強敵との対決!


 梅雨前線が停滞しているのか細かいシャワーのような雨が降り注ぎ、車のワイパー速度がもどかしい。私が担当してすぐに夜逃げをした、ペットショップの経営者を捕まえられそうだ。

家主さんからの情報らしいが、その情報は私も以前掴んでいたがその前の情報だとすでに居場所を変えたらしいと言う話だったが、どうも変っていないらしい。滞納額も超ビックなので、こちらも逃がすわけには行かない!

 あるタクシー会社だった。5●歳の男性であるが、こちらも散々督促状や、内容証明、配達証明を送りつけていたのだった。転送届もしているので、近辺に居るとは思ったが、まさかこんな近くにいたとは・・・。

みなれたタクシー会社が出入りしているが、すべて彼が乗っているような感覚に陥る。まさか会社まで彼を匿ったりしないだろうと、思いながら事務所の前に車を着けた。体格のよいランニング姿のオジサンがいる。

「こんにちは、T不動産と言いますが、●●さん、いらっしゃいませんか?」
いきなり法務部の名刺を出すわけにはいかない。私の名刺いれにはとりあえず3種類の名刺が入っている。企画部、管理部、法務部の3つである。

今回はどれもださなくても良さそうだった。
「●●!今日は休みじゃないかな?」ヤッタネ!勤務しているらしい。すぐそばにいたもう一人、年配のネクタイ姿の同僚が勤務日誌をみてくれて、
「今日は非番だね。」と答えた。 
私「連絡先とか住所とかはわかりますぅ?」少しスローに尋ねると、ネクタイ社員が「●●、何号室だった?」とランニングオジサンに尋ねる。

「確か●●号じゃないか!」ネクタイ社員が名簿を見て、「うん、●●号だ。」 
私「寮ですか?」 
「そう、すぐ後ろにある手前の建物で●階の●●号室だよ。」 
「どうもお手数をおかけしました。」
再びヤッタネ!約4ヶ月ぶりに所在がつかめた。

 裏にまわると、プレハブ2階建の20室ぐらいの建物が2棟あった。1階の端っこに共同トイレがある。そのうちの手前1棟目の階段をあがり目指す部屋番をさがす。引き戸型のサッシの戸であった。

居るかなぁ?鍵が掛かっている。とりあえずノックをすると中でうごめく影がみえた。ガラガラと戸が引かれ出てきたのは50代半ばの肌着姿の男性である。大概、私のお客は肌着姿が多い。女性は皆無だが・・・。

 「●●さん!T不動産法務部です。」と名刺を差し出す。
「エッ!なんで判ったの?」と不思議そうに私を見る。彼の顔には何度も修羅場をくぐって来たしたたかな悪の履歴がにじみ出ている。

「たまたまですよ!貴方がタクシーを運転しているのを見たと言う情報があっただけです。」としなやかな嘘をつく。

「なかなかお元気そうですね。」と言いながら部屋を見渡す。6畳もない小さな一間である。俗に言うタコ部屋のような感じである。その奥に小さな仏壇があり布団を敷くと座る場所が無い部屋である。

「わしは逃げも隠れもせん!」と彼。
「じゃ、連絡くらいして頂かないと。」
「あんた、債権回収専門の人か?」  
私「そうです!」 
彼「T不動産にそんな部署あったんか?」 
「貴方みたいに連絡がつかないと私の出番になります。」多分彼はまた逃げるかも知れないが、とりあえずこの場は観念したみたいだった。

「裁判するのか?」  
「そうですね、貴方の出方次第ですね。」 彼がいきなり動いた!なにやら自分のサイフを探して中から給料明細を私に見せる。

「見てくれ!わしの給料や!」手取り7万の明細だった。
彼「裁判じゃなくて、分割で勘弁できかなぁ。」
「そうですね、●●さんがいつも連絡がつく状態にあるのなら、裁判でなくてかまいませんが。そのお話は私の会社でしましょう。明日は時間ありませんか?」

 彼「明日は勤務日だからダメだなぁ」 
私「いつならOKですか?」 
彼「水曜日なら」 
私「約束して下さい。水曜日の午後3時にしましょう。大丈夫ですね!」 
彼「大丈夫です。」来ればいいけど、逃げそうな顔つきだけど・・・。


7月9日
 約束の日、水曜日だ。管理センター内部で悪い事だけど賭けをした。私のお客さんが来る、来ないのジュースや昼飯の賭けである。エッ?賭けに勝てるかって?今のところ勝率6割ぐらい、若干私のほうに分がある。今日の賭けは私の勝ちだった。

 午後3時10分に遅れて彼が来た。「Tさんおいでになりますか?」事務所の前で彼が私を訪ねている。管理センターの全員が彼に目がいく。

「●●さん!こっちに入ってください。」と声をかける。ニヤッと笑みを浮かべながら彼が入ってきた。
「あっ、こちらですか?」 
「どうぞ、そこにかけてください、約束守って頂いて感謝ですよ!」 
彼「これでも、結構義理堅いのだけど。」義理堅い?ならビッグな滞納するな!と思いつつ
「貴方の保証人さんの消息つかんでいるんでしょ?私はそっちも押えたいのですが。」 
彼「Tさん、アイツはダメだよ、●●市のタクシー会社にいるけど、母ちゃんに追い出されて今は車の中で生活しているみたいだし。」

「そこの会社に連絡はつくの?正式会社名は?」 
彼「●●●●タクシー、チョット変な会社で本人になかなかつないで、くれないんじゃ。それにアル中だし。」

アル中がタクシーを運転するんかい?彼が言った言葉をすばやくメモする。

彼「でもTさん、よく判ったねぇ、あんた調査会社にでもおったんか?」 
「貴方も元警察官でしょ!」
彼「エッ!どうして知ってるんや?」それくらいは調査済みである。彼の同期の警察官には大変失礼だが、彼がいたときの警察官の一部に不祥事があったみたいだったが?

彼「昔むかしの話や、わしの時は結構悪がおったが。」あんたもその一人じゃないだろうかと疑ってしまうが。

「Tさん、あんた、もしかしたらT一族の人か?わし、あの一族は苦手なんじゃ。」どこの一族やねん!私をアパッチ族と混同してるんじゃないよ!

私「いいえ、関係はありませんが、ところで、●●さん、先日みせていただいた給料しかない状態ですか?」
彼「平均すると手取り10万くらいや!」コイツ、一番少ない給料明細見せやがって!

「未払い金額いくらあるかご存知ですよね?2万づつ毎月入れても8年もかかりますよ!」

彼「毎年半期に15万づつと来年からは毎月3万づつ払えるようにするから、それとわしの敷金は精算してくるのかいのう?」
そんな事はしっかり覚えているらしい。

「敷金は当然精算します。しかし内部の補修費もかさみます。」
彼「あの店はわしが手直ししたんだよ!」 

「退去時に現状復帰でしょう!でもそんな事ばっかり言っていっても仕方がないから、とりあえず滞納金額から敷金を引いた額は1●0万です。」
 彼「車1台分やね。」 
私「そう!貴方が頑張れば楽勝です。」 

彼「今、わしが乗務員を紹介して会社に入れるとその本人に50万の支度金、わしに紹介料で10万あたるんじゃ!それで頑張ろうかなぁ?」

「そうですね、それで10何人ほど入れて下さい。」 
彼「Tさん、実はわし、もう一回商売をせんかと言う人もおるんじゃ、前の顧客リストもあるし、チワワ一匹もいま高いからねぇ。それで、Tさん、もし裁判になったらわしブラックに載るやろ?そしたら商売できないじゃないか?わし、今ブラックに載らんのやろ?」

ふーん!もう一回商売したいのか!
「当社の管理物件ではまず、貴方にはお貸ししませんが、他のブラックには今のところ大丈夫です。」 
彼「わし、来年にはアパート借りようと思ってるんじゃが、他の不動産屋は大丈夫かいな?Tさん、ブラックに載せんどいてや。」

「●●さんがしっかり支払いしてくれたら大丈夫ですよ。」元公務員は再び野望を抱きながら、支払い確約書を書いていった。



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