倶楽部貴船

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お菊人形 -おしまい-


 その時、
「おい、見ろよ、見ろ、何か出て来るぞ。ほれ、見ろよ、見ろ」
「おっ、さっきのチビだ。おい、こっちだ、こっちだ」
ぷくりと浮かんできたのは、お菊だった。
まっ白な顔のお菊を、男の子達は、砂の上に静かに寝かせた。

「きくちゃ、きくちゃ」
妙ちゃがとびついて、お菊の身体を揺らした。
「おい、しっかりしろよ。おい、目を開けろよ。おい、チビ!」
男の子達は、お菊の手をこすったり、足をこすった。
お菊をうつぶせにして、背中をたたいてみたりした。
お菊の口の中から、たくさんの水が出てきたけれど、お菊の息はもうもどらなかった。
お菊の手には、まあるい石が握られていて、あとでそれを見てみると、石には、水神 と書いてあったそうだ。

   × × ×

おばあちゃんは、
「はい、これでこの人形の持ち主だった、お菊ちゃんのお話は、おしまいだよ。
この人形はな、ずっと大切にされていたんだけどお家が今度、とり壊されることになって、私のところにやってきた、という訳なんじゃよ。
古い物には、いろいろな想いがあるんだよ」
おばあちゃんは、市松人形の髪のほつれを指でとかしながら、
「そういう物が心の中に育てられる人になってね」
とつけ加えた。


─完─




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