2004/03/14
XML
カテゴリ: 海外小説感想
 チェコスロヴァキアの作家。1931年生まれ。ビロード革命(1989年)までは発禁作家として、その作品は地下出版、海外出版でしか読まれなかった。と書いてある。


「この国の生活も結構面白いよ」僕は言った。「作家っていうのはちょっとばかし冒険家みたいなとこがあるんだ。静かさが作家を退屈させ、秩序への順応は作家をだめにする。だからこの国にいると、ときどき探偵小説のなかにいるみたいな気がしてくる。ライトを消した車、尾行、家宅捜索。そればっかりじゃない。僕が友人の葬儀に出かけると、隠しカメラ・・・・・・、とはいっても、たいして隠されてもいない隠しカメラが僕を写すんだ」

『火曜日の朝──センチメンタル・ストーリー』


 そう、作者がモデルの主人公は不自由な境遇をそれなりに楽しんでいる、祖国への愛情とともに(祖国の政治体制への愛ではなくて)。しかしそれは海外から得られる印税や演劇の上演料を貰えているからこそ出来る態度だ。小説家としては楽しめるかもしれない。厳しい国の状勢をその目を通してみれば、どこか牧歌的な楽天的風景に見えてくる。


「どうしてあんなことしたんだ?」
「ママがぼくを閉じ込めたからさ。それにパパを怒らせたかった」
「パパは、また、ぶつぞ!」
「そのほうがいい」
「どうして?」
「パパ、また監獄行きだもん!」
 ペジーチェクの父親はもう何度も刑務所に入っていた。最後に入ったのは一年まえだった。表向きの職業は月給千八百コルンばかりの病院の看護婦だったが、実際の職業は仲買人である。彼もやや夢想家であり、詩人であり、もっと突っ込んで言えば、要するに「ペテン師」だった。
 世が世なら、大企業か大商人になっていただろうと自分では思っていた。が、そんなことはない。世の中がどんな世の中でも、やっぱり彼は「ペテン師」だっただろう。

『月曜日の朝──ペテン師物語』より


 部分を見れば、母親の支配から逃れて一階下のテラスに飛びこんで来て血を流す子供は深刻な状況にあるけれど、この話はずっと喜劇として書かれ続ける(そして実際笑ってしまう)。その温度差、えっ笑っていいのかなという気分が湧き、読みながらとまどってしまう。
 ところが作者はそんな自分にしっぺ返しすることも忘れない。『金曜日の朝──病院雑役夫と挿入された物語』では、一時的に病院雑役夫となった主人公は、病院の現状の残酷さを目にし、それを自分なりに表現しようと、息を引き取る妻と、それまで妻を省みなかった夫の老夫婦についてのセンチメンタルな一編の物語を記して婦長に渡す。だが婦長はそれを読み終えても、一言の感想すら漏らさず、病院の現実を諭すだけだ。婦長にとってはちょいの間働く姿勢だけを見せに来てる外国では著名な作家、作業の合間には一人で本を読んでいるイケ好かない夢想者にしか見えないのだ。


「これ、本当に、あたしがいただいていいの?」
 彼女は紙の束をさした。
「もちろんさ、君のために書いたんだから!」
 それからターニャは箱のなかにしまう前に紙がくしゃくしゃにならないように注意ぶかく紙を封筒のなかに収めた。
 そのあいだ、僕が断固としてここから出ていく今年の暮れまで、あと何日、勤務が残っているかを計算していた。
 そしてそのあいだにも一階上では天使のような看護婦ヴィエラが死のカクテルの予備を僕のために調合している。
 また、そのあいだに僕たちの下の階の倉庫にはビーブル氏が忍び込み、まだ持ち去られていない最後の綿の包みを盗んでいる。
 また、そのあいだに背後の控え室のなかでは、ふとっちょのミクサ氏がほとんど無限の勤務時間の真っ最中に睡眠を取って生気を養っている。
 また、そのあいだに僕の周囲の世界はよりよき明日を目指してまっしぐらに進んでいる。
 「これ、本当にありがとう」
 ターニャが言った。

『金曜日──病院雑役夫物語と挿入された物語』より


 最後、『日曜日の朝──奇人・変人物語』で、洪水が起こり水浸しになった家から流れてくる宝石箱を女にとってやろうとした時「あたしがなんでこんなもの欲しがるのよ、みんなぬれてるじゃない!」と答えるが女が好きだ。


国書刊行会 1998年 単行本





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2004/03/14 11:12:49 AM
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Comments

nobclound@ Vonegollugs &lt;a href= <small> <a href="http://hea…
Wealpismitiep@ adjurponord &lt;a href= <small> <a href="http://ach…
Idiopebib@ touchuserssox used to deliver to an average man. But …
HamyJamefam@ Test Add your comments Your name and &lt;a href=&quot; <small>…
maigrarkBoask@ diblelorNob KOVAL ! why do you only respond to peop…

Profile

村野孝二(コチ)

村野孝二(コチ)

Keyword Search

▼キーワード検索

Archives

2026/09
2026/08
2026/07
2026/06
2026/05

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: