真理を求めて

真理を求めて

2004.01.09
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「7月4日に生まれて」という映画を見た。7月4日はアメリカの独立記念日で、愛国的なパレードなどが行われるらしい。この7月4日に生まれた主人公のロン・コーヴィックは、愛国心の固まりである象徴的な存在として登場する。

国を愛し、国のためにすべてを捧げると考える純粋な若者のロンは、やがて海兵隊を志願しベトナムへ行くことになる。そのベトナムで彼は、銃声の聞こえた方向に向かって反射的に銃を乱射してしまい、女や子供を誤って殺してしまう。さらに、パニック状態になった彼は、味方をも誤射で殺してしまう。そして、自らもある戦闘で傷ついて下半身麻痺の重傷を負ってしまう。

愛国心に燃え、正義を信じ、国のために戦ってきた彼が、その思いを裏切られていくのはこれからだ。ロンは、国のために命がけで尽くした自分たちが、少しも人間らしく扱われておらず、報われていないと感じる。帰国してからも、尊敬されるどころか、間違った戦争に荷担したとして批判の対象になっていた。

愛国心というのは、報われることがなくてもなお捧げ続けるというのは難しいのではないかと思う。国のために尽くせば、それにふさわしい扱いがあってこそ愛国心を持ち続けることができるのだと思う。その期待に全く応えてくれない状態で、ロンの愛国心にもかげりが見えてくる。しかも、彼は正義と信じていったベトナム戦争で、必ずしも正義ではない面を体験してしまった。

このような青年が生きる目的を失い、気を紛らわす酒と女におぼれて、自暴自棄になるのは当然すぎるほど当然なことのように見える。彼が愛国心を引きずっていたら、いつまでもそこから抜け出すことが出来なかっただろう。しかし彼はそこから立ち直る。それは、映画のラストで、「真実を語る」といった彼のセリフに、その立ち直りの方向が込められているように感じた。

彼は、ベトナムでの矛盾から、自分の信じていた愛国心に疑問が生じていた。しかし、たいていの人間は、自分が信じてきた価値観を否定することは、自分の人生を否定することにも等しいので、なかなかそれは出来ないだろう。だが、彼はそのままでは全く意味のない人生を送らなければならないという状態にいる。真実に対してまともに目を向けなければ、彼の人生はそこで終わりになってしまう。「真実を語る」と決心したときに、たとえそれまでの人生を否定することになっても、これからの人生を取り戻すことが出来て彼の人生はまた意味を取り戻したのだろうと思う。

彼は確かに間違った戦争に参加した。彼は、恐怖心から無差別に銃撃するような戦闘で非戦闘員を殺してしまった。このようなことが起こるのは、そもそもが間違った戦争であるからだと考えた。そして、自分たちにも責任があるものの、もっと重い責任は、自分たちに間違った正義を吹き込んでベトナムに送り込んだ権力の側にいる人間たちだと気づいた。それを知らせるために、彼は戦場での真実を語り始めた。

イラクがベトナム化するのではないかという声が挙がっているが、イラク戦争にも、ベトナム戦争におけるロン・コーヴィックのような青年がいないだろうか。愛国心に燃え、正義を実現するためにイラクに行きながら、その現実に打ちのめされ、傷ついて帰国したロンがいないだろうか。その青年が、自暴自棄になって、生きる屍のような人生から立ち直るには、ロンのように戦場の真実を語ることが必要なのではないかと思う。不正義の戦争に利用されたことに怒りを込めて抗議する、ロンのような青年が登場するのを待ちたいと思う。

さて、イラクではロンがベトナムで経験したような誤射が昨日もあったようだ。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040108-00000041-kyodo-int

この誤射について、反米勢力が逃げ込んだのが悪いという見方もあるだろう。つまり、ゲリラが動き回るのが悪いのだから、正々堂々と立ち向かってこいというわけだ。しかし、圧倒的な武力の差がある相手に向かって正面から来いというのは、卑怯な言い方ではないだろうか。むしろ、正義を実現するというのだったら、民間人を守るための配慮が出来る作戦をするべきだろう。それが出来ないとすれば、そもそもイラクへ行って戦争をすることが間違いだと考えるべきではないだろうか。

劣化ウランの影響というものもそろそろ現れてきそうな時期になってきた。劣化ウランに関しては、アメリカはその影響の大きさを認めていない。そうであれば、健康被害が起きても正当に扱われない可能性も出てくる。ロン・コーヴィックは正規の戦闘での負傷だったので、それに対する補償は一応あったが、劣化ウランによる健康被害に対しては、もしかしたら補償も十分ではないかもしれない。そうなったら、ロン・コーヴィックよりも悲惨な人生を歩まなければならない青年も出てくるかもしれない。そういう青年が救われるには、やはり真実を語る以外にはなくなるだろう。

劣化ウランの真実をもはや隠せないとなったら、アメリカはそれを認めて米兵に対して補償をするようになるだろうか。その時は、イラクの人々に対しても、劣化ウランが原因で被害を受けた人には同等の補償をしなければならないだろう。そうでなければ正義の実現にならないからだ。しかし、劣化ウランの影響を認めれば戦争が不正義であることがますます明らかになってしまうので、いつまでも認めないという可能性が大きいかもしれない。

それにしても、アメリカというのは、自国の愛国心というものに対して根本的な疑問を投げかけるこのような映画が作れるというのは、文化的に偉大な国なのだなと思う。愛国心でさえも、無条件なものでなく、権力が間違った愛国心を吹き込んでいるときは、その愛国心は間違いだと主張できるわけだ。この偉大さは、果たして日本では実現できるだろうか。ある愛国心が正しいか間違っているかを問題にして議論することが出来るだろうか。愛国心を無条件に認めて、その正邪を判断するなんてことを許さないのではないだろうか。

不正義の戦争に参加するために自衛隊がこれから送られようとしている。形の上では、自衛隊員は自らが望んでイラクへ行くことになっている。彼らの愛国心には曇りはないだろう。しかし、どこかで愛国心に疑問を感じたときに、日本でもロン・コーヴィックが出てくるだろうか。

第2次世界大戦で、戦場の真実を語る旧日本軍兵士は数が少なかった。アメリカのように、ベトナム帰還兵がベトナム戦争に反対するデモを起こすというようなことが、日本でも起こる可能性があるだろうか。自衛隊員の中から、戦場の真実を語るロン・コーヴィックが出てくることが、自衛隊が民主主義の軍隊であるかどうかの試金石にならないだろうか。言論の自由が保障されている民主主義のもとでなら、戦場の真実を語る人間が出てきてもいいはずだと僕は思うのだが。





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最終更新日  2004.01.09 09:33:47
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