裁判所執行官!


   梅雨の晴れ間がひろがってきている。●ー●ト●レ●●に午前10時半の約束である。この物件も通いなれた場所である。10時15分、早めについたが裁判所の関係者らしい人物が立っていた。軽く会釈をしながら横の駐車場に車をとめる。

 「こんにちは、裁判所の●●さんでしょうか?」
 「はいそうです。」彼が名刺を出そうとしているので、こちらも名刺をだそうとすると、彼は自分の名刺に日付と事件番号をいれて私に差し出した。

名刺の役職は執行官とある。そう、今日はこの物件のある滞納者の動産差し押さえ執行なのである。それで、私がスペアキーで鍵を開けに来たのである。

執行官の彼ともう一人裁判所の方、そして少し遅れて立会人の方が来た。執行官の彼が「少し早いですが、入りましょうか。」久々の入室である。今度は人数が多いのでこちらも気が楽ではあるが・・・。

 10時20分入室、鍵を差込みロックを外す、先に執行官が2人、入居者の名前を呼びながら玄関に入るが返事はない。その玄関は読まれていない新聞や手紙、督促状の山で通路がふさがれている。

続いて立会人が入り最後に私が続いた。2LDKの間取りである。そのキッチンとリビングは散らかっている。テレビ、コンポや、生活品がしっかりあり、荒れてはいるが部屋としての機能は残っている。

 動産差し押さえ、私も初めての経験である。昔、テレビで観たような赤紙を貼り付けていかないらしい。簡単だった。執行官の一言であっけなく終わってしまった。

「動産差し押さえ対象物なし!」の一言だった。
後は書類に時刻を入れて終わりだった。立会人が本件の原告らしいが、多分金融関係会社で総務風の人みたいであった。


7月3日
 今日はいろいろ行かなくてはならない場所が出てきた。月末入金の約束が守られていない滞納者が数名いる。こんなもんかなぁと、思いつつ車を走らせる。

引越しまで手伝わせておいて、いきなり携帯電話つながらなくなっているし、支払い確約書もしっかり書いて、月末入金の約束まであったのにポカされし・・・・。ヤッパリ懲らしめてやろうっと!

 そうやって市内を移動していると、いくつかのなかなか会えない滞納者の物件近くを通る事があるが、時間がある限り再訪することにしている。

で、近くに目指す物件がある、●●町のカー●ー●●町だ。今日は娘が居そうな気がする。高校生の娘と二人暮しであるが、娘の自転車がある。

高校はテストの最中だから居るだろうと思ったがそのとおりだった。ガチャリとドアが開く、いつもこの瞬間がたまらなく、程よい緊張感が走る。

んー?確か娘さんだったはずだが・・・。出てきたのは一見すると男性と間違えるほどの体格のいい女性だった。
髪型もかなり男性ぽくみえたので、最初に「●●さんの娘さん?」と聞くはずが、戸惑い、居るはずも無い「お父さんは?」の、会話ではじまった。

当然「いません。」だよな。
「お父さんいつも何時に帰ってくるの?」 
彼女「大体8時ごろかなぁ」
「お父さんの会社はどこ?」
「知らない。」
「知らないって、親子の会話ないの?」大きなお世話かもしれない。
「それじゃお父さんの携帯電話知っているの?」 
彼女「アッそれなら判ります。」と言って奥の部屋から自分の携帯電話を持ってきて調べてくれた。

私「間違いない?」
「大丈夫だよ」と、ニコリ。ようやく彼の連絡先が掴めた。ラッキーである。

すぐに階下に下りて教えてもらった番号を打ち込む、しばらく呼び出し音がなり彼が出た。
「●●さん、T不動産法務部のTです。」 
彼「あっどうも・・。」
私「やっとご連絡つきましたね。ご入金は少しずつありますが、キチンとした、支払い確約書がないと家主さんも不安になっております、ですから当社としても一度●●さんにご来社いただいて確約書を書いて頂きたいのですが、いかがですか?」 彼「わかりました。」 

私、たたみかけないといけない。
「いつも何時ごろ帰宅ですか?」
「営業なもんで、夜は遅いのです。」 
私、チャンス!「●●さん、会社退社していますよね、今は何処にお勤めですか?」
彼、一瞬間を置いて、「●●●●です。」やった!確認!彼のグチが出はじめる、

「前の会社は倒産で・・・。」 
私「大変でしたね、それでは、6日の日曜日は如何ですか?」 
彼「日曜日もやっているのですか?」
私「大丈夫ですよ!」 
彼「日曜日は都合が悪いので・・・。」 
私「それでは平日にしましょう、貴方の会社が終わった時間でいいです。遅くてもお待ちしております。」観念したみたいだった。

彼「日曜日の夕方連絡します。次の月曜日ぐらいで、時間はそのときに・・・。」 「判りました、連絡お待ちしています。」管理部の誰も知らない情報である、いつのまにか契約者の情報が契約書と違う状況になって行く。

彼は連絡をしてくるだろうか?まぁ会社判ったのでよしとするかなぁ。


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