朝   は   和   食

朝 は 和 食

ガム騒動


◆ガム騒動◆





小学一年生の頃でした。

朝、教室に入ると俺の席の周りに人が集まってるのが見えて、何があったのかと思って行ってみると

俺の椅子の背もたれにガム がこびりついてた・・・。

もちろん、自分でつけた覚えはありません。というかつける理由自体が見当たらない。

また幼いせいか、周りにいるクラスメートたちは今学校についたばかりの俺がガムを噛んだと勘違いしていました。

「ガム噛んだんでしょ?」

「ズルイよねぇ・・・」


ズルイってお前、なんならお前の机にべっとりくっつけたろか?

教科書が入らないぐらい、かんだ後のガムを机の中に押し込めば

「うーれし♪」なんて言うのか?このバカ!



大体そんな離れ業なんか出来るかっつの。

「今来たばっかりでんなことできるわけねぇだろ!」って

幼いなりにも思いました。


「でも白メシ君じゃないかもしれないよ?」

「あ、チャイム鳴った」


そんな会話がされて、ほぼ一方的に犯人扱いされてました。

最後の「白メシ君じゃないかもしれないよ?」っていう意見、嬉しかったはずなんだけど複雑な気分でした。



いやだって当たり前の意見なのにたった一人しかこう言ってくれなかったんだから・・・。


そして先生が教室に入ってきました。女の先生です。

そしていつもどおり朝の会とやらが始まります。

この後の休み時間で俺はとにかくガムを処理するつもりでいました。

自分の席に付いていた以上、自分でどうにかしないといけない。

そんなことを考えていると、教壇の前に立ってる先生が突然顔をしかめて、

「なんかガム臭くない?」と一言。


そういわれてみればたしかにここら辺一帯が

青りんごくさいなぁ。




・・・って原因は

俺が今座ってる椅子にあるじゃねぇか!!



発生源を探してるのか、教室の中を歩き回り始めて・・・・


・・・そして、俺の席のあたりで立ち止まる。

そんなに俺の席周辺はくさいですか・・・


「白メシ君、ガム噛んでた?」

「いいえ」

おどおどしながらも答える俺。

いやおどおどもしますよ。

だって俺が一番困惑してるのにクラスメートから疑惑の念を抱かれてるんですよ?

ヘタな弁解したら逆効果ってこともある。


「ねぇ、ちょっと立ってみてくれる?」

そう言われて、立たないわけにはいかないですね。

ゆっくり立ちました・・・・できるだけ背もたれを見られないように。

しかしそんな気遣い空しく、あっという間に発見されてしまいました。


この日はたしか金曜日で、朝の会のあとは全校生徒が10分ぐらいマラソンさせられるんです。

だから先生はみんなを体操着に着替えさせて、校庭に行かせました。


俺はといえば言うまでも無く普段着のまま居残りです。

そして先生とマンツーマンというのも言うまでも無い。



外ではラジオ体操の音楽が聞こえましてね、いやぁーなんかもういろんな意味で遠い音楽のように聞こえました。


そして


「・・・ねぇ、学校で、ガム、噛んでた?」


ついに来た・・・・ 尋問の時間が。



「いいえ」

この日二度目の言葉を口にする。

「でも・・・イスにガムついてるよね?これ白メシ君のイスなんだから、白メシ君が噛んでたんじゃないの?」

たしかに・・・・小学一年生なら、噛んでたガムを隠そうとして、背もたれにつけてしまった、という可能性はゼロとは言えない。


言えないけど限りなくゼロに近いでしょう先生・・・。

「・・・・・」

静かに首を横に振ります。

「ホントは噛んだんじゃないの?今ならまだ、許せるよ?」

あれれ?すでに先生にまで犯人扱いされてるのか??


まぁここで無難な策として「噛んだ」と言えば、覚えの無い罪を着るかわりに軽く怒られるだけで済んだんですがね。

けど噛んでない以上、認めるつもりはありませんでした。


「・・・・・」
首を横に振ります。

二度目の首振りです。


緊張が極限状態の中での二度の首振り・・・。


これがマズかったですね。

とにかく先生は俺のことを犯人と決め付けてるもんだから、先生の言うことを否定し続ければなんとかなるかと思ってました。

ところが・・・。


「よし・・・じゃあホントにガム 噛んでないんだね?

否定し続ければなんとか・・・

「・・・・・」

このとき 首を振った方向は横でした・・・。


相手の言うことを否定し続けようと思い込んでしまってて、いきなり逆の質問に対応する余裕はこの緊張状態ではとてもとても・・・。


「しまった!」とは思ったものの時すでに遅し。

先生は尋問を終わらせようとしていた様子だったが、そんな様子は一瞬で消え・・・表情が微妙に険しくなった気がします。

もちろん、「あ・・・今のは間違いました」と言いました。


ただあまりのタイミングの悪さに余計緊張して

さらにおどおどした様子で言った記憶があります。


元から犯人と決め付けていた上での尋問。

そしてちょっとしたところでの不可解な返答。


先生からしたら

「ボロを出した!」とか思ったんだろうね。

もう何言っても聞いてくれそうに無いオーラを放ってました・・・。


「・・・・今まで先生に、嘘ついてたの?」

明らかにさっきまでと口調が違います。

「・・・・・・」

まさかの失敗で、緊張が限界を超えた。自分の口から言葉をだす余裕なんかなかった。

「本当は・・・白メシ君がガムを噛んでたんだね?」

振り出しに戻った・・・いや、最初に比べれば大いに不利な状況になっていた。

質問のしかたも「決め付けてる」感じになってるし・・・。


「だって白メシ君のイスについてたんだから、君しかいないもんね?」


今思えばとんでもねぇ理論ですね。

俺の椅子についてたから俺がかんでた?

俺がかんでたのを他のやつの椅子につけたらどうなってたんじゃい!と。


まぁでも当時はそんなことを思っても口に出せる状況ではなく、

このままではガム人扱いされてしまうので必死でした。

「・・・羽鳥君(友達)は、『白メシ君じゃないかもしれないよ?』って言ってました・・・。」

今更こんなこと言ってどうするつもりだったのかわからないけど、とにかくパニックになってたことは間違いないです。

もうなんにでもすがりたかったのかもしれません。


ここで先生はしばらくジッと俺を見て、

「それも嘘だね?」


俺はこのとき一度、間違って首を横に振ってしまいました。

【首を横に振る】 という行為をやたら注意するようになってしまっていて、

さらにこの極限を超えた極限状態。


「・・・・」



何を思ったのか

首を縦に振ってしまいました。

本日二度目の「しまった!」です。


(しまっ 「バシィン!!」

な、なんだ?

なんかを叩いた音がしたぞ?

あれ、俺なんで左のほう向いてんの??


び、ビンタされた・・・???

一瞬のことで、まさに何が起こったのか理解できませんでしたね。

てゆうかメチャメチャビンタの行動に移るまでが早かったです。


多分俺がどんな反応をしても

ビンタするつもりだったんでしょう。

「なんでそうやって嘘つくの!!」

ついに怒鳴り始めた先生。

まぁそりゃ目の前で嘘ばっかつかれたら怒りたくなるのもわかるんですが


こんな状況で先生を目の前に

嘘をつくような大バカタレがいるわけない、

ってのもわかってほしかったですね。


そんな小学校1年生から

Mに目覚めたりはしません・・・。


その後のことはもう覚えてないですね。

冤罪でビンタされたショックやら、結局自分で自分の首を絞めた愚かさからもうめちゃくちゃになってました。

しいて言えば泣いてました。





それは15分弱ぐらいの出来事で、マラソンを終えた生徒がわらわらと校舎に戻ってきてました。

教室にみんな戻ったとこ先生はみんなを席に着かせました。

俺は先生の横にいます。



そして「みんなに謝りなさい」といわれました。



何故?


実際は違うけど、ガムを噛んでたとしよう!

俺が、学校に来てガムを噛んで、自分の椅子の背もたれにこびりつけました それはもうべっとりと。

そんでなに?

俺が謝る?

誰に?

みんな??


意味がわかんねぇよこのスカタンが!!


「スカタン」だとかはもちろん言えなかったけど、

「・・・はぃ?」

と思わず聞き返してしまいましたね。

そして


「 み ん な に 謝 り な さ い 」


「はぃ・・・」


そしてみんなの前でちゃんとピンとたって

「学校で、ガム噛んで、ごめんなさい」

結局 何に対して謝ってるんだかが よくわからないまま謝りました。


ここで沈黙が流れました。

すると横にいる先生が俺の肩に手を添えて

「でも、みんなの前で謝ることってすごく勇気がいるよねぇ」

と教室のみんなに言いました。

それになぜかうなずくみんな。


ハハハ・・・ずいぶん面白い話だなオイ

クラスメートにせよこの女教師にせよ

俺を無理やり犯人に仕立て上げておきながら

今度は感心してくれるんだからなぁ。


まぁ先生は俺に気を使ったんだと思うんですがね。

けど無実だった俺を犯人にした張本人にどんなに気を使われようと何の意味もありません。


「噛んだね?」

やら

「それも嘘だね?」

と、見当外れなことを

自信満々に言い放ったやつに

何言われてもな・・・


でもこのときは何の怒りも感じなかったですね先生とかに対しては。

ただ怒りを感じたといえば、俺の席にガムをこびりつけたやつに対してですね。

もちろん永遠の謎です。


朝からとんでもない日でした・・・。


◆ガム騒動 完◆


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