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日常・・・
第7章 【報道命と安全命と金命】
「ロックが死んだのはお前のせいだ!」
ダイソンが激しく怒鳴った。
その怒りの矛先はカーディーに向いている。
「お前がきちんと守っていればロックは死ななかった!」
「俺はロックのボディガードじゃない。あれは仕方なかった」
カーディーが説得するように反論する。しかしダイソンは引かなかった。
「一緒にいたお前が守れなかったのは、お前の能力不足だろ!」
「だったらドローレムは?ほとんどみんながあそこに居合わせたじゃないか。ドローレムの場合はみんなの能力不足か?」
わけの分からない怒りを向けていたダイソンも、カーディーの正論によって黙り込んだ。
そこでやはり沈黙が降りる。
暗い校舎の狭い部屋、さらにはカーディーとダイソン2人きりというだけあって沈黙もやってきやすいようだ。
するとカーディーの耳についているイヤホンにロスソンの声が響いた。
『例の物を見つけた。えっと・・・職員室か?教務室?どっちか分からんがその手の部屋に来い。用心してくれ』
「・・・用心してくれ」
ロスソンはそう言ってトランシーバーから口を離した。
そしてソニーとカランが無事かどうか確かめている無線機を見た。
その瞬間ソニーが顔を上げる。
「大丈夫です。まったく問題は無いようです」
低く響くソニーの声がさらに響き渡ったような気がする。
ロスソンはそう思いながら、2人が囲む通信機へと近づいた。
「後は・・・これが長距離用だと祈るばかりだ」
ティッシュボックスほどの大きさの通信機の本体を持ち上げる。
この形態からして少し古めのものだと見当がつく。
「ダイソンとカーディーが来たら、トラックに戻って確かめてみよう」
ロスソンがそういうが、グリーが口を挟む。
「いや、まず一旦ここで試してみないか?」
「ダメだ。これは多分バッテリー式だろ。バッテリーが少なくっていて、ここで使った途端ブチンだったら嫌だろ?」
「それはトラックでも同じことじゃないか?」
グリーはさらに反論する。しかしロスソンも自分の意見を主張した。
「しかしな、この学校は恐らく防電波の壁を使っている」
防電波の壁とは、2030年代に急増した内側に仕掛けた爆弾を外側からトランシーバーの仕掛けを使って爆発させるという
犯罪手口を防止するために作られた壁である。以降公共施設は基本的に特殊なこの壁とガラスを使っているのだ。
もちろん、緊急用で無線を使う場合に備え、無線は固定式ではなく持ち運べるようになっているのだ。
ロスソンはそこの所の説明は省いたが、グリーにも伝わってもいいはずだ。
が、グリーはまた反発した。
「1回だけ試さないか?」
「おいどうした?何で今日に限って自分の意見を主張したがるんだ?」
未だ体調が優れないノートルを支えているオーウェンが割り込んで訊く。
全員もっともな質問だと思った。
仕方なくグリーが答えようとしたとき、急に扉が開いた。
全員の銃口がそちらに向く。
カーディーとダイソンが驚いた顔をして立っていた。
「・・・お前ら人に来いと言っといてそれはないだろ」
カーディーがそう言って、事実上騒動の終わりは持ち越された。
「くそ~・・・」
壊れたバスの座席で、ハンドレックスがルーシーに傷の手当をしてもらっていた。
先ほどから彼は怪我をしたかすり傷を、異様に気にしている。
「おいおいルーシー。ちょっと雑なんじゃないか?ほら、この傷が・・・」
といってハンドレックスが膝の擦り傷を示した時、ルーシーがその傷に向かって思い切り消毒液をぶちまけた。
たちまちハンドレックスの悲鳴が上がる。
「どう?」
「どうってお前!傷に消毒液を噴射するのはいけないことだぞ!!」
ルーシーはしてやったとばかりに冷たい笑みを浮かべ、バスを降りた。
1人残されたハンドレックスはフロントガラスがあった所から飛び降りると、近くで話をしていたジョンとジェームスに近寄った。
気付いたジェームスがハンドレックスに話しかける。
「これからどうするか案はあるか?」
ハンドレックスは突然の質問に戸惑ったが、答えは出ていた。
「ここでじっとするか歩くしかないだろ。バスもバンも破壊されたことだ」
バスはもちろん、バンも使い物にならないものばかりになっていた。
ジョンはハンドレックスの案を深く考えているようだ。
「やっぱりそれしかないのか・・・」
腕組みをするジョンに、ジェームスが話しかけた。
「それしかないな。歩くしか・・・しかし、休憩地点もそう簡単には見つからないだろうし、食料や水だって少ない」
ジェームスの言った現実に、ジョンとハンドレックスは顔を下げた。
すると突然、バスの上に立って遠くを眺めていたウィルが叫んだ。
「おい!」
「なんだ怪物人間」
ハンドレックスが嫌みったらしくいってみるが、ウィルは真顔を崩そうとしなかった。
「どうしたの?」
ずっと隣にいるエレナがそう尋ねる。
するとウィルは右腕の爪を思い切り南の方角に示した。
「見えるか?」
全員が南の方角に目を凝らす。
しかしあいにく月の光だけが頼りの暗闇の中なので一行に真相が見えない。
「見えない・・・何か見える?」
「見えないぜ、凶暴女」
ルーシーの問いに、ハンドレックスは嫌味をつけて返した。
先ほどの消毒液の件のことを根に持って“凶暴女”と呼んだのだ。
しかし“凶暴女”は肘で腹を突いてきた。
まさしくその名がふさわしいとハンドレックスは思った。
「なにが見えるんだ・・・えっと・・・なんといったっけ・・・ウィリアム・・・?」
ジェームスが自信なさげに言う。
「ウィルよ」
「そうだウィル。一体なにが見えるんだ?」
エレナのサポートでようやくジェームスはきちんと質問できた。
「町・・・だ」
答えたのはウィルでも、“ウィリアム”でもなかった。
ジョンであった。
ジェームスが疑問符をつけて問い返す。
「町って・・・よく見えるな」
ジョンが目をこすりながら説明した。
「多分やつらの実験の作用だろう。暗闇でもしっかりと前が見える」
エレナは「私は見えないわよ」といった顔で目をこすった。
「ところで・・・」
ウィルが咳払いをしながら切り出す。
「町・・・があるということはどういうことだ?」
ジョンとジェームスが同時に顔を見合す。
「町があるということは・・・食料が調達できるな」
「そしてもしかしたら一生暮らせるかも」
ジョンとジェームスが右手をぱちんと合わせあったが、ウィルは首を横に振った。
「それもあるかもしれないが、もっと重大なことだ」
一瞬沈黙が走る。
しかし一番初めにルーシーが気付いた。
「・・・どうして私達の目的を知ってるの?」
尋ねられたウィルはハンドレックスを爪で示した。
「俺?何かした?」
「いや、何もしてないわ」
ルーシーはハンドレックスに軽く視線を向けてすぐにウィルに向ける。
「これは確かね」
いまいちはっきりしない他の面々はルーシーに尋ねた。
「一体その町が意味するものとはなんだ?」
ジェームスの問いに、ルーシーは得意げになって答えた。
「カナダは前面空襲にあって全域が壊滅したはずよ。今まで通ってきた所のように建物はほとんど柱が残るだけだったわ。
だけど、町があるって事は立派な建物がたくさんあるということよ。つまり空襲を受けていないの」
ようやくジョンが気付いた。
「カナダに面している2つの地域は両方アメリカ・・・片方はアラスカだけどカナダと同じく空襲を受けた・・・
ということは・・・こっち側の立派な町並みは・・・」
ジョンは笑顔でウィルに目を向けた。
「そうだ・・・『無事でしたか?』」
ウィルは10年前に国境を越えアメリカの入国するための人向けに作られた看板を丸読みした。
街灯の下を計17名の追撃部隊は歩いていた。
先頭を行くのはコーラス含めた現役特殊部隊員2名、続いて11人の民間人・・・その中でもデモ隊のリーダーのデール、
そしてその仲間のマークがいき、その次には久しく銃を持っていないという感じのゴーレムが続き、残りのデモ隊の面々が続く。
そして民間人の中で最後尾を行くのがダニー、リーム、ジャック、チードルといったフルTの者たち、
それを挟むように両脇に特殊部隊員2名が歩き、殿を最高司令官キャメロンとその補佐、ホーキンスが務めている。
「みんな!休憩はいいか?」
先頭のコーラスが尋ねる。
正直、ダニーやチードルはへなへなだったが、若い面々はまだまで元気でどんどん進んだ。
それに気付いた脇の特殊部隊員がコーラスに叫ぶ。
「コーラス!5分休憩だ!」
それに同意したコーラスは、堂々とストリートの真ん中で休憩しろと言い出した。
民間人の3分の1が地面に倒れこむ。ダニーも疲れに耐え切れずについ座り込んだ。
一方デールを初めとしたデモ隊の面々4名にリームにジャック、それにゴーレムは立って息を切らしている程度だ。
さらに特殊部隊員たちは駆け足で最後尾のキャメロンの元へと走る。
作戦を立てているようだが、民間人にとってはものすごい体力だと改めて実感させられる。
座り込んだダニーにリームが駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
「ああ大丈夫だよ」
年齢差はあるが、同じアナウンサーとしての立場だ。
それにこの状況とその性格なので、リームはダニーに敬語さえも使っていなかった。
まぁ許容範囲としてダニーは許すことにして、リームが持ってるマシンガンを見る。
ダニーがもってるのはホルスタータイプの拳銃である。
「あはは、なんか武器の差がありすぎだ」
リームが拳銃に目をつけて笑いを作った。
いつもは自分の役目を横取りするなど生意気な奴だったが、こういうときには何か頼りになる。
少し横に目をやると、チードルとジャックがなにやら言い争っているように見えた。
チードルの手には小型のビデオカメラが握られている。
しかもそれは強力な電波を発生させて、生放送にも使える優れものだ。
その優れものを見た途端、チードルとジャックの口論の理由が分かってきた。
生放送しろとチードルが言っているのだ。
で、それをジャックが反対している。
リームもそれに気付き2人で視線を送っていると、チードルと目が合ってしまった。
しまったと2人は目をそらすが、チードルの方はジャックを放置しこちらに向かってきた。
「おい、頼むから・・・」
「こんな状況で報道はきついぜ」
リームが言う内容を予想しズバッという。
それを聞いたチードルは一瞬引いたようだが、諦めずに押し通す。
「お願いだから・・・放送すればこの状況を世間に見せることができる」
ダニーはこの際思い切って質問することにした。前から思っていたことを。
「なぁチードル。何でいつもそう現場で・・・切羽詰った状況を報道したがるんだ?」
ダニーが聞くとリーム、それにこちらにきたジャックがチードルの方を向く。
さすがのチードルもしどろもどろする。
あまり考えていなかったのか・・・それとも言いたくない内容なのか・・・
そしてついにチードルが口を開いた。
「私のモットーは何か分かるか・・・?」
それはダニーに向けられていた。慌ててダニーが答える。
「いや、知りませんが」
「報道命、だよ」
ダニーはその言葉を聞いて背筋が凍る思いがした。
自分のモットーも報道命・・・同じモットーをもった人間がここにいた。
しかしダニーは自分を上回る報道精神を持ったチードルが怖くなったのだ。
少なくともチードルよりは報道の事は分かっていたはずだが・・・熱意では完全に負けていた。
ダニーは無言でチードルが手に持っているビデオカメラを奪った。
「俺が放送するといった時に放送する!」
チードルの顔がにわかに明るくなり、ジャックとリームの顔が険しくなった。
ダニーも強気に物を言ったが、実は何かがこみ上げていた。
デールは近くにあった自動販売機に近づいた。
早速コーラを購入した。缶を開けプシュッという音が響いた直後に口の中に液体を流し込む。
炭酸飲料独特のはじけた感じが口の中に広がる。
しかし飲み込んだ後にべたべたとした感触が口の中に残った。
汗をかいたときに飲むものではない、と実感させられる。
次にペットボトルのミネラルウォーターを購入して腰のベルトにかけたとき、後ろから肩を叩かれた。
驚いて振り向くとマークがそこにいた。
「ようデール」
話しかけられたデールはそれに応じる。
「よう。で、何かあったのか」
デールが訊くと、マークは声を潜めて話し出した。
「今になってだが、もしリッカーと対峙したら生き残れないだろ・・・俺達」
「急に何言ってるんだ。リッカーは民間人と特殊部隊員の区別はつけてないんだ。同じ武装をしているんだから
あっちかが先に殺される可能性だってあるんだぞ」
デールは説明したが、最後のほうで自信をなくし付け足した。
「・・・もちろん、こっちが先に狙われる可能性だってあるんだが」
目の前のマークはひどく肩を落としている。
デモ隊のときはあんなにはしゃいでいたが、今ではそれも嘘のようだ。
周りを見ると、心なしか誰もが落ち込んでいるように見えた。
デールは自分ができる最善のことをしようと思い、自動販売機に大量に金を入れ込んだ。
キャメロンはホーキンスやコーラス含む特殊部隊員の面々と話し合っていた。
「戦力は必要だが・・・さすがに皆疲れたか・・・」
キャメロンが追撃部隊の民間人に目を向ける。
座り込む者と、立っている者がいるが基本的に疲れていそうなことに間違いはなかった。
「私も疲れた」
キャメロンがそう言うと、部下の隊員達もこくっと頷いた。
緊急だったんで武器のことしか頭になく、水筒を忘れてきてしまったのだ。
するとホーキンスが辺りを見回す。
「いつ何が出てきてもおかしくない状況だ。皆に油断するなと伝えた方がいいと思うぞ、コーラス」
ストリートを真っ直ぐ一本歩いてきている。脇はオフィスビルが建ち並んでいた。
リッカーが身を潜めているといっても過言ではないだろう。
キャメロンは長年の勘を研ぎ澄ます。
しかしこの数年は司令官ということで感覚が鈍っていた・・・そう簡単には呼び起こせない。
「すいません」
キャメロンがうつむいていると突然声をかけられた。
顔を上げると、ペットボトルを持てるだけ持った青年が立っていた。
確か名前はデール・・・デールだったはず。
「なんだ?」
代わりにコーラスが対応する。
デールはコーラスを見て居心地の悪さを感じたようだが、すぐにペットボトルを地面に置いた。
「あの・・・疲れているようならこれを・・・」
ペットボトルを地面に置いたデールは、すぐにそそくさと元いた場所に戻ってしまった。
キャメロンがあっけにとられていると、コーラスがまとめておいてあるペットボトルに手を伸ばした。
「彼は・・・デールはデモ隊のリーダーだったんです」
キャメロンはほう、といってみる。コーラスはペットボトルを3人の同僚にほうり投げながら続けた。
「どういう風の吹き回しか、彼も良い所があるようです」
ホーキンスが小さく笑みを作る。
「まぁ、彼らのデモ隊がいなければこの追撃隊は作れなかったな」
特殊部隊員たちの間で静かな笑いが起こる。
コーラスはホーキンスとキャメロンにペットボトルを投げた。そしていきり立った。
「よし、そろそろ出発です。皆、位置につけ」
コーラスが言う。
その声は少し前より意気揚々としているようだった。
そして特殊部隊員たち全員 ―キャメロン含む― がさっきより表情が明るかった。
これでさっきより雰囲気は明るくなるな・・・キャメロンはそう思った。
しかしそんな矢先だった。
先頭に向かって歩いたコーラスが、横から何かに衝突されて反対側のビルのガラスに突っ込んだのだ。
「なんだ!?」
「どうした!?」
「あの特殊部隊員が!」
ガラスが割れる音に、誰もが注目した。
そして全員の銃を握る手に力が入る。
その時、その場所から何かが放り出されてきた。
「うわ!」
デールがそう叫ぶ。
血にまみれたコーラスが飛ばされてきたのだ。
キャメロンは直感的に思った。
こんなことができるのはあいつしかいないと・・・
「撃て!!!」
一番その場所に近い位置にいる特殊部隊員が声を張り上げて叫んだ。
「撃て!みんな撃つんだ!!」
キャメロンはその声でマシンガンを連射した。
すさまじい音が連射音の独唱だったが、すぐに同じ音が重なる。
ホーキンスも、デールも、その近くにいる男も、TVアナウンサー ―名前は度忘れ― も持っている銃を撃ちまくる。
20秒ほどそれが続いた所で、ホーキンスが声を張り上げた。
「やめだ!撃つのをやめろ!」
その声の後も何人が撃ち続けていたが、次第に銃撃の音は静かになった。
すると突然撃てと叫んだ特殊部隊員が何かに倒された。
それは見れば誰もが判断がついた。
「リッカーだ!!」
誰かが悲鳴をあげる。
するとその声に反応したリッカーが声の主の元へと跳んだ。
一気に跳躍して、叫んだ男を一気に爪で切る。
「マーク!!」
デールがそう叫んだのにキャメロンは反応し、精一杯の声で叫んだ。
「皆逃げろ!!早く逃げろ!!」
一斉に一団が走り出す。
キャメロンとホーキンスは殿につき、今にも追ってきそうなリッカーを銃撃で牽制した。
リッカーは先ほど襲われた若者 ―デールが“マーク!”と叫んでいたので、恐らくマークという若者 を
ようやく口の中に入れ込むと、首を2,3回横に振って雄たけびを上げた。
その声は超音波にまで達しそうなものすごい金切り声で、逃げる者たちを少し遅らせる。
一同は追撃部隊ということをすっかりと失念し、いまや逆に追われる立場になっていた。
デールは混乱しながら走っていた。
たったさっき目の前でマークが殺され、悲しみに浸る間もなく走っていた。
時折後ろで特殊部隊員が放つ銃弾の音が聞こえるが、気にしない。
自分は精一杯生きるということを心の中で誓っていた。
「追撃部隊?」
デスクでリッカーに関するニュースを見ていたトミーが声をあげる。
その目線の先にはアンソニーが一枚の紙を持っている。
「そうだ、追撃部隊だよ」
トミーがアンソニーの持っている紙をひったくる。
内容は「戦闘準備の整った隊員はホールに集合するように」といったもので、文末に byロビー・キャメロン とあった。
最高司令官からの命令だ・・・これはいかなくては。
「いや、もう出発してるよ」
「荷物を準備しろ」とアンソニーに言う前にそう言われた。
「なに!?」
トミーは拍子抜けしてしまった。
「何で俺達にこのことを言わなかったんだ?まったく最高司令官は」
そう愚痴った時、アンソニー言いづらそうに告白した。
「これは・・・実は1時間前にもらった用紙なんだ」
トミーは相棒の言葉にさらに拍子抜けしてしまった。
同時に疑念も抱く。
「どうしてだ?」
「いや・・・これを訊いたらトミー・・・あんたは絶対にこれに加わる。そうだろ?」
だてに十年、コンビを組んでいるわけではないアンソニーの的確な言葉にトミーは言葉を失いかけた。
しかしどうにか言葉をつなげる。
「行くさ。何で行っちゃあまずいんだ」
「これだよ」
アンソニーは懐から別の用紙を出した。
黄色い紙で、メモ用紙の派生版ほどの大きさである。
トミーはその用紙を受け取ると、まじまじと見つめた後、アンソニーの顔を見た。
「“飛行部隊指揮官推薦”・・・これって」
「そう。あんたがその指揮官になれる推薦用紙だ・・・最高司令官からのね」
アンソニーは若干恥ずかしそうに言った。
しかし、トミーの心はそう簡単には変わらなかった。
指揮官に推薦されるのは嬉しい・・・アンソニーの気遣いも嬉しい・・・
だけど、トミーにはそれ以上の何かがあるような気がしてならなかった。
答えを出すために・・・彼は決断した。突然デスクを立ち、部屋を出て行く。
そんなトミーをアンソニーは当然の如く追ってきた。
「おい、どこに行くんだ!」
必死に追うアンソニーに対し、トミーは振り返りもせずに答えた。
「ハンガーだ!」
アンソニーはそのことばに目を丸くする。
「おいトミー、今止めたばっかじゃないか。それに推薦用紙だってみたろ?今行って死んだり、
最高司令官の前にのこのこ現たりする命令違反で推薦は取り消しになっちゃうんだぞ!いいのか?」
トミーは足を止めた。走って追っていたアンソニーは突然のストップにトミーにぶつかりかける。
そんなアンソニーに振り返って言う。
「推薦の取り消し?嫌だとも」
「だったら行かない方が・・・」
「いや」
説得を続けるアンソニーをトミーは片手で制した。そして言う。
「今は1人でも多くの人を救う。リッカーを殺しに行くんだ」
アンソニーは続けるトミーを黙って見つめる。
「リッカーを殺せば・・・俺達は英雄的存在になれて昇格間違い無しだろ?」
トミーはそういった。
するとトミーも「そうだな」と頷いた。
「じゃ、ハンガーに行って早速飛ばすか」
「分かった」
アンソニーは今までと打って変わり、トミーの先を歩いた。
トミーはほっとしていた。
命令違反をした所で英雄的存在にはなれない・・・それにアンソニーが気付かなかったから。
デレック・アローンの携帯電話が鳴った。
それを向かいのソファで部下のジョーンズが見つめている。
電話を終えたデレックに、ジョーンズは聞いた。
「なんだったんです?またですか?」
「ああそうだよ、ジョーンズ。また高額で抗ウイルス剤が売れた」
満足そうに言うデレックに、さらにジョーンズは問い詰める。
「どこの企業ですか?」
「グアム諸島に避難している日本企業からだ」
そのデレックより20歳近く年上のジョーンズは、思い切って訊いてみた。
「・・・あの・・・無料で抗ウイルスを配るというのはしないんですか?かなりの数を作りましたし」
その言葉で、デレックは小さな笑みを浮かべた。
「ハハハ、あのな、ジョーンズ。大量の抗ウイルスを作ったのは全て売るためなんだ。だから、配るなんて出来ない」
一瞬欲に走る人間の素顔が見えた気がした。
ジョーンズが下を向いていると、デレックが立ち上がってジョーンズに告げた。
「ジョーンズ・・・世の中は金なんだよ・・・金が命なんだよ」
まさしくデレック・アローンという人物を象徴する言葉だった。
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