諦観（９）
結婚してからの之まで３８年間を振り返ってみて、結婚当時に漫然と考えた目標にどれだけ近づいたかとか如何にその為に為すべき事をしたかを考えてみたのだが、想った事の半分も達成していないのではないかと忸怩だる想いがする。そうは想うものの、それがボクの限度であるなら高望みをした処でどうなるものでもなく、自分の分を知るのも大事な事なのだと悟ってしまうのだ。そう言えば結婚する５年程前にたまたま四柱推命を見てくれた人が居て「あなたは想った事の半分は実現させる事が出来る良い相をしているから、出来るだけ大きな事を想いなさい」とアドバイスしてくれた事があった。当時、人に騙されて借金が出来、落ち込んでいた時だったから、それが多少とも救いになり、働いて借金を返して自信が付き、以後も頑張れる事が出来たのだった。
人間誰しも差し迫った目標があると頑張れるものだ。先ずそれをクリヤしてから次に進むと決めれば、エネルギーはベクトルをもって目標を達成させようと動き出す。勿論、能力の問題もあるが、そんな事を考える余裕もないと無性に頑張れるものだ。問題が一つ解決すると次なる目標が生まれ、更にそれが達成され先に進む事になる。若かったから無理も出来た。その延長でこの数十年を生きて来た訳だが、人生の目標とした事への達成率を云々するよりも努力した事の方が懐かしく想える。旅行の計画を立てている時の喜びと同じく、旅行に出掛けてしまってからよりも楽しいのだ。旅先で想わぬ楽しみに出遭う事もあるが、一旦立てた計画がスムーズに遂行出来るようにする事を想えば旅行前のワクワクする未知の気持ちの方が魅力がある。
学生時代に友人と二人で北海道一周旅行をひと月掛けてやった際に、計画が殆ど崩れ、予約したユースホステルは何とか半分は計画通りに泊まれたが、半分は前後にズレてしまったのだった。綿密な計画を立てたにも拘わらず列車の時刻が狂ってバスに乗れなかったり接続が上手く行かずにそうなったのだった。北海道の列車は本州では考えられない様なルーズさだった。止むを得なくそうなった訳を言ってユースホステルに泊めてもらったが、行き当たりばったりの旅行はそれなりに楽しいものだった。計画通り行かないのが当たり前となると覚悟が出来て居直りでも無いが、修正する訳でも無くそのまま旅行を続けた。他の旅行客も同じ様にズレていたのが幸いしたのだ。高が旅行なのだから目くじらを立てる方が大人気無く想えたものだった。
そういう風に人生では幾らでも軌道修正や計画通りに行かない事は往々にしてあるものだ。だから臨機応変に世の中を渡って行ける人と行けない人とでは結果が違ってきて当然だ。結果良ければ総て良しという訳でもないが、悪くなるよりも良くなってくれれば人は満足し納得する。それが運だとすれば、人生は矢張り運がモノを言う事に成る。計画も立てず運だけで行く人もいるかも知れないが、ボクの様な性格では出来ない。それなのに運に左右される事が意外に多い。つまりは人生というものは神様の気まぐれで軌道修正されるのかも知れない。運命と宿命とは違うと以前に書いた事があるが、実際、宿命は結果的に観れば矢張り仕組まれている事が分かる。勿論、人間が仕組むのでは無い。そういう星の下に生まれついているのだ。
運命論者的な言い方に成るが、結果がそうなのだ。そこに人間の業の深さや因縁を感じる事さえある。科学でエネルギー不変の法則や熱力学の法則があるのと同じ様に原因があって結果があるのだから、消えて無くなり忘れた頃に再び現れる現象は、仏教やキリスト教の宗教で言う処の因縁と同じ事を指しているのかも知れない。それを科学だ宗教だと人間が勝手に分別しているだけの事なのだろう。宇宙（地球も宇宙の一部である）はバランスで成り立っているのだから帳尻が合うようになっていて当然なのだ。何も不思議な事ではない。だから人間がどう思おうとバランスは機会均等にやって来るのだ。運もそういう意味ではバランス良く現れる。悲観する事は無いのである。宝くじに当たる確率も大きな目で見れば皆同じで、どれだけ辛抱して買い続けるかで決まるのだろう。
そう想いながら最近は「人生なぞ、成るようにしか成らない」と考えるようにしている。少々無理はしても決して無茶はせず、程々の処で妥協する事も身に着いた。それが歳というものだろう。馬鹿な息子の事も「親が死ねば、分かるだろろう」と半分諦観している。世の中は成るようにしか成らないのだ。親が幾ら心配し焦った処で子供は親の気苦労なぞ考えようともしないものだ。ボク自身自分を振り返ってみて都合よく自分中心でしか考えなかった事を想いだせば、心理学の療法の内観法でも無いが、詳細まで観えて来て恥ずかしくなる事がある。人間の記憶と言うものは感心する程細かい事まで覚えているもので、唯その記憶の上に新しい記憶が被さるから日頃は想い出せないだけの事なのだ。（つづく）
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