2003/01/06
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 このシリーズ二冊だけ読みのがしていた。

・安岡章太郎「愛玩」
・久生十蘭「母子像」
・幸田文「雛」
・中村真一郎「天使の生活」
・庄野潤三「蟹」
・森内俊雄「門を出て」
・尾辻克彦「シンメトリック」
・黒井千次「隠れ鬼」

・干刈あがた「プラネタリウム」
・増田みず子「一人家族」
・伊井直行「ぼくの首くくりのおじさん

 森内俊雄のみ既読。津島、干狩、増田の女性三並びは読んでいる最中は感心したものだが、よく考えると、なんだか当たり前のことを言いたいような気がする。だから悪いというわけではないが、感動はない。
 黒井千次「隠れ鬼」が面白い。冒頭「夜の食事が終わると妻は家出した」。妻は電車に乗る。駅に停まるごとに、見知った顔と出会い、さながらクラス会のように人はどんどん膨れ上がり──、その後家に残された夫と電話で尻取りをする。尻取りである。「骸骨」「杖」「絵巻物」「鑿」「ミルク」と続く尻取りである。選ばれる言葉に深い意味があるわけでもない。晩飯を食べた。妻の気配がない。夫と息子が二階を探す。「あの電車に乗ったかもしれないね」と息子。はたして乗っている妻。次々と続く邂逅。尻取り電話。ただそれだけの話なのに、書き出してみるとこんな話が小説として本当に成立するのかどうか疑問なのに、やはり面白いと感じたことは動かない。
 だけど一番印象に残っているのは、庄野潤三「蟹」の中の一場面。


「お兄ちゃん、何取ってるの?」
 ルノワールの部屋から浴衣を着た女の子が二人、顔を出している。声をかけたのは上の女の子だ。
「カニ」
 男の子は返事だけしておいて、石垣の前をそろりそろりと歩いている。
「見せて」

「いやだ、あたし」
 女の子はろくに見もしないで、手で押しのけるようにする。
 男の子は「何だ」という顔をしてもとの場所へ戻った。小さい弟もそのあとから戻って来る。
 しばらくすると、
「お兄ちゃん」

「何取ってるの?」
「カニ」
 男の子は振り向かないで返事する。
「見せて」
 男の子は空き罐を持って行く。
「いやだ」
 そばまで来ると、また押しのけるようにする。
 男の子は「何だ」という顔をしてもとの場所へ戻る。呼ばれると行かないわけにはいかないから行く。そうすると、「いやだ」と云う。まるでこちらが悪いことをしているみたいに云う。何が何だか分りゃしない。そういう顔をして戻って来る。
 しばらくすると、また、
「お兄ちゃん、見せて」
 セザンヌの部屋の父親は「女め」と思う。だが、彼は自分の息子に「放っておけ」と云うことは出来ない。


 別に間違って同じ行を何度も書き写したわけではない。

「戦後短篇小説再発見〈4〉漂流する家族」(講談社文芸文庫)





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Last updated  2003/01/06 07:55:31 PM
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