新旧理事会の対決!

まず新理事長が口火を切った。

「マンション生活も3年になりましたが、これまで見過ごされていた問題が多々あり、理事会では快適なマンションライフのためにこれらの問題に取り組んでいます。
今回 怪文書 が全住人に配布されて困惑された人がたくさんいます。
また私も個人の名誉を傷つけられました。このような行為は言語道断です。なぜこのようなことをするのかきちんと説明していただきたい。」

元理事が切り返す。
「これまで一生懸命働いてくれた管理人が突然辞職した理由があなたがたにあることをご本人から私は聞いています。また、管理会社からあなた方が管理組合の預金口座を勝手に名義変更したと管理会社から聞いています。このような重大なことがらを総会に諮ることもなく密室で実行するのは理事会の暴走であり、住人としては非常に不安に感じます。みなさんにこの事態をお知らせして真偽のほどを確かめたいと考えるのは当然でしょう。」

このころ、新聞などで、管理会社の倒産によって管理会社名義になっていた口座の預金が管理組合の所有に属することが明確であっても、法的名義により差し押さえられるという報道が相次いでいた。また通帳を預けていることから、お金の流れに関して管理会社の報告を鵜呑みにせざるを得ない、 さらに管理会社に印鑑も預けている状態では不正が起こらないとも限らない、と問題視する社会的風潮があった。
当マンションでもこの問題は人々が口にするようになりつつあった。

現理事会は管理会社にまず通帳の提出を要求したという。私個人としては、当マンション担当の管理会社社員は他にも担当物件があるだろうから、来るように言われても「では明日」というわけにはいかないんじゃないかと思うし、管理会社側の 「顧客資産は社長決裁なしには持ち出せない」 というのも十分うなづける説明だと思った。が、理事長の言葉では 言を左右にして 提出を先送りにして、ようやく再三の督促に応じた管理会社に、「印影を確認するから印鑑も持参するように。」と指示。担当者は通帳と印鑑を持参し、理事長夫人と話し合いにやってきた。

理事長夫人が「では印を押して確認するから。」と担当者に背を向け、手元のメモ用紙に印を押すふりをしながら、こっそり「口座解約および届出印変更届け」に印を押したのはその日のことである。
理事長夫人は他の理事1名が立ち会ったことを主張したが、担当者を騙して銀行への届出用紙に押印し、さらに、たった一日でも通帳と印鑑を自分の手元に保管するとは不正を疑われても仕方ない。この事実が明らかにされると出席者は一斉にどよめいた。

なぜ事前に住人の了解を得ないでこのようなことをするのか。
前理事はその点を問題視し、暴走だと判断し、真偽を正そうとしただけのことだ。これは大多数の住人が賛成だった。この夜の出席人数を見れば、現理事会を苦々しく思い、不審感を抱いていた人がいかに多いかわかるというものだ。
そこへ理事長夫人が声高に割って入った。「理事会はその時の全住人の代表なんです。信頼してまかせるのが当然でしょう。」はっきり言って彼女はでしゃばりだ。他の住人は子供を見る都合や、部屋のスペースを考えて夫婦のどちらか一方が出席しているのがほとんどだ。それでも狭い集会室に入りきらず人があふれている。しかし、この夫婦は二人そろって上座に座り、一方が発言を終えるとさらにもう片方がまくしたてる。
「はっきり言って、これまでの理事会は名目だけで管理会社がちゃんと業務を遂行しているかチェックもしていなかったではないですか。配布した資料にあるように、管理会社の不正も多々見つかっています。これまでがあまりにも杜撰だったから私達がここできちんと整理して、正しい方向に持って行こうとしているんです。住人のみなさんだって人任せで自分の問題だと思っていないじゃないですか。」 管理会社の業務遂行に問題があることはよくわかった。商取引においてミスは許されないが、「不正」という決め付けに出席していた管理会社担当者の顔が紅潮とする。この理事長夫人は間違ったことは言っていないかもしれないが他人の感情に配慮して話すということができない人だ。

「正しい方向に持っていこうという尽力には本当に感謝しています。でも、何が正しいというのはみんなで話し合って決めるべきでしょう。これまでの総会で決議されたことを理事会が勝手にひっくり返していいというものではないでしょう。」たまりかねた住人の一人が発言した。
口々にみな、「やったことの善悪は今この時点での問題ではない、実行する過程を問題にしているんだ。」という内容のことを発言して場は収拾がつかなくなってしまった。

何を言おうと理事長夫妻の信念は変えられない。理事会は管理会社が不正を認め、これまでの不正に請求・受領したお金を返済するまで管理費の支払いには応じないと担当者に通告した。しばらく担当者と理事長夫妻の言い争いが続く。理事会に属さない住人はついにはお手上げだ。誰だって共同住宅に住んでいるのに好んで他の住人とトラブルは起こしたくない。私自身、理事長派とか反理事長派とかレッテルを貼られるのはイヤだ。深夜1時半まで続いた「公開理事会」は中途半端なまま、もう遅いからと閉会することとなった。

「なんだかんだ言っても済んでしまったことなんだし...」 個々の住人はすっきりしない気分を抱えて、そこここで小グループになって立ち話をしていたが一人また一人と帰宅した。

だが、理事長側は住人にきちんと説明したことで力を得てしまったようだ。問題が頻発するのはまだまだこれからだったのだ...   【次回に続く】


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