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こ い こ う じ
オトメゴコロ
オトメゴコロ
―だんだん好きになって そしてだんだん恋になる なにもかも 忘れられなくなってる―
「本当にあたし、どうしちゃったんだろう…。」
此の頃のあたしは、一体…一日に何回?
この台詞を呟いているのだろう?
ついこの間までは「あたしは一生独身で通すんだからーーーーーっ!!」
なんて、息巻いていたのに…。
あの例の宴の日に、危うく権少将と既成事実を作らされる
あわやというとこを助けてくれた高彬に求婚されて…
右大臣家の四男で
将来性があって
バカがつくほどの真面目だから、浮気なんてしないだろうし
妻はあたし一人だけだと言ってくれてる
この先変な男とムリヤリ結婚させられるよりはマシかもしれない
…なんて『オトメゴコロの打算』ってのもあったのだけど
高彬が、子供の頃からずっとあたしの事を想ってくれていた…だなんて
その気持ちが女としては、その…凄く嬉しかったのよね。
掌に落とされた接吻と、あの優しい笑顔に射抜かれてしまったなんて
我ながら単純だな…と思うけど
あの日以来、高彬の事を一日中考えてしまうようになったり
あたしのところに訪れてくれるのを、気づいたら心待ちにしちゃったり…
『筒井筒』だった筈の高彬に、明らかに今までとは違う感情を抱くようになってしまった。
あれから一月以上が経ち、庭は藤の花が終わり
杜鵑花や唐葵なんかで彩られ始めていた。
もうすぐ夏になるのね…。
そんな庭を簀子縁から眺めながら、寝転がってみる。
「今日は、高彬は来てくれないのかな…。」
ほぼ無意識に呟いてしまった言葉。
「えっ?呼んだ?」
「へっ!?」
庭先から返事が返ってきた事に驚きながら、反射的にガバッと起き上がり
見下ろせば、当の高彬本人がそこに居て…
あたしの鼓動が、跳ね上がりそうな程に高鳴っていく。
「あ、あれ…来てたんだ…。」
嬉しさとは裏腹に、なんだかどうしたらいいのかわからなくて
思わず素っ気ない態度をとってしまう。
「う、うん。融のところに用事があったもんだからね。」
高彬は薄っすらと赤くなった頬を隠すように、俯き気味でそう答えると
階を上ってあたしのすぐ隣に腰を下ろした。
すぐ傍に高彬の体温を感じるようなような気がして、
なんだかドキドキしてしまう。
「…庭を通ってここまで来るなんて、珍しいわね。」
「うん…。ちょっと、考え事してたのもあったからね…。」
高彬はそう答えたすぐ後、ハッとしたように慌てて
「そんな大した事じゃないから…。」と付け加えた。
…何かあったのかしら?
「ねえ、何かあっ…。」
「瑠璃さんも、一緒に庭に下りて池まで行ってみない? 杜若とかだと、ここからは見えないでしょ。」
あたしの言葉を遮るかのように高彬が言う。
お堅い高彬にしては、らしくない言葉だったけれど
それだけ、この『考え事』に触れられたくないのかもしれない。
何があったのか、ちょっと気になるけど…
「ねっ。」
あの時と同じ笑顔を向けられて
「…うん、そうね。」
と、思わず答えてしまっていた。
庭に降り立って、池のほうに行く途中
紫陽花のつぶらな花びらが、ちらほらと開いてきてるのを見つけた。
「もう、紫陽花が咲き始めてるのね。」
「あと少ししたら、見頃になりそうだね。」
「もうそろそろ梅雨になるのか…。どうりでここ最近、雨がよく降る訳だわね。」
なんて呟いたその矢先…
ポツ・・・ポツン・・・
「えっ?雨…?」
頬に雨粒を感じたかと思ったら、その粒はすぐに大きくなって
あたしたちのところに降り注がれた。
「やだ、戻らなきゃ。」
慌てて駆け出そうとした瞬間、あたしの手は高彬の手に取られた。
掌から伝わってくる熱に気を取られて
一瞬、雨の中にいるという事を忘れてしまいそうになる。
「急ごう、瑠璃さん。」
「う…うん…。」
なんだか高彬の顔がまともに見れなくて
俯いたまま…心ここにあらずで返事をする。
手はしっかりと繋いだまま、二人して階のほうへ駆け出した。
あたしの鼓動はますます跳ね上がっていって
指先から高彬のところまで伝わってしまうんじゃないかって、思わず心配になってしまう。
そんなに遠くまで来ていた訳ではなかったので、階まではすぐに辿り着いてしまった。
急いで雨を凌げるところに逃げ込む。
「……。」
「………。」
サー・・・ サー・・・ サァー・・・
沈黙している二人の間を雨の音だけが静かに響いていく。
「…あっ、ごめん…。ありがと…。」
あたしは、そう言って繋がれた手を引っこめようとすると
それを阻止するかのように高彬はその手を強く握り締めて、自分のところに引き寄せた。
そして真剣な眼差しで、あたしをしっかりと捕えていく。
「僕が結婚して、一生添い遂げたいと思っているのは
今迄も、これからも、瑠璃さん、ただひとりだけだからね。」
一言一言を区切るように告げられた言葉と
あたしを真っ直ぐに覗き込む黒鳶色の瞳に
呪文をかけられてしまったのだろうか…。
あたしの胸が、苦しいくらいにドキドキいっている。
顔が血が昇り、頬が火照っていくのが自分でもよく判る。
なんだかクラクラして、足元から崩れてしまいそうになる…。
「これだけは、何があっても変わらないから…。」
そう言って、高彬があたしを抱き寄せようとしたその時
「瑠璃さまー。瑠璃さまぁ~。」
絶妙なタイミングで
あたしを探している小萩の声が簀子縁にまで響き渡ってきた。
高彬とあたしの体が、反射的にパッと離れる。
「…なんなのよ…小萩…。」
「あっ、やはり高彬さまも御一緒でしたか。」
忠義者の小萩は、高彬も一緒だということが分かると
その場にすっと控えて
「右大臣家からお使いが参られまして、いそぎ高彬さまに口頭でお伝えしたい事があるとのことです。」
と高彬に伝える。
「ウチからのお使い?」
「はい。こちらで取り次ぐと申しているのですが、高飛車な物言いで…。」
「あぁ…。きっと母上のお使いだと思うけど…何かあったのかな?」
高彬はちょっと苦笑すると
小萩に「わかった、すぐ行くよ。」と返事をする。
「瑠璃さん、ごめん…。今日はこれで失礼するよ。」
あたしのほうに向き直った高彬は
目が合うと、頬を赤くして恥ずかしそうに笑って言った。
「う…うん。また…ね。」
あたしの頬も熱くなってくる。
渡殿に向かって歩き出した高彬と
見送るために付いて行く小萩の後姿を見つめながら
高彬の掌の温もりを
あたしの手を強引に引き寄せた力強さを
真っ直ぐ覗き込んだ眼差しを
思い出していた。
紫陽花の虹色の花びらが、雨に打たれながら揺れている。
あたしのオトメゴコロも、この雨の所為で揺れていた…。
(おしまい)
色
の部分は原由子さんの『あじさいのうた』から部分引用
◇あとがき◇
この作品、実は自身初創作だったりします(汗)
あたしの大好きなジャパネスクのファンサイト
『らぶらぶ万歳サークル』
内で年4回開催されている『競作作品大会』に初めて出品したものを少し修正しました。
○年間生きてきましたが…自分に文才が無いなんて事は判りきっていたこのあたしが…まさか二次創作SSを書く日が来るとは。。。
人生何処で何があるのか、まだまだ分かりません(汗)
二次創作をもう少し書いてみたい…と思うようになった事が、このブログを立ち上げるきっかけにもなりました。
高彬が三条邸に十日間来られなくなる前日くらいを想像しています。
右大臣家からのお使いって、守弥かな?大尼君の事を伝えに来たのではないかと…(ヲイ)
高彬にどっぷりと嵌ってしまった、可愛らしい恋する瑠璃を目指してみたのですが…如何だったでしょうか?(滝汗)
しかし、設定も強引&突っ込みどころが満載&色々なところがアバウト過ぎる作品だよなぁ…。
(読点の位置や、小萩の台詞にも自信がありませんっ 汗っ)
高彬ってば、庭に浅沓を忘れていってましたね…(汗)
― 黒駒 ―
2009.07.15 脱 稿
2009.08.01一部改正
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