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このページのプロフィールにも書いているのですが、イギリスのスリップウェアがどうしても欲しいといつも思っています。それほど沢山の資料がある訳ではないのですが、それでも手持ちの本の写真を何度も何度も繰り返して眺めているのです。いろいろ好きなやきものはあるのですが、スリップウェアはもっとも初めの頃からこころ惹かれ続けるものの内のひとつです。スリップウェアがあまりに好きでやきものを作るようになったというのも一面ほんとうなのです。
 日本ではまとまって所蔵しているのは駒場の日本民藝館と益子の益子参考館くらいではないでしょうか。あとは個人蔵の品が数百点はあることと思いますが、売り物としてほとんど出てくることはないのです。といっても当時から貴重なものだったかというとそうではありません。
 これは17,8世紀の産業革命以前のもっとも庶民的な当たり前に使われたやきものなのです。そして、低温で焼かれたもろい質であることと、皿や鉢であると同時に鍋としてオーブンに入れるという用途であったためその多くが壊れてしまいほとんど残ることなく失われてしまったのでしょう。 ちょうどあれほど盛んに作られた土瓶や土鍋も江戸期にまで遡るものがほとんど残されていないことと事情は同じだと思われます。換えって貴重な貴族的なものなどは数はなくとも大切に残されているものです。本国イギリスでさえこの手のものはそう多く残っていないといいます。
 ではなぜ日本にこれだけの量があるかというと、明治の終わりに来日したバーナード・リーチさんが日本で偶然富本憲吉さんの持っていた本でこの鉢の写真を見て祖国のこのやきものを知るところとなり、沢山その種のやきものを作りました。リーチさんの初期の仕事のなかには瑞々しいスリップウェアの名品がたくさん残されています。リーチさんのやきものを通じて日本にはスリップウェアの種がまかれたのです。
 やがて濱田庄司さんを伴って帰英した折り二人はますますスリップウェアの虜になります。本に出ていた飾り皿などとはまるで違った種類のさらに雑器である上記のオーブンに入れたようなスリップウェアに出会うのです。これを濱田さんが数年後に持ち帰った10数枚が初めて日本に入ったスリップウェアであると思われるのです。

書き始めたこの話が何処に行き着こうとしているのかはぼくにも分かりません。
長そうなので続きはまた書きます。  
(03/4/10)


2.
 前回、日本におけるスリップウェアの受容を書いた部分があまりにせっかちに過ぎたと想いますので、今少し詳しく書いてみたいと思います。曖昧な記憶で書くわけにはいかないので各資料を照らし合わせながら少しづつ進めてゆくつもりです。

 柳宗悦の「スリップ・ウェアの渡来」(1933)によると彼が丸善の2階で1909年に出版されたLomax著の『Quaint Old English Pottery 』という本を見つけたのは1913年のことだそうです。この本は当時たいへん高価だったらしく、まだ学生の柳は大変にこころを惹かれながらもこれを買うことが出来ず、また同じくこの本を見つけていた富本憲吉も買えなかったといいます。しかしやがて富本は展覧会の売り上げで柳と二人丸善に行きようやくこの本を手に入れたのです。このときの様子を「富本が其大きな本を嬉しそうに抱えて持って帰る姿を今もありありと思ひだす。」と柳は記しています。
 この話の後日談は濱田庄司の「英国の軟陶」(1970)によると、富本は日本橋の丸善でこの本を25円で求め、このため奈良へ帰る旅費が不足してバーナード・リーチに借りに訪ねたのですが、これを見たリーチがすっかり興奮して、旅費は貸すから本はぼくに預けて置けと言ったとのこと。そしてこのことからリーチ初期のトフト・ウェアふうの楽焼が生まれたことは前述のとおりです。後にこの本は柳も濱田も手に入れたそうです。
 このロマックスの本を自分は未だ確認出来ないでいます。しかし柳や濱田の残した文章からすればどうやらこの『不思議な英国の古陶』という本で紹介されていたのはToftやSimpsonの手による飾り皿の類が中心であったように思います。リーチ初期のスリップウェアもまたトフト達のスタイルのものしか確認できないことからもそのように想像されます。ここにそれらと共に無銘の日用雑器であるオーヴンに入れるような鉢類が紹介されていたのかどうかははっきりとわかりません。
(03/4/23)


3.
 これは夢のようなお話なのです。スリップウェアについてのこの重大なお知らせをすることが出来るのを大変嬉しいことと想っています。

 大阪日本民芸館 2003/9/13~12/14  
 日本民藝館   2004/1/7 ~3/28
 豊田市民芸館  2004/6 ~ 8 予定

 以上の日程で『英国の古陶 ー スリップ・ウェアの美』展が催されることとなりました。スリップウェアについてはこの日記でも「スリップウェア物語」として4/10と4/23に少し書き始めていますし、また「やきものができるまで」のページでは自分の場合のスリップウェアの製作を実例に話を進めています。本来のイギリスの古作についてはお気に入りにリンクをつけている日本民藝館のページに写真と説明があるので関心のある方は御覧下さい。

 ともかく、この展覧会は日本民藝館のみならず各美術館や個人蔵の優品約140点を一堂に展示するという日本開闢以来いまだかつてない規模の展覧会です。

 さらにはこのスリップウェアがいわゆる民藝運動のひとつのシンボルであると言っていい存在にも関わらず、いままで小冊子的なものの他はまとまった図録もなかったのですが、所蔵各氏による無償のご好意と関係各位のたいへんな努力によって成立するこの展覧会を機会に今回「スリップ・ウェア図録刊行委員会」が組織され、装幀にも心を配った図録を刊行することになりました。展覧会の開催に次ぐこの快挙をぼく自身は大変な感謝と歓びを持って聞きました。定価3000円を予定する、限定わずか1500部数の図録です。ご入用の方は早々に予約されることをお勧めします。
(03/7/8)


4.
 友人からメールで教えてきてくれたのでかなり興奮してトップページにも大きく書いたのですが、「スリップ・ウェアの美 ~英国の古陶~」という番組が本日の深夜、正確には12日の午前1時よりNHKの「ラジオ深夜便」の枠で放送されるのだそうです。お話は東京駒場の日本民藝館学芸員杉山享司さんです。
 これは言うまでもなく13日に同名のスリップウェア展がいよいよ大阪で開幕するという事もあっての番組ではないかと想います。この展覧会とそれを機に出版される図録は関係各位と所蔵者の方々の大変な熱意と協力とでようやく実現する事が出来たのだそうです。この手のやきものの美しさがその生産地であるイギリスで認められるよりも先にこのはるか離れた東洋の小さな島国で認められたのはもうすでに80年も前の事なのですが、これほどの規模の展覧会も出版も実現するのは初めての事なのです。
 当地でも大切なものとしてしまい込まれるようなものではなく、普段の日常に当たり前に使われて壊れれば捨てられてという存在だったスリップウェアは現存するのもそれほど多くもないのかも知れません。ちょうど江戸期にまでさかのぼる土瓶や土鍋の蒐集が茶碗などの蒐集に比べてはるかに困難な事と事情は同じではないでしょうか。日本に入っているのはさらに僅かな数だったのでしょうが、それでもこのやきものに打たれたひとは少なくはなく、長年の間に相当の数が入ってきて大切に残されたのだろうと想います。それだけの歴史を経てようやくこの展覧会と出版が実現したのです。
 一般にはまるで知られていないスリップウェアですがそれだけに、この度の快挙を悦び協力を惜しまない方も少なくないとも聞いています。おかげでいくつかの雑誌などにも記事が掲載されるとの事なのでそれらについてはまた随時紹介したいと想っています。スリップウェアについての資料目録をいつかまとめる事が出来ればとも思っています。
 今日は冒頭に書きましたラジオのニュースが入りましたので取り急ぎ紹介させていただきました。
(03/9/11)


5.
 昨夜スリップウェアについてのラジオ番組が放送された。未だにそれほど広くは認知されていないこのやきものについて深夜とは言えマスコミがこれほどの時間を割くのはおそらく初めての事ではないだろうかという気がする。
 どういうものか見た事もないというひとに向かってラジオという媒体でスリップウェアを取り上げるのは非常に難しいのではないかと懸念していたが、日本民藝館学芸員の杉山さんにアナウンサーが聞くというスタイルのこの番組は果たしてどのように受け取られたであろうか。
 いったいどんなやきものなのかはイメージ出来ないだろうとは思うが、それでも日本人が当時大変な驚きと歓びを持ってこのやきものと出会ったという事などを今なお同じ喜びに溢れて杉山さんが熱を込めてやや興奮気味に語るのは十分伝わるそれなりにいい番組だったのではないかという気がした。

 生畑では山間のためにラジオの電波が来ないので、国道辺りまで出かけて車の中で聞こうと思っていたのだが、やはりこれはきちんと保存しなければならないと思い急遽京都の実家に戻りMDで録音した。45分掛けて45キロの山道を戻り45分程の番組を聞いてまたとんぼ返りしてきたのである。
 明日から大阪日本民芸館でいよいよスリップウェアの展覧会が始まる。大いに楽しみにしている。
(03/9/12)

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