風にのってきたメアリー・ポピンズ
』。
その中に、<寝る前のひと匙>というお話があります。
どこからともなく現れた不思議な家庭教師のメアリー・ポピンズは、バンクス家の子供たちがベッドに入る前に、瓶に入った液体をひと匙ずつなめさせるのです。
おそらく、当時のイギリス家庭では、よくある習慣だった――たぶん日本の肝油ドロップのような、サプリのようなもの――ではないかと思います。子供たちは、見たとたん、それは苦いから嫌だと言うのです。
ところが、メアリー・ポピンズの手の中のひと匙は、それぞれの子供の一番好きな味になっていて…
子供のころ、なんて素敵な話だろうと思ったものです。
一冊にちりばめられた不思議なエピソードの数々のなかでも、これが一番好きでした。
私だったら、何の味になるのだろう?と毎晩考えました。
本の中の子供たちも、「もうひと匙!」とねだるのですが、もちろんそれはだめ。
たったひと匙ずつのお楽しみをなめて、眠りにつくのでした。
寝る前の、幸せなひと匙。
それを思い出すような本でした。
寝る前の、幸せなひと「謎」!
百万のマルコ
黄金が溢れる島ジパングで、大冒険の末、黄金を捨てることで莫大な黄金を手に入れた―。囚人たちが退屈に苦しむジェノヴァの牢。新入り囚人“百万のマルコ”ことマルコ・ポーロは、彼らに不思議な物語を語りはじめる。
いつも肝心なところが不可解なまま終わってしまう彼の物語。囚人たちは知恵を絞って真相を推理するのだが…。
多彩な謎が詰まった、文庫オリジナル連作集。
【目次】 百万のマルコ/賭博に負けなし/色は匂へど/能弁な猿/山の老人/半分の半分/掟/真を告げるものは/輝く月の王女/雲の南/ナヤンの乱/一番遠くの景色/騙りは牢を破る (「BOOK」データベースより)
「百万」には文中、「ほら吹き」というルビが振ってあります。
漢字フリークの私は、そういう読み方があるのかと、いたく感心してしまったのですが…ちがいました!
舞台になるイタリアの、古い言い方に掛けているようです。
日本で言うなら「嘘八百」とでもいいましょうか、そんな感じです。
繰り広げられるマルコの冒険譚。
大ぼら話にも聞こえる、その肝心な部分は謎。
聞き入る囚人仲間は、話に夢中になっている間、せまくて暗くてじめじめした牢に閉じ込められていることも忘れます。
囚人といっても、犯罪者なのではなく、イタリアの都市どうしの戦争で、負けた船に乗っていてとらえられた人々ということなので、今でいう、捕虜でしょうか。
何年もの間、高い塀で切り取られた小さな空しか見えないところで暮らし、いつ出てゆけるというあてもない。
そんな彼らに、マルコの話は、娯楽であり、救いですらあります。
ここではないどこかに連れて行ってもらえるひとときだからです。
さて、日本の私が読んでいると、これが翻訳小説でないのが不思議な気がしてきますが、その雰囲気もまた楽しいのです。
マルコ・ポーロはもちろん『東方見聞録』を書いたとされる人物で、日本に来たこともないのに、そこが黄金の国だと広め、それがきっかけで大航海時代がおとずれた――と、歴史の授業で習いました(と思いますw)。
だとすると、この物語たちはみな嘘。ほら。
でも、ひょっとしてこんなふうに、語っていた人なのかもしれない、なんて思えてもきます。
毎晩、寝る前にひとつずつ、読んでいました。
どこか遠くへ。知らない時代の知らない国へ。
お伽のような出来事なのに、マルコの語る不可思議には、かならず合点のいく解決編がついています。
夢の国の話に、「なんだ、そうだったのか」とその謎に納得すると、安心して眠りに落ちることができるのでした。
寝る前のひと「謎」は、「もっと…」という気持ちと、「明日もまた楽しめる」という気持ちで、幸せな眠りに誘ってくれます。
読み終えてしまったのが残念なような、一冊でした。
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