2002/09/18
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 駅のホームへ向かう階段を降りていると、赤く光りながら飛び回るものを見た。明滅する携帯ストラップの類かと思ったが、それはフラフラと飛び回り、おそらく線路に落ちた。「え、何今の、幻覚?」と騒いでいる女性が一人いた。それは不思議な光景であった、にもかかわらず、線路をちらと見ただけで、私はホームのいつもいる場所へと歩き出した。「虫に火でもついたのだろう」と、どうすればそうなるかの過程はともかく理屈で割り切りながら。時間のことも考え、少し疲れていた頭はいつもと同じ行動を選択していた。やはりあれは不思議なことだったな、今日一日あれについて考えてみるか、と思ったことを思い出したのは復路の駅で階段を降り始めた時だった。気にもとめて、とめられていなかった。
 で、何だったんだろう。虫に火が付くような虫除けを設置するはずはないし。
「ネバー・エンディング・ストーリー」という映画は、馬が沼に沈むところと、竜に少年が乗って飛び回っているところを覚えている。
 何から書こう。
 私はこの物語が好きだ。先日触れたように、児童文学に親しんでこなかった私にとって、「ほんとうに感動出来るか」は疑問だった。たとえそれがどれほど素晴らしい話であっても、だ。疑っていたのは自分の感性、歳を「とってしまった」自分への不信だった。が、感性は鈍っていなかったというより、物語の力強さに、実にはっきりと感動出来た。もっと早く読んでいれば良かったとは思わない。今だからくみ取れることもある。
 誉め言葉はつまらないな。
 バスチアンが傍観者から一歩踏み出してファンタージエンに入り込んだところで、きっと読む気が半減するだろうと思ったが、そうはならなかった。半ば悪役までこなしてくれるバスチアンに比べると、どこまでもいい子でありすぎたアトレーユは少し魅力に欠ける。だがもっと好きなのは、人狼グモルク、色のある死グラオーグラーマンの二人(二匹)。
 文章がどんどん小学生の読書感想文になっていってる。



「そりゃそうだがね、」グモルクは答えた。「死に方がまったくちがってんだ、ばかのおちびさんよ。だってな、おれは虚無がここに押しよせてくる前に死ぬ。だがおまえはそれに呑みこまれるんだからな。これは大ちがいだぜ。その前に死にはてりゃ、そいつの話はそこで終わりになるが、おまえのはずっとはてしなくつづくんだぜ、虚偽(いつわり)としてよ。」


 完結していない物語というものは、不幸ながら永遠の生命を持った、持ってしまったもので、登場人物たちは作られた世界の中である時点から前へ進めないで足掻いている。「はてしない物語」にはそういった物語達にも救いが示されているが、ただ一時の気分から放り出された物語たちは、数え切れないほど、あらゆるところに転がっている。夢なら無意識だ。ファンタージエンには人間がそれまで見た夢が絵となって貯まっている場所がある。夢なら責任はない。しかし自分で始めてしまった物語は自分で決着をつけなければならず、やむなく放り出した物語も背負いつつ生きていかなければならない。
 誰のことだか。


「おや?」バスチアンはつかえながらいった。「ぼく、──ぼく、おまえは石になってしまったと思ったのに。」
「そのとおりです。」ライオンは答えた。「毎晩夜になると死に、朝になると蘇るのです。」
「ぼく、もう永久にそのままかと思った。」バスチアンはいった。
「そのたびに、永久なのです。」グラオーグラマーンは謎めいた答をした。


 これだけ虚構に没頭出来る物語を書いておきながら、虚構に没頭することの危険をも書いているのは、読んでいる最中は「そりゃないよ」と思うが、まあ当然のことを言っているまで。竜の出てくる話を楽しむことは出来るが、実際に竜に乗ることは出来ない。しかし、竜の出てくる夢を見ることや、竜の出てくる物語を自分で創り出すことは出来る。実際、夢の質が多少変わったのか、昨日の夢でクジラに噛まれた。手の甲から少し血が出ただけだった。「見渡す限り全部海という場所で水中にいる何か巨大な生物の背のようなものの上を歩きながらすぐ脇でシャチやクジラが飛び跳ねるのを見ている」という風な夢はこれまであまり見た覚えはない。私は夢をかなり覚えている方だ。少し危ないが結構楽しいので一時的な変化ではないことを望む。
 つまり、この本は今の私にとってかなり重要な一冊であり、そして、好きだ。
 読んでる最中はもっともっと多くの文章になるはずのことを、思っていたはずなのに。
ミヒャエル・エンデ「はてしない物語」上田 真而子 佐藤 真理子 訳(岩波書店)
「はてしない物語(上)」(岩波少年文庫)
同(下)





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Last updated  2002/09/18 12:50:35 AM
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