2005/02/28
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 新書の感想はいちいち書かないつもりだったけど、面白かったので。
 著者は脳の研究者だが、学術的なややこしい話はなく、標本に必要な動物の脳を集めるのに駆けずり回った若き日のことが面白く紹介されている。でもよく考えると(考えないでも)、動物の死体から脳を取り出す光景は、研究者以外の人にとってはおぞましいものに違いないないのに、血生臭さをあまり感じないのは不思議だ。ウミガメの卵を大量に持ち帰り(今のように動物に関する規制が厳しくなかった時代のこと)、人工孵化させたウミガメの子供を解剖して研究するくだりなど、膨大な量の死が描かれているのにもかかわらず、ショックはない。研究のために死んでいく命を軽く見ているつもりはないけれど。動物の死に私は少し冷たいのか。暖かい面もある。研究を終えて生き残った亀は動物園に寄付されてるし、研究所に持ち込まれてきた、生まれつき脳の障害を持った犬は後に作者の家で飼われることになる。
 なかでもとりわけ面白かったのは、副題にもなっている、キリンの首をかついで電車で帰った話。その前にアシカの話。昭和28年、ラジオのニュースで動物園のアシカの急死を知った著者は、すぐさま行きがけに鋸だけ買って山の上にある横浜野毛上動物園に駆けつけ、一人でアシカの死体の頭を解剖して脳を取り出してフォルマリンに漬け、電車に乗って東大医学部まで帰った。その後同じ動物園からキリンが亡くなった報せを受け、今度は脊髄と脳との研究の為に首ごと貰い受けることになったが、研究費もろくに出ない時代であり、タクシーも使えず、また電車で巨大なキリンの首をかついで帰ることになった。幸い以前の時のように一人ではなかったので、なんとか包みの中を駅員や乗客に悟られることなく帰り着いた。不審に思った駅員が中身を見たら驚くどころの騒ぎじゃないだろうと想像すると、可笑しい。と書いてみたら、よく考えると(考えないでも)おぞましい話にも聞こえるのに、むしろ爽やかに読めるのが筆者の力か。ただ事実を述べているだけなのだけというのもすごい。この話が小説になったら、荒唐無稽すぎるし、何かの暗喩と受け取られてしまうだろう。
 あまりにも脳、脳と出てくるから感覚がマヒしていたけれど、よく考えたら(考えないでも)とんでもない題名だ。


中公新書  1997年





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Last updated  2005/03/01 12:45:47 AM
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