼女は何か一生懸命訴えていた。
けど僕には聞こえない。
彼女は泣き出してしまった。
赤ん坊のようにわんわんと声を上げて・・・

はっきりと聞こえたんだ。
本当に赤ん坊のような泣き声が・・・




何を言いたかったのだろう?
バスを降りて、そんなことを考えながら歩いていた。

待ち合わせのところへ着くと彼女はもう来ていた。
あの花壇の端に座っていた。
僕を見つけると立ち上がり、嬉しそうに手を振った。

僕のアパートに着くと、
彼女は「お邪魔しま~す!!」と元気よく言って上がりこんだ。

しばらくキョロキョロ部屋の中を見回した後、彼女が言った。

「アルバムが見たい」

付き合った女の子たちにもアルバムなんて見せたことない僕だが、何故か一緒に見たくなった。

子供の頃から親が写真好きでアルバムは何十冊もあった。
それを受け継いでか、僕もよく写真を撮りアルバムに収めていた。
しかし僕が撮る写真は風景画が多かった。

彼女はそれらの写真にとても興味を示し、
いつ誰と行ったのか、聞いてはうんうんと頷いて見ていた。

僕はなんだかそれが愛おしくてたまらなくなった。
ただ彼女を眺めているだけで幸せな気持ちになれた。

「・・・」

彼女が何か言った。

聞き取れなかった僕は聞き返したが、彼女は微笑んで小さく首を横に振っただけだった。

僕は彼女が泣き出すのではないかと思った。
同時に動揺している自分に気がついた。

(おい、あれは夢じゃないか)

そう、自分に言い聞かせてみた。

彼女が泣き出すことはなかったのだけれど。




アルバムを全部見終わると、すでに11時を回っていた。
無理もない。この莫大な量のアルバムを解説付きで見ていたのだから。

それから僕たちは一緒にランチを食べた。
彼女は僕の部屋で食べたいと言ったが、一人暮らしの冷蔵庫にはたいしたモノは入っていない。
なので近くのパスタの店へ行くことにした。
ランチセットは500円とリーズナブルなのだ。

パスタセットとビザセットを半分ずつして食べた。
彼女は大きな口でピザにかぶりつく。

『んぃひぃ~~~!!』

おいしいと言いたいのだろう。満面の笑みで伝わってきた。
彼女は本当に旨そうに食べた。

『よかった』

そう言って僕も食べ始めた。

(ん?料理がおいしくなった・・・?)

僕は周りを見渡した。
不思議な感覚があった。
何か、違う・・・? けど何かはわからない。

何度も来たことのあるお店なのに。




それから僕らは近所の公園を散歩した。
この辺りは自然が多く、今日みたいな天気のいい日はとても気持ちがいい。
昨日の雪がまだ残っているものの、春は近いのかもしれない。

家族連れやカップルで公園は意外に混んでいた。

公園を散歩しているだけでこんなに気持ちが落ち着くものだろうか。
いつもは見向きもしない草花に目をやり綺麗だと感じて、
はしゃいでいる小さな子ども達をかわいいと思った。
自然の力とはすごいんだな~と、バカみたいに考えていた。

彼女との会話は相変わらず内容のあるものとは言えなかったが
一緒に歩いているだけで心がほわっと温かくなった。

公園を散歩する子犬をなでる彼女。
大きな声で笑う彼女。
時々見せる淋しそうな目・・・

ずっとこうしていたかった。

もし許されるのであれば。
僕はずっと彼女と一緒にいたかった。

明らかに恋愛感情とは違う、『何か』がそう思わせていた。







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