柳宗悦の「スリップ・ウェアの渡来」(1933)によると彼が丸善の2階で1909年に出版されたLomax著の『Quaint Old English Pottery 』という本を見つけたのは1913年のことだそうです。この本は当時たいへん高価だったらしく、まだ学生の柳は大変にこころを惹かれながらもこれを買うことが出来ず、また同じくこの本を見つけていた富本憲吉も買えなかったといいます。しかしやがて富本は展覧会の売り上げで柳と二人丸善に行きようやくこの本を手に入れたのです。このときの様子を「富本が其大きな本を嬉しそうに抱えて持って帰る姿を今もありありと思ひだす。」と柳は記しています。 この話の後日談は濱田庄司の「英国の軟陶」(1970)によると、富本は日本橋の丸善でこの本を25円で求め、このため奈良へ帰る旅費が不足してバーナード・リーチに借りに訪ねたのですが、これを見たリーチがすっかり興奮して、旅費は貸すから本はぼくに預けて置けと言ったとのこと。そしてこのことからリーチ初期のトフト・ウェアふうの楽焼が生まれたことは前述のとおりです。後にこの本は柳も濱田も手に入れたそうです。 このロマックスの本を自分は未だ確認出来ないでいます。しかし柳や濱田の残した文章からすればどうやらこの『不思議な英国の古陶』という本で紹介されていたのはToftやSimpsonの手による飾り皿の類が中心であったように思います。リーチ初期のスリップウェアもまたトフト達のスタイルのものしか確認できないことからもそのように想像されます。ここにそれらと共に無銘の日用雑器であるオーヴンに入れるような鉢類が紹介されていたのかどうかははっきりとわかりません。 (03/4/23)