ココ の ブログ

小説「猫と女と」(13)

小説「猫と女と」(13)


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 「ボクの知り合いでさ、韓国ドラマにはまっている奥さんが居てネ、韓国ツアーにもう十回以上行ってるというんだ。ドラマの撮影現場や観光地を観て廻ったり買い物をするだけだそうだけど、ボクなんかにはどうも分からないヨ、何がそんなに楽しいのか知ら」話題を韓国ドラマに変えた。「多分、贔屓のスターが居るのネ、誰かしら?」「さあ知らない。名前を言われても分からないけど・・・」「母も贔屓のスターが居るみたい。日本でも結構人気がある男優ヨ」「ボクには韓国の男優なんか皆同じ様な顔に見えてしまう。前髪を下ろしてノッペリした顔ばかりで、まるでホストクラブみたいだ。お持ち帰りもあるそうだから、ひょっとして知り合いの奥さん、不倫を楽しんでいるのかも知れないな」「お持ち帰りって?」「連れ出して不倫する事さ」「まさか、嘘でしょ?」「いや、事実らしい。公然の秘密になっているから」


 「嫌らしい!そう言えば、芸能界はスキャンダルばかりの世界ネ。引っ付いたの離れたのという話題ばかり」「芸能界なんてそればっかりだヨ。それに最近でこそ分かって来た事だけど、日本の芸能界は韓国人ばかりだそうだ。日本人だと思っていたスターの殆どがそうらしい」「あら、そうなの?でも、私も好きなスターが沢山居るワ」「好きになるのは勝手さ。ボクだって好きな女優が居るけど、殆ど韓国人と知ってショックさ」「どうして?韓国人が嫌いなの?」「その話をすれば長くなる。日本の社会通念が身体に染み込んでしまっているんだろうな。舞子が生まれるズーッと昔からの事さ。日本が戦争に負ける迄、日本の植民地だった朝鮮から連れて来た多くの労働者を政府は戦後、放置したままだったから彼等は路頭に迷って悲惨な生活を強いられたんだ。そんな話、少しは学校やお母さんから聞いた事あるだろ?」


 「でも、どうして?国へ帰りたければ帰れたでしょ?」「ああ。北と南とが戦争状態の夫々の朝鮮へ帰って行った人も居たけど殆どは残った。帰っても日本よりも悲惨な状態だったし日本の闇市社会の方が住み易かったからだろうな。そんな時代、彼等の子供が表社会に伸して行くには芸能界とスポーツ界しか無かった。芸能界の中枢に彼等の先輩が居たから同胞が集まったんだろうな。韓国人は同胞意識が特に強い民族だから」「ああ、なるほど、そういう訳だったのネ。簡単に言えば、アメリカのマフィアの様なものネ。イタリー系の移民が集まってつくったヤクザの世界がハリウッドを牛耳った様なものと考えれば良いのか知しら?」「日本のヤクザの世界も芸能界も韓国人がボスだから根は同じさ。だからボクは韓国人に不信感を抱いてしまうのだヨ。何でも裏社会の掟で処理しようとするから信用出来ない。尤も、それも文化の違いから来るのかも知れないがネ」


 「裏社会の掟って?」舞子は怪訝な顔で訊き返した。「理屈じゃ無く情念で考えるから人間的過ぎて泥臭いという事かな。日本のヤクザ映画そのままだ。もっともソウル・オリンピックで韓国は経済と文化面でも大層変わった様だから日本と互角に文化交流が出来る様になって日本人の偏見も大分変わって来たがネ」「ソウル・オリンピックは私が幼稚園の頃ヨ」具体的な出来事を耳にして少しばかり理解できた風な顔で舞子は応えた。「そうだ。昭和の時代が終わってバブル景気も破綻した頃だった」「バブル景気ってよく耳にするけど私は知らないのヨ。多分、父が大儲けしてニューヨークにマンションを買った頃ネ」「日本中が浮かれていた頃だった。日本でスイスのレマン湖畔の別荘が売れたり、ハワイのリゾート・ホテルや別荘も売れた頃だヨ。そういった投資がバブルの破綻で全部パーになってしまった・・・」「と言う事は、父だけが失敗した訳でも無かったのネ?」


 「そう、時代の流れだろうな」「何だか私達、誰かに動かされている様ネ。韓国ドラマが流行るのも何か裏に意図がある様で・・・」「そういう意味では経済が世界を動かしていると言えるな。その経済を動かしているのは人間だけど」酒の場に相応しく無い話題になって舞子の母親の事は頭の片隅に追いやられ、私は当たり前過ぎる事を言った。「誰が動かしているの?」子供の様な目で舞子は次々と訊いて来る。「機関投資家の役割が大きい」「機関投資家?生命保険会社とかヘッジ・ファンドの事ネ?でも、組織を動かしている元の情報がある筈よ。誰かが動かす為のネタをマスコミに流しているのでは?」「よく知っているじゃないか。その通りだヨ。欧米の議会を動かす組織なんかがそうだろうな。しかし、我々一般庶民には分からない世界の事だヨ」「ふーん、スケールの大きな話ネ。私なんかが訊いても理解出来ないワ。でも、そんな事が心配事じゃ無いでしょ?」


 折角話題を反らせたのに話が戻ってしまった。トラブルの元になるだけに慎重に話さなければと想うと言葉が濁ってしまう。私が黙ってしまったので舞子なりに考えを口にした。「私達の事ネ?奥さんにバレたの?」「いや、それは大丈夫」「じゃ、何?」「実は、お母さんの事が気に成ってネ。長い付き合いだけど、そろそろ会わない様にしようかと想って・・・。デザイン事務所の所長の手前もあるし」「父が何か言ったの?どんな事?あの人は何も言える立場じゃないワ。母は貴方を頼りにしているのヨ。あの人を救ったのは貴方なんだから、父より信頼しているのヨ。別れるなんて言わないで。お願い!」「それに、舞子の見合いの事も頼まれているし」「お見合いなんてしないワ。私は今のままで良いのヨ。結婚なんて期待していない。両親を見ていると結婚なんて無意味にしか想えないのヨ。私は母と二人で一生一緒に暮らす積もりなの。だから今の状態が良いの」私はグラスのウィスキーを口にしたままウンウンと頷くだけで黙っていた。(つづく)




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