6~10


 今日いよいよ千里の万博公園にある大阪日本民芸館でスリップウェアの展覧会が開幕した。これをどれほど心待ちにしていたことだろうか。大きな展示室の中に視界いっぱいにスリップウェアの優品がずらりと並んでいるのは実に壮観で、長年スリップウェアに思い入れてきた自分には全く夢のような風景である。何度も何度も写真で眺めいってきたものもほとんどが出ているし、また初めて見る思いがけない品も沢山ある。
 昭和二年に初めて柳宗悦がその著書『雑器の美』に日本で初めてスリップウェアを紹介して以後、今までも何度か数点づつあちこちで展示されてはいるにせよ、これほどの規模でこれほどの質の展覧会は日本で初めてであるのは言うまでもなく、あるいは本国イギリスでさえこの手のやきものの評価からするといまだかつてあったのかどうかという気がする。やはり柳が昭和八年の雑誌『工藝』のスリップウェア特集号で、いずれ日本にあるスリップウェアをまとめて展示したい、ということを書いて七十年の後ようやくこの展覧会が関係各位の努力で実現した事はなんともありがたい事だと感謝している。
 初めて百数十点ものスリップウェアに出会って、土や釉薬の事、紋様付けの手法や型の使い方などもひとつひとつ今作るかのように追いかけながら見る。この低火度のやきものには自分がやっている高火度の灰釉のものには望めない柔らかさと色の鮮やかさがある。
 また線の紋様の伸びやかさと穏やかさはどうにもならない決定的な違いだという気がする。夢心地ばかりでは居れない、こんなものを突き付けられては実作者としては恐ろしい気がする。息をのんだらそのまま息が止まってしまって息苦しささえ感じないではおれない。そしてまたそういう事さえ忘れて消えてしまい、やきものも我もなくひとつに融けあう不二境に心地よく時間を失うのである。
 なんと書いても十分ではないが、実に素晴らしい機会であると想う。この機会を逃してしまえばもう二度とは無い事かもしれない。12月14日までと期間は長いので関心のある方は是非逃さぬように御覧下さい。
 また同時に刊行されたこの展覧会図録も現地点での決定版といっていい素晴らしいお仕事である。定価3800円、限定1800部だそうなのでお早めに。
(03/9/13)


7. 
 大阪で買ってきたスリップウェアの図録を見ながらその美しさを何度も反芻している。思えば今までは実物を見たのはたかだか10数点程だろうか。また写真でさえわずか3,40点くらいの数かと想う。それが今では150点程もの資料が手元にあるのだからありがたい事だ。現地点でのこれは決定版的な刊行であり、スリップウェアに関してこれを凌ぐ出版は容易ではない事は想像出来る。
 スリップウェアを見ながらスリップウェアを作る。イギリス古作の本歌におおいに引っ張られながらもどういう物が出てくる事だろうか。すでに最高の物はあるのであるから、ここに新たに独力でページを加える事は簡単ではないが、本歌が実用を去って久しい今この仕事の意義は少なくないと信じている。
 未だに技術的に克服出来ない点もありなかなか難しいのだがなんとか少しでも美しい物を世に加えたいものだと願っている。
(03/9/14)


8.
 新年早々素敵なお知らせをする事が出来るのを嬉しく想います。長年スリップウェアに心をひかれているのですが、なかなか資料も見当たらないという状況の中で少しづつでもまとめておきたいものと昨年4月から断続的にスリップウェアについてはここであれこれ書き留めてきたのですが、その後大阪で大規模な夢のようなスリップウェア展が開催されました。また素晴らしい図録も出版されました。展覧会は明日からはいよいよ東京駒場の日本民藝館へと場所を移して開催されます。この歴史的な展覧会は必ずや大きな反響を呼ぶ事かと想います。
 さて今日のお知らせは日本民藝館ホームページのネットワーク民藝の会から「スリップウェア研究会」監修によるスリップウェアのホームページが出来たというお知らせがあったという事です。スリップウェアの歴史や制作技法、価値などについて大変わかりやすく丁寧な説明がされています。写真も見る事が出来ます。スリップウェア研究会の詳細については今のところよく把握していませんが、このホームページの発足は展覧会と図録出版についでの素晴らしい快挙です。スリップウェアの認知と評価を切に願っている自分にとってはこれら一連の動きは大変嬉しい事です。

 やきものや工芸の問題に心を寄せられる皆さま、ぜひこのホームページを御覧下さい。
http://www.slipware.jp/

 自分は自分として出来るやり方でますますスリップウェアのために仕事をしたいと願っています。
(04/1/6)


9.
 という訳で発作的に都合をやりくりして初日の当番を終えたあとバスに乗り早朝に新宿西口にほっぽり出されたのです。こんな時間にこんなところで何をしていいものかという戸惑いもありなんとなく渋谷へ行き、坂道を降りたり登ったりしてその辺を歩きまわりました。知らない街って面白いのです。今回は四ヶ所の目的があったのですがその順序はまるで決めてきていなかったのです。午前中にある古道具屋さんを訪ね、その後駒場の民藝館へ行くことにします。品物のほとんどはすでに大阪展へ6度も通って何度も見たものなのですがやはり場所が違い展示が違うというのはまったく違うものだという気がします。閉館まで数時間ゆっくり拝見しました。スリップウェアがひとを捕まえて離さない秘密のひとつは確かにあのリズムだなということを今日は深く感じたのです。あの紋様はかなり強じんなリズムで支えられていると想います。
 学芸員さんから「ホームページ見てますよ」などと声を掛けられ大いに恐縮しました。スリップウェアについてあんまりにも資料がないので出来る範囲でまとめておこうと思ってここに「スリップウェア物語」を書きはじめたらその後すぐに素晴らしい展覧会が開かれ、図録が出版され、ラジオで紹介され、さらにスリップウェア研究会による詳細なホームページが公開されるに至りました。これでもう今さら自分のようなものが不向きな仕事をしなくとも「ちゃんとした」ことは向こうにおまかせして、こちらでは「ごくごく私的な思い入れで言いたいことだけは言わせていただきますよ」という姿勢に移行することにしたのですが、こんなものを「ちゃんとした」側の皆さまに読まれちゃたまらないという気がしたのです。(苦笑)

 そして今度は芸術新潮の特集号がいよいよ明日発売日を迎えます。こういう一般に影響力の強い雑誌でこれだけの取り上げられ方をしたことはないのではないでしょうか。まさに機は熟したという気がします。極めて一部の人たちを夢中にしていたスリップウェアがとうとう広く一般に認知される日が来たのです。有難くそして嬉しいことです。ほんとうの発売日は明日なのですが昼頃にちょうど自分のいる時にそのお店に郵便で届き御店主と一緒にパラパラと拝見させていただきました。そしてやはり今日届いたという民藝館で一足先に求めてきました。まだパラパラと開いたのみで今からゆっくりと楽しもうと想うのですが、さすがに芸新だというだけのしっかりした仕事のようで一般向けのスリップウェア資料の決定版といってもよさそうです。自分など深く肩入れしているものにとっても、今まであまりに資料がなさ過ぎたので大いに得るところがあるはずだとちょっと興奮しています。このページを見てスリップウェアについて少しでも関心を持って下さった方、是非ともこの芸術新潮をお求め下さい。またとないチャンスです。「スリップウェアって何?」という方は是非書店で一度見てみて下さい。たくさん写真も載っています。
 残念なことに東京展は後4日間を残すのみとなりましたが、今度は愛知県豊田市で最後の展覧会が開催されます。詳細は本サイトのリンクからスリップウェア研究会のホームページを御覧下さい。
 折角来たのだからとあれこれ慌ただしく動き回り、今回は会いたいひとにも急なことだったので連絡もなしで失礼しています。いつものホテルは取れず今夜は赤坂からの日記です。
(04/3/24)


10.
 スリップウェアについてのあたらしい情報をここにお知らせすることが出来るのは嬉しいことです。

 ビデオ「英国の古陶・スリップウェアの美」の制作発売が決定しました。去年から大阪、東京、豊田と巡回している展覧会の会場で流されていたビデオを御覧になった方もあるかと思いますが、あのビデオをさらに増補改訂して日英両国に取材したものが完成したとのことです。作陶家柴田雅章さんによるスリップウェアの制作工程も紹介されているのだそうです。

 企画・監修 スリップウェア図録刊行会
 制作    株式会社みらい
 VHSビデオ  税込定価3800円 送料全国一律500円
 問い合わせ fax:03-3423-7582 e-mail: mirai@e-mirai.jp


 18-9世紀に作られたイギリスの古陶スリップウェアの歴史的な展覧会も愛知県の豊田市民芸館で開催されていますが、会期も残すところとうとうあと半月程となりました。まだ御覧になってない方は是非足をお運びください。ここが最後の開催地であり、これが終わればスリップウェアはそれぞれの所蔵者のところに帰ってゆく訳です。この会を見逃せばこれほど質量共に優れたスリップウェアを見ることが出来る機会はそうそうないことと思われます。会期は今月29日までです。


・ スリップウェア物語1~9
・ スリップウェア研究会のホームページ
・ 豊田市民芸館のホームページ

(04.8.9)


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