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この視点の日々
番外編novel 事故の真実
番外編 「事故の真実」
「ねぇ、海に行きたいな。」
付き合って2年目の綾が言う。
『こら待て。時間を考えろよ。』
時計を見ると夜の9時半。
彼女のバイトが終わってから車で迎えに来るのが俺の日課になっていた。
今もバイト帰りの車の中だ。
「いいじゃん。海行きたいの。うみー。」
どうせ帰っても何もする事ないし承諾。
行ったのは車で20分ぐらいの海岸。
10時近い上に冬なので誰もいないし、ものすごく寒かった。
どうする?ジャケット貸す?と聞いても、
「いいの。このままで。それよりもっと海に近づこうよ。」
彼女にはロマンティックに見えるのかもしれないが、はたから見たら完璧な心中だ。
誰もいなくて本当によかった。というかこんなに寒いのにどうして大丈夫なのか聞きたくなる。
「昔ね。海で溺れた事があったの。」
突然彼女は言う。
── 12歳の頃、家族で旅行に行ってね、皆で海に泳ぎにいったの。
しばらく泳いでいるうちにね、誰もいない場所を見つけたの。
「うわぁ、プライベートビーチだぁ」とか言ってたんだけどねw
実はそこに人がいなかった理由は、潮の流れが複雑で、遊泳禁止地帯だったからでね。
でもそんなこと知らないで泳いでいたら・・・突然波にのみこまれちゃったの。
助けを呼ぼうにも遊泳禁止地帯に人がいるはずも無く、死ぬんだなって思ったわ。
そしたら知らないお兄さんが助けてくれて、
「このまま海岸まで連れて行ったら君は一生、水が怖くなっちゃうだろ?だから支えててあげるから自力で泳いでみ。」って言ったの。
その人のおかげで水が怖くならずにすんだって訳。
「名前も何も知らないけど、海に来るたび彼のことを考えるの。」
その話を聞いてから、自分は考えた。
俺に綾は守れるだろうか。
その人みたいにカッコよく助けなくても、彼女のピンチに自分は助けを出せるだろうか。
急に自分が情けなくなってきた。
「自分を犠牲にして恋人を助け出す」とかいうドラマはよくあるが、自分にそれはできるのか?
帰りの車で。
「ごめんね。突然。思い出話なんかしちゃって。」
『そんなことないよ。むしろ君の新しい一面が見れた。』
「何よそれ!?」
もしものときなんて考える必要はない。
その時はその時できっと守って見せるから。
ドンくさい自分だけど、自分なりにきっと助けてあげるから。
「ねぇ、前方の車、おかしくない?」
急に彼女がマジメな顔をする。
確かにおかしい。
ふらつきが激しい。いかにも酒酔い運転だ。
・・・突然、その車がこちらに近づいてきて・・・・・・
『・・・っ・・大丈夫か?』
右足がハンドルとシートに挟まれて、身動きが取れない。車内はぐしゃぐしゃだった。
「う・・・・・・」
彼女の方を見る。
愕然とした。
フロントガラスの破片が刺さって大量出血している。
必死になんとかしようとした。
しかしどうにもできない。
右足が挟まっているため、彼女の顔に触れるか触れないかぐらいしか指が届かない。
携帯も衝突のショックで、どこかに飛んでいってしまった。
夜の11時に海岸通りを通る人もゼロ。
衝突した車の運転手もいつの間にか消えている。
当て逃げだった。
耐えられなかった。
自分の横でだんだん彼女が弱っていくのを。
守らなくちゃと思ってるのに守れないことを。
そしてなにより
こんな事になったのは自分のせいだということに。
俺には綾は守れなかった。
守ってやると決心した直後だったのに。
彼女のいつも使っているラベンダーの香水のビンが割れている。
車の中にラベンダーのにおいがあふれていた。
隣で弱る彼女がいるのにどうもできない。
そして自分も意識が遠くなっていく・・・・
しかし、最後に声を聞いた気がした。
「ひ・・・ろ・・あき・・・・」
死ぬ間際の彼女も同じことを思っていたのだろうか。
「そういうことか。いや、悲しい事をいちいち思い出させてすまなかった。」
『大丈夫です。』
ここは警察署の中。記憶が完全に戻った俺に事情聴取をしていた。
案の定、向こうは酒酔い運転だった。
「逃げ出したのも確かだが、落ち着いたところで警察と救急車を呼んだのも彼だ。」
彼もできる限り綾を救出できるように手伝ったそうだ。それがせめてもの罪償いと思ったのか。
そんなことどうでもよかった。
俺の中では彼は「殺人者」でしかなかった。
一度彼は家の前まで来たことがあった。
俺は会うことを拒絶した。
そしたら彼は「いいんです。それだけのことをしてしまったのですから。」とだけ言い、二度と現れなかった。
事情聴取の帰り、刑事さんに話をして、彼に会いに行った。
彼は留置場にいた。
彼は俺に会ってからまず第一声「本当に、申し訳ございませんでした。」と土下座した。
『いえ、こちらも、ありがとうございました。』
その場にいた全ての人が驚いた。
彼を許した訳ではない。一生許すわけが無い。
しかし、
彼も彼なりに一生懸命綾を助けようとしていた事に感謝した。
その帰り、
「はは、あの人も綾を守ろうとしてたのに・・・結局何もしなかったのは俺だけか・・・・」
俺は家ではなく綾の墓の方向へ歩いていた。
あとがき
このシリーズを書くにあたって、まず1番最初に書いたのがこの「事故の真実」です。
「最初は何も覚えてないところからどんどん思い出す」タイプの小説だったんで、「完全に思い出したらこうなってた」ってとこをまず書き、それを参考にすすめて行きました。
もしこの小説見て何か思ったりしたら(良い意見・悪い意見どっちでも)
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でもどうぞ。
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