この視点の日々

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novel 過去の抜けた青年

Forget you-1章「過去の抜けた青年」

目が覚めると、いつもと別の場所にいた。

理解には数秒かかったが、どうやら病院の中のようだ。
腕に点滴の針が刺さっている。
入院しているようだが、原因が思い浮かばない。
ものすごく頭が痛いので、大方、どこかに頭をぶつけて気を失ったのだろう。

ほんの少しだけ顔を上げて周りを見回す。
親と妹がいた。
意識を回復したのを見て、ナースコールのボタンを押している。
気づかなかったが、右足を骨折していた。固定されている。


「身体の方にはもう異常は無いでしょう。骨折を治せば退院できるでしょう。」
20分後、医者のその言葉で安心する。なんだ、家族も心配してムダだったんじゃん。

「しかし・・・少しだけ質問してもいいかな?」
医者が意味深な話し方をした。

「あなたの名前は何かな?」
『金岡 元章(もとあき)です。』

何を言ってるんだこの人みたいな目で見る。


「元章くん。あなたは昨日、何をしていたか思い出せますか?」

「え、えっと・・・。」

必死に記憶をたどる。
しかし、たどっても思い出せない。
医者と家族が「やっぱりか、」みたいな顔をする。

「それでは、あなたの一番最近の記憶はなんですか?もちろん事故以前の、ということですが。」

もう一度記憶をたどる。
親友の顔が思い浮かんだ。

・・・・
 「今度入ってきた1年生、テニス部に入ってくれるかな?」
 『たくさんいるんだし、心配しなくても入るだろ。』
 「まぁ、そうなんだが・・。そういえば知ってるか?このクラスに転校生がくるんだってよ。」
 『へぇ。で?』
 「女子らしいぜ。かわいいといいよな。」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・

『・・・高校2年4月の始業式・・・だと思います・・。』
急に弱気になる。どうしてなら、今の窓の向こうでは雪が降っていたからだ。

「そうか。本当のことを言おう。今、君は大学1年生の2月だ。」


意味がわからない。
頭が混乱してきた。
しかし、少しずつ整理をしたところで、ある言葉が浮かぶ。




『俺は・・・・記憶喪失なのですか?』



医者がうなずく。


「君の場合は、自動車事故のショックでの一時的な記憶障害だろう。高校2年生から今までの約3年間の記憶がないんだね。しかし大丈夫だ。このタイプの記憶障害は、何かの拍子に記憶が戻る事が多い。再発も皆無だ。」

その後の医者の話はほとんど聞いていなかった。
キオクソウシツ。たいがいドラマでしか出ないようなこの障害に自分がなってしまうとは。


ベッドに戻る。とにかく自分のいろんな持ち物を見ていた。できるだけ記憶を戻すきっかけを探していたのかもしれない。
しかし、いくらがんばってもきっかけはつかめない。いや、もともと3年間の空白があったのかすらわからない。
テスト中に昨日の勉強の内容を思い出すのとは訳が違う。勉強したのかすら知らない状況なのだから。

「あせらないあせらない。お医者さんもそう言ってたでしょ。」
まるで他人事のように妹の美由紀が言う。いや、実際彼女の中では他人事なのだろうが。

「3年間記憶無いって事は、わたしまだ14歳なの?やだーw。」
そろそろ本気でムカついてくる。昔からこいつは嫌な事を言う人だが、まさか17歳でも変わってないだなんて。

家族には医者が事前に言っておいたようで、驚く様子はほとんど無かった。

・・・・
 「事故のとき、脳内出血を起こしました。可能性は低いのですが、身体・精神・記憶に何らかの障害を持つ可能性も考えておいてください。」
・・・・

奇跡にも身体には異常は無かった。しかし身体の代わりに記憶を失った。普通の人なら「身体を失うよりマシだろ」と言うかもしれない。
そんな事は無い。身体を失ったことは無いからわからないが、記憶を失うことはものすごく辛い。


今まで自分のやってきた事がリセットされるのだから。


テニスで全国大会に行った? 俺は全国大会に行ってない。
希望の大学に現役で受かった? それは俺ではない。
車の免許を取った? 俺は試験をした覚えは無い。

全部「俺じゃない自分」のやった功績だ。自分なのに俺じゃない。その気持ちがすごく嫌だ。


・・・とここまで考えたところで頭痛がひどくなったので考えるのをやめた。これ以上考えたって、スパイラルにはまるだけだろう。まったく都合のいい脳である。


しばらくして、知らない夫婦が入ってきた。俺の親とたいして年齢は違わないだろう。
「元章さん、無事でしたか。」

適当に返事するが、正直誰だか分からないので話を続けようにもできない。しかし、女性の方は見覚えがあるような気がした。



誰かに似ている。



その人は重要な人だった気がする。



忘れてはいけない人だった気がする。



その様子に美由紀が気づいたのか、
「高2の始業式までしか覚えてないって言ったから、まさかとは思ったけど。お母さんの方とかアヤちゃんに似てるのに。」

「アヤ」。その名前が脳をかすめた気がした。





あとがき

何かベタですいません_| ̄|○
記憶喪失にもいろんなタイプがあるみたいですよ。

5~6章ぐらいまでいきますかね。たぶん。

・・・というかまだ結末を考えてない上での発車です。_| ̄|○


…さあ、その「アヤ」って誰でしょうか?(ダマレ

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