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2005年09月07日
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カテゴリ: カテゴリ未分類
2000年3月31日(金)。

今日は中学校の校長をしている親父の定年退職の日である。
親父はこの日の深夜、まさに4月1日に日付が変わる時に、勤務している中学校の校門へ行き、酒を撒いてくるのだという。

お袋、妹もいっしょに行くという。
妹から「お兄ちゃんも来なよ」と言われたが、なにしろこの中途半端な立場である。
金も時間ももったいないし、今は自分のことに最善を尽くすことが親父の望むところだろうと思い、断った。

親父の教師人生は波乱万丈だった。

田舎の農家の次男坊である親父は、高校の成績優秀だったにもかかわらず、大学進学を許されず、高卒で就職するはずだった。
それが、受験直前の時期になって、大学受験を許された。それで受験したのが神戸大法学部だったというのだから、よほど賢かったのだろう。


そのまま浪人生活をしているところに、村会議員さんから声がかかった。
「おまえ、学校の先生をやれ」

それで2年間、大学の通信教育を受けて、教員免許を取得し、小学校の先生になった。

親父は高卒・通信教育のハンデを埋めようと、しゃかりきにがんばった。
だが、時に一生懸命になりすぎ、周囲と衝突することがある。
元々ひとこと多い性格も災いしたらしい。(息子に見事なまでに受け継がれているが。。。)

総じて町の中心校に配属されると校長や教頭、同僚と衝突し、小さな学校に飛ばされる。大抵小さな学校では一人で体育主任、教務主任、音楽主任。。。。と何役もやらなくてはならないのだが、こういう自分の好きなようにやれる環境だと嬉々として働き評価される。
そして、また中心校に戻るのだが、また衝突して飛ばされる。。。

親父の教師人生はこの繰り返しだった。

傍目には大変そうに見えるが、親父はそのB型気質(わたしもB型だが。。。。)を存分に生かした楽天的性格で、結構楽しくやってきたみたいだ。

普通左遷するときでも、上司はそれを本人にまともに伝えたりしないものだ。

とか言ったりするものだ。
ところが親父はこの上司の言葉をまともに、素直に受け止める。
「わしは請われてあの学校に行くんじゃ。わししかおらんからのお」
とか言って、よろこんで赴任する。。。。

それは偉大なる勘違いだったのだが、親父の教師人生の最後に、

という場面が巡ってきた。。。。

校内暴力で荒れる中学校への校長として赴任の打診だった。

小さな小学校の校長として、静かに教師人生を終えるはずだった親父の毎日が一変した。

なにしろ赴任初日から大変だった。いきなり学校に暴力団がやってきた。
親父は玄関で対応した。

前任の校長は、この暴力団を校長室に入れてしまい、そこで何時間も脅されていた。そんなことが何回もあって、ノイローゼになってしまっていた。

「新しい校長はおるか?」
「わたしですが。」
「おう、あんたか。あんた、校長になってから、うちにあいさつがないのう。礼儀ちゅうもんをしらんのか?」
「そういうあなたはどなた様ですか?あなたこそ、挨拶がないですが。」

こういう時、一歩も引くおやじではない。
「まあ、校長室へ入れろ。そこで話しようやないか」
暴力団はそう言ったが、
「名乗りもせん人間を校長室へ入れられますか。警察を呼ぶぞ」
と親父は一歩も引かなかった。

「警察?くそっ、それはやめてくれ。わかった、今日は帰る」
暴力団はそういい残して帰っていった。
親父は暴力団を追い返したのである。

次の問題は、生徒の事件続きですっかりやる気をなくした教師たちだった。
最初の職員会で、親父は先生たちに指示を出した。しかし、教師たちの反応は鈍い。1人のベテラン教師が皮肉交じりに発言した。
「校長先生、中学校は小学校と違います。それじゃ、生徒は信用しませんよ」

しかし、親父は引かない。にやりと笑って言い返した。
「それでは聞くが、生徒はあなた方を信用しているのかね。信用していると思っている人はいるのか?」

誰も答えられなかった。

「いないのなら、私の言うことを聞きなさい」

親父は生徒の中にもどんどん入っていった。
しかも、不良と言われた生徒に対してどんどん声をかけていく。

これまで、教師は不良を恐れるばかりで、誰も声すらかけなかったのだ。

ある日、万引きをした女生徒が校長室に連れられてきた。
この女生徒は万引きの常習犯だ。
親父の前に座った女生徒は、親父にしかられると思い、横を向いていた。

親父は微笑みながら女生徒に語りかけた。
「どうしたんぞ。また万引きしたんか?」
女生徒は答えない。親父は続ける。
「もうせんというとったのになあ。悪いことやりとうなったんかあ?」
女生徒は答えない。
「校長先生ものお、悪いことしとうなることあるんぞ?」
女生徒が、えっという顔をした。そして小さな声で言った。
「校長先生でも、悪いことしとうなること、あるんですか?」
「あるぞお」
親父は笑った。
女生徒が聞く。
「じゃ、なんで悪いことせんのですか?」
「校長じゃけんよ。校長が悪いことしたら大変じゃろうが。だからせんのよ」
親父は続けた。
「誰でも悪いことしとうなることはあるんぞ。みんないっしょなんぞ。ちょっとそれをがまんできるかだけなんぞ。悪いことしとうなったら、ちょっとがまんしてみい」

親父は不良を決してしからなかった。不良と同じ目線で話し合った。

しばらくすると学校が変わってきた。

ある日の父兄会の会合。多くの父兄の前でおやじが挨拶をし終わると、

ぱちぱちぱちぱち。。。。

と拍手が。
そして大きな男の声が。
「こら、みんな拍手せんかい。校長先生の話は実にすばらしい。これから校長先生に、みな協力せんといかん!」

声の主は、親父の赴任初日に来た暴力団の男。
この男、親父の毅然とした態度に感服し、いまや親父の最大・最強の応援団となったのであった。

ある日、親父が校庭を歩いていると、頭の上から女生徒の声が。
「校長先生~~~~~、こんにちはあ~~~~~」

見上げると、あの万引きの女生徒が教室から顔を出して手を振っている。

「おお~~~、がんばっとるかあ~~~」
親父も手を振り返す。

「はああ~~~い、がんばってま~~~す」
これがあの万引きばかりしていた女生徒であろうか。

学校は、すっかり明るくなった。生徒も、教師も、父兄も、地域も、生き生きとした学校に生まれ変わったのである。

親父の教師生活、38年の最後の2年間は、波乱に満ちた、しかし最もやりがいのある仕事だった。

そして、3月31日。親父退職の日。。。。。

親父は夜、校門に酒を撒きにやってきた。
そこには、
父兄や生徒、かつての教え子らが沢山来ていた。

「先生、長い間お疲れ様でした。ありがとうございました。」

沢山の人に囲まれ、親父にとっては最高の退職の日となった。


。。。。しかし、
この親父の退職の日が、私にとって再起の第一歩の日であった。

これから親父ののんびりした老後が始まるはずの、その日に息子はどん底。
なんという親不孝をしてしまったのか。

私はこのことを一生忘れてはならぬと思っている。





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最終更新日  2005年10月25日 04時28分58秒


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