いつものひとりごと

いつものひとりごと

第三話






昼間あんなに暖かかった日差しも徐々に陰ってきてしまった。
少し肌寒いくらいだ。

彼女は、時計をチラッと見てから

『あったかい飲み物買ってこようかな』

そう言って走って行ってしまった。

『僕が行くよ』

そう言う間もなく、彼女は走って行ってしまった。
そして戻ってこなかった。




正直・・・彼女はもう戻ってこないのでは、と思っていた。
考えてみたら僕は彼女のことを何も知らない。
名前も年齢も住んでいるところも。

それでも僕は止めようとはしなかった。




しばらくして、一人の女性がやってきた。
一瞬、彼女かと思った。背格好が似ていたから。

でも近くまで来て全く別人だとわかった。僕と同じくらいの年齢だろうか・・・

そんなことを考えていると、彼女は僕に向かって何かを差し出してきた。

『あの・・・これ。』

そう言って手渡されたのは、一枚の写真だった。
僕が一人で写っている。去年友達と行った、高原での一枚・・・
僕はあまりにそこが気に入ってしまって、一人で撮ってもらったのだ。

何気なく後ろを見ると『パパ、幸せになってね』と。
僕は理由もわからずドキドキしていた。息も荒くなっていたハズだ。

『コレをどこで?』

女性に聞いてみると、向こう側の公園の出入り口で女の子に渡されたと言う。
動揺している僕がおかしかったのだろうか。女性はクスッと小さく笑った。

『あ、ごめんなさい。あなた、あの子のパパなの?』

そう言ってまたクスクスと楽しそうに笑った。

『あ、いや・・・』

確かにおかしな話だ。歳だって10も離れてないはずだ。
ぼんやり考えていると、その女性が写真を覗き込んできた。

『ココって・・・』

女性は写真に写っているその場所をピタリと言い当てた。僕が驚くと、

『私の大好きな場所なの』

そう言ってにっこり笑った。
僕はその女性の笑顔に懐かしさを感じた。




僕らは一緒に公園を出てきた。すると近くに停まっていたトラックからニュースが聞こえてきた。
昨晩の事故のニュースだ。路線バスの事故らしい。
聞き覚えのある地名。この街だ。

昨晩は疲れてしまってニュースも見ずに寝てしまったし、
今朝は早かったから全然知らなかった。

僕が聞き耳を立てていると、女性が残念そうに言った。

『酷い事故だったんですよ。駅からの最終バスの乗客、半分くらいの方が亡くなって・・・』


な、なんだって!!
最終バスって言ったら、僕が乗るはずだったバスじゃないか!!


『雪で滑って横転してしまったんですよね。3台の救急車で往復して・・・』




女性の声は、僕の耳にはもう聞こえていなかった。

僕は昨晩の記憶がよみがえった。
終バスに乗り遅れて、しばらく花壇に座っていたんだ、彼女と一緒に。

救急車が3台。確かに通り過ぎていった。

あれがそんなの大きな事故だったとは!!




その事故の怪我人は女性の働いてる病院に運ばれたそうだ。
道理で詳しいはずだ。

もっとも、僕は途中からまったく別のことを考えていたのだけれど。
辺りはすっかり暗くなっていた。







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