昼下がりの迷宮~

 昼下がりの迷宮~

2008.01.23
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カテゴリ: 映画・ドラマの話

19世紀フランス。若き軍人エルヴェは、美しいエレーヌと出会い恋に落ちる。そんな矢先、村で疫病が発生し、エルヴェは、美しい絹糸を吐く蚕の卵を手に入れるため、遥か極東の国―日本へ。そこで彼は、もう一つの運命的な出会い―絹のように美しい肌を持つ、少女と出会う。







美しい映像と感傷的な調べ。
冷たい雨が降っていましたが、クラシックなロマンスを期待して映画館へ行ってきました。

想像していたのとは、だいぶ違う映画でした…


山水画のような、日本の風景。
湯気の立つ川に、黒髪の美女が裸身を浸けています。
「風変わりな木々、笑う子供たち…
私はずっと誰かに、この話をしたかったのかもしれない…」
それが男の回想であることがわかります。
しかし語る声は、満ち足りたものではないのです。


どこからかやってきたバルダビューという男がはじめた製糸工場で、村は活気づき、潤い始めます。
ところがヨーロッパでは蚕の疫病が流行り始めます。
村長の息子エルヴェは軍隊にいましたが、休暇で帰っていたところ、バルダビューに「エジプトに蚕の卵の買い付けに行ってくれ」と請われます。
美しいエレーヌとの恋に悩んでいた彼は、父が村の製糸業を護りたいという立場をとったことも後押しして退役し、エジプトへの買い付けに成功。エレーヌとの結婚も果たします。

エジプトから帰っても、エルヴェはその旅を多く語りません。
らくだに揺られる砂漠の旅は、あまりにそれまでの生活と違っていて、言葉を失わせてしまったかのようでした。
まるで、激戦地から帰った軍人のようだと、思いました。
恵まれた環境で育った彼の心は、こうしたことを受け止めるにはやわらかすぎるのではないかと、思いました。

それでも、村の小学校で教鞭をとるエレーヌとの暮らしは、幸せなものでした。

ところが、季節がめぐり、さらに蚕の疫病が厄介なことになります。
エジプトも、だめなようだ。


江戸末期。まだ鎖国を解く前の日本です。
けれども、樺太を経由して、幕府の目を盗み他国と交易していた藩があった…これは容易に想像できる話ですね。
武器を備えたい。外貨もほしい。目端の利く藩があったとしてもおかしくはないです。

エルヴェは、鉄道で、キャラバンで、そして船で、遠く日本へ渡ってきます。
着いた港はサカタ。山形の酒田です。


山の中、行き先はどこなのかわかりません。
目隠しをはずしたときに見えた景色は、高い山にかこまれ、もやのたちこめる村でした。
この幽玄な景色、異郷という言葉そのもののようです。

取引の後連れて行かれたのは村の実力者、原十兵衛の屋敷でした。
ここで出会うのが、冒頭で湯浴みしていた美少女です。
十兵衛の娘かと思ったら、どうも、妻だったのです。
美しく、妖気あふれるしぐさでエルヴェをもてなします。

ここでエルヴェは、恋をしてしまう、
のではない、ようです。
ただ、とりつかれたように彼女が気になる。
彼女も、エルヴェに惹かれているようでありながら、無理やり十兵衛の妻にさせられている風でもない。
ここがとても、謎です。

フランスに無事蚕の卵を持ち帰ったエルヴェには、再びエレーヌとの幸せな日々が待っていました。
子供を望むエレーヌ。
買い付けの成功で富を手にしたエルヴェは、広大な林の中の邸宅を買います。
庭には、エレーヌの好きな百合の花を一面に植えるのだと言いながら彼女に披露します。
これ以上はないというくらい、幸せなはず。

なのに、どこか満ち足りないものが感じられるのは何故でしょう。
日本で何かあったの?――どんな人とであったの?――問われても、エルヴェは語ることができません。

このあと、再びエルヴェは日本へ、卵を求めて渡ります。
少女とも再会を果たします。言葉も交わさないし肌を重ねることもない、けれども2人はもはや、確実に惹かれあっているようです。
エレーヌとの日々を愛していたはずなのに何故なのか、これは不思議だからと言うしかない。

時代はめぐり、フランスの絹市場もそして幕末の日本も、荒天となります。
三度日本へむかうエルヴェ。
健康な実業家の毎日を過ごしながら、心がここではないどこかにあるようなエルヴェを、それでも愛し、待つエレーヌ。
日本でエルヴェの見たものは…


2人の庭は見事に完成し、屋敷を囲んで百合の花が咲き乱れ、絵本の中の景色のようです。
けれども、もう一冊の、幽玄の景色を描いた絵本の中に心を置いてきてしまったエルヴェには、その庭で幸福を味わうことができませんでした。
最後に、庭仕事を手伝う少年とベンチで並び、エルヴェは語ります。
いつか、語りたかったその物語を。
日本で出会ったあの少女が、誰であったと気づいたのかを。

一行に要約してしまえば、
「異郷で恋した男が、成功も何もかも喪失する話」
というミもフタもない話になってしまうのですが、しかし。単なる淡い浮気譚とは言えないものがあります。
やはりエルヴェが、タフな冒険野郎ではなかったということでしょう。
誰にも告げず、理由を理解されることもなく、ある日突然仕事も家族も捨てて村を発ってしまう男の話が出てくるのですが、平穏な場所に居続けることのできない、悲しく叫ぶ心が、この物語の主旋律なのかもしれません。
好奇心がうずいて旅に出ずには居られない人というのも存在します。
けれども、自分でも捉えられない心の穴が、ここではないどこかを求めて、はるかな場所を目指してしまう人も、いるのかもしれない。
そんなことを考えました。














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最終更新日  2008.01.25 12:42:45
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