2003/04/09
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時事新報社の需めに応じて、本紙の夕刊に連載小説を執筆する事になつたが、新聞小説は私に取つて初めての経験である。様子が解らないので、これから先先の出来栄えをあらかじめお請合する事は六づかしい。毎日書いて行く内に、作中の人物が勝手にあばれ出して、作者の云ふ事を聴かなくなつたら困ると、今から心配してゐる。どうにも手にをへなくなれば登場人物を鏖殺し(みなごろし)にして、結末をつける他はなからうと考へてゐる。


 どうも本の薄さから見ると登場人物皆殺しが実現してそうだと読み始める。作者が以前高利貸を主人公にした小説を書いたら知り合いの高利貸で「あれは俺のことだろう」と言って腹を立ててきたものがある云々という話から今度の小説の主人公はどういう男がいいかという話に移ったと思ったら突然会話文が挟まり「もう小説が始まったのである」などと人を食う。
 そんな小説はそのまま大したことも起こらない、居候書生の目から見た日常がトテトテと語られる。おや、というところで「再び作者の言葉」という章が始まり、おや、と思っていると、どうやら連載していた新聞が潰れてしまい、作者が登場人物を皆殺しにするまでもなく小説がちょん切れたらしい。これは解説でも触れられているが、それならば本にする時点で続編を足していくらかでも終了させようと試みればいいものを、「再び作者の言葉」を延々と続かせ、とってつけたように「登場人物の其後」を書いてはいるが、「再び~」が13頁なのに対しこちらは7頁。居候の家が火事で燃えるという、綺麗に片付けるも何もあったものじゃない終わり方。登場人物の一人オットセイというあだ名の教師は「再び作者の言葉」の中の言葉遊びを引きずったまま海中に行方不明になってしまうというこれはもう何が何だか分からない以前に無茶苦茶なことになってしまっている。
 しかしこういう気楽で無意味な小説が今はとてもありがたい。先日、遠藤周作『海と毒薬』を読み、このようなどうしようもなくつまらないものが名作気取りで何故長く残っているのだろうと気分が悪くなり、罵詈雑言と恨み節しか出ない感想は自分を害するだけだと抑え、酒見賢一『墨攻』中島敦『李陵』再読で口直しをし、『行帰り』でどうにか持ち直したと思ったところでふと、読むものがないのに気付いた。ないことはない、いくらでもまだ本は転がっているのに、どれもピンと来ない、めんどくさい、読みたくない。いつまで経っても優先順位の低いままの本が目のつくところに並べられたままである。低いままならいいが圏外にまで落ち、もういっそ捨ててしまえと思えるものもある。
 一、二番目に近いためかえってあまり寄らない古本屋に福武文庫本がいくつか増えており、やはり読みたいものは突然無くなりはしないのだなと安心した。


「飛行機がうるさいねえ。だから飛行機の夢を見ていた。下から一生懸命に見ようとするんだけれど、音ばかりして、どうしても見えないんだ。それで段段身体が固くなって、何だか口のまわりが鳥になった様な気がした」







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Last updated  2005/02/05 01:00:46 AMコメント(0) | コメントを書く


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