2003/05/06
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 短編集。『心臓』『酷愛』『先生の下宿』『消えた青年』『夜の水泳』『終の住家へ』『闇の力』『姉弟』『蛇王』
 この解説を写せば感想はいらない。


 ・・・・・・特に小川氏の短編は、呼んだその場では一体モティーフは何なのか。何を書こうとしたのか、というようなことがうまく呑み込めない。しばらくして、ある場合には十日くらいたってから「あれはよかったなあ」という印象が浮かんでくるのである。つまりその作品が一個の存在として心の内に残って消えないのである。このことは誰にも見える小川氏の小説の特徴のひとつで、それは氏が、描こうとするものをしっかり掴んで、視覚的にもよく見て描いているからである。この力が頭抜けて強いのである。生れつき自分の単語、言語でしか言えないうえに、そのフレイズとフレイズの合わせ目を暈かしこんで滑らかに整えようとする気がなく、裸のまま並べて、それでいいとする潔癖性が、生理的にあるらしい。従って解りにくくなって小説としては損だが私は好きである。彼の一軒筋も話もない、描写だけの短編の意味するものは、或る状況に於ける人間の生まの姿横棒理性でも思考でもなく、その原始的な重い姿の直写ということである。・・・・・・
 ・・・・・・画の展覧会などを見ている場合、ある画の前に来て、特別に惹きこまれて敬服するということはないのだが「この画には感じがある」と思うことがある。それはただの直感で、別にハッキリしたことを指摘できるようなものではないし、それを口に出せば感じとして間違いになるのだが、とにかく作者の描こうとしている気持ちがこちらへ快く伝わってくるという気味合である。小川氏の短編の場合にもそれがある。私は彼のある小篇を読んで、彼の描いた鳥は飛んでいる、しかし確かに何者かに両脚をたばね縛られて飛んでいる、というような暗い印象だけを受けたことがある。


 解説・藤枝静男。
 昭和53年発行。集英社文庫。





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Last updated  2003/05/07 12:02:54 PM
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