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こえめ
です。![]()
王様の怪我は、魔法医師の力で、どうやら回復に向ったようですが
リカムはどうなる? 薬草のお薬は本当に効くのか?
目次は ここに あるよ。この上にもあるかも。
【カーラ29】
部屋の中では、薬草を煎じ詰めるコポコポという音と、
それをかき混ぜる音が続いていた。
時折り魔法医師が、なにが呪文を唱えるこえも聞こえる。
窓の外は夕日に赤く染まり、
ねぐらに帰る鳥たちの連なりが見えた。
カーラはソファーの上で、
リカムの額の汗をぬぐってやりながら、
今は何もする事ができない自分に、苛立ちを感じていた。
「出来ましたぞッ!」
魔法医師が小走りに、小さな椀を持ってきた。
カーラがうつぶせのリカムを、背中に注意しながら抱き起こし、
薬が飲みやすいように支えた。
魔法医師が、リカムのきつくとじられた唇をこじ開けるようにして、
その苦い薬を飲ませようとするが、
椀を傾けるそばから口の端に流れ出てしまう。
顔色は、熱があるにもかかわらず
ますます蒼白になってゆくようだった。
「私がやりましょう」
カーラはそういうと、
魔法医師の手から椀を取り上げ、みずからの口に含んだ。
「姫様、なにをッ……?!」
カーラはリカムの顔に向き合うように
座りなおし、唇をかさねた。
少しずつ、少しずつ、何度にも分けて、
その苦い薬を、カーラは口移しにして
リカムに飲ませた。
魔法医師は驚いた顔のまま、
ベッドの用意をはじめた。
個室のベッドに移されたリカムの部屋に、
ジイドたちが心配そうに様子を見に来たが、
今は何もしてやれる事は無いと分かると、
仕方なく宮殿に戻っていったが、
カーラは暫らく様子を見るからと一人残った。
薬草を取りに、人間界まで行ってきた疲れからか、
カーラはうとうとしていたが、
リカムのうわごとで目を覚ました。
「そちらは危険です、姫様……蛇が……」
(リカム。こんな時にでも、なお、私のことを案じてくれるのですね)
カーラはリカムの顔をつくづく眺めた。
薬草が効いているのか、顔色は大分よくなっていた。
だが、まぶたは未だきつく閉じられ、
振り向けばいつもそこにあるのが当たり前の、
濃い色の瞳は、その下に隠されている。
うわごとを繰り返す唇は、
わずかに震えているようで、
カーラは思わず手を触れた。
その瞬間、言いようのない思いが、カーラの心を駆け巡った。
(リカムを失いたくない……!)
それは兄のように慕うというよりも、もっと強い感情だった。
そして、心の奥底でずっと前から芽生えている感情でもあった。
だが、身分という囲いに阻まれて、
また、自分に課された役目を全うする為に、
それまで気付かぬ振りをしてきたのだ。
いや、気付かぬ振りとういよりはむしろ、
そのことに気付くことを恐れていた
といったほうが正しいだろう。
カーラは、運命というものの、残酷な仕打ちに
おののくように、リカムに伸ばした手を引っ込め、
従順な従者の顔を、ふたたび見つめた。
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