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飛翔(1)
飛翔(1)
かつて、自分が少でも関わりを持った事のある相手や組織体が良く成って行く事は誰しも悪い気がしないものである。否、むしろ喜ばしい気がするのでは無いだろうか。仮に嫌なイメージがあったとしても相手や組織体が良くなって行く様は自分に取って決してマイナスにはならない筈である。仮に相手側の原因で嫌なイメージが出来上がって居たとしても大らかな気持があれば相手が尾羽打ち枯らし落ちぶれているより、成功とは言わないまでも何とかまともに行ってくれている方が心穏やかで居られる。自分だけが良くなり、相手が没落して行くのでは自分が決して悪くなくとも何か後味が悪いものである。自分も良く成れば相手もそうなって欲しいと想うのが人情であり、一期一会の底流に流れる思想では無いだろうか。人は平和で順風満帆に人生を歩んで居れば自然と心に余裕が出来て来るものである。
その余裕は、人を押しのけてでも這い上がろうとする下卑た考えなぞ言下に否定し、もっと自分を内面から高めようとするだろうし、その方法は正攻法で大いに自分を研鑚するものだろう。我々はそういった努力をして人生を全うした偉人を数多く知っている。そして彼等が世界を明るくし未来を切り開いた事も知っている。だから少しでも自分をそれに近付けたいという気持は誰しも抱いているものである。要するに、人はそれを実現させたいが為に努力し毎日を生きている様なものだと言っても過言ではない。さて、話は変わるが、十年程前の事だったろうか、高校時代の友人が飲み会をやろうという連絡をくれた事があった。年賀状程度の付き合いしか無い久々の友人の連絡に二つ返事で参加を表明したのだったが、ふと考えれば之まで飲み会なぞやった事もない連中だっただけに、どの程度の飲み屋でやるのか分からず一瞬考え込んだ。
尤も、年齢的に還暦間近な者同士、そこそこの人生経験もあろうからと、高級過ぎても低俗過ぎても気まずい飲み会になってしまっても詰らないと想い「どうせやるなら一寸は贅沢が出来て、ゆっくり出来る処が良いネ」と注文を付けておいた。自分が建築家という職業柄、多くのパーティーや宴会を経験しているだけに一杯飲み屋で飲むのも良いが、それは日頃気心の知れた相手だけの事で、長年会っても居ない相手では当たり前の宴席では満足できないだろうという身勝手とも言える注文だったかも知れない。ところが、改めてメール案内が来た内容にはそれが織り込まれていたのだ。「京都を離れて、晩秋の寛げる日本海の温泉宿で懐かしい仲間との飲み会を」という触れ込みで二台の車に分乗してドライブするとあった。メンバーは京都市内や周辺に住む四名と、東京在住が一人、そして奈良に住むボクとの総勢六名だった。
メンバーの共通点は高校時代に学生運動をした連中や生徒会の役員仲間だった。夫々、会社を定年で辞めた者や映画監督をしている者、そしてボクの様な自営業をしている者という様にお互い仕事での利害関係が無い連中ばかりだった。つまり気楽で肩の凝らない相手ばかりだという事で、一泊の温泉旅行に依る飲み会を楽しみにして行く日を楽しみに待つ事にしたのだ。想い返せば久しぶりに会うメンバーの一人とは二十年程昔に東京で仕事をしていた頃に彼の家に招待されて飲んだ事があったり、他の連中も、偶然に京都や大阪で出逢ってはコーヒーで雑談をする程度の付き合いだったが、お互い中年も過ぎ、好々爺になった最近ではめったに会う事も無く、お互い様相も大分変わっただろうと想像するしか無かった。そして、当日が来て、集合場所の京都駅に向かった。久しぶりの遠出の電車だったから、一時間ほどが長く感じられた。
駅のロータリーには沢山の客待ちタクシーが在り、それを避ける様に二台の車が片隅に駐車していて、横に見覚えのある連中が立って居たのでそれと分かった。ボクが最後だったので早速、挨拶もそこそこに二台の車に分乗し直ぐに出発した。ボクの乗った車にはボクと同じく建築事務所を自営していた男が運転し、サラリーマンをしていた男がその横に乗った。どちらも仕事をリタイアし暇を持て余していると言ったが、ボクが未だ現役で仕事をしていると言うと驚きながらも半分羨ましそうな顔をしていた。そのせいか、サラリーマンをしていた男は「週に一度、ある私立大学の講師をしている」と言った。「暇は暇だが、原稿作りに適当に時間が潰せる」と先ほどの言を翻す様に言ったのは、ボクに対する弁解の様にも聴こえた。「そりゃあ、緊張感があって何よりだ。僅か一、二時間話をするだけでも相当量の資料が要るだろう」とボクは言った。
すると「そうなんだ、それだけでも結構時間を取られる」と嬉しそうに返事をした。彼とは高校時代、クラブ活動で一緒だった。が、特に仲が良かった訳では無かった。寧ろ、ボクと仲が良かった別の友人と対立関係にあったからボクも同類に観られていた筈だった。大学が別々に成り仕事も全く関連が無い事もあって、お互い音信は無かった。ところが、中年の頃、彼の妻が蜘蛛膜下で急死してしまった。同じクラブ員同士の同級生だった。連絡を受けて通夜に集まった元クラブ員達は、その早い死に大いに悲しんだものだった。その頃から彼とも年賀状のやり取りが始まり、何時しか高校時代の対立関係は消えてしまった様に想えた。が、それでも親しさはそれ以上深まる程でもなかった。変わった事と言えば、香典返しに送られて来たシンビジュームが翌年から咲かなくなって、八年目に全く偶然の様に満開の様に咲いた事だった。(つづく)
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