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リキッドの奮闘記
下書き・8
敵に見つからない様に遠回りをしたり森の中を通ったりしたので、ここまで来るのにかなり時間がかかってしまった。ガソリンは何とか調達出来たが。
「納屋を吹き飛ばしたのはまずかったですよ!多分新聞に載ってますよ!」
「んなこたぁどうでもいい!急げ!」
クリスは運転中のファイアのヘルメットを軽く平手で叩いた。
どうやら味方はガードケルクから引き揚げているらしい。早くしないと取り残されてしまう!荒れた道なので、ファイアは走りにくそうである。
「ファイア!もっと早く!」
「これ以上早くしたら転びますよ!」
すると、マクロードが運転席に身を乗り出してきた。
「俺が運転しよう。疲れたろ?」
ファイアはすぐに運転を変わった。いちいち何か言っている暇は無い。今は早く海岸へ行く必要がある。マクロード大尉はハンドルをぐっと握り締めた。
「しっかり捕まってろ!荷物を落とさない様にな!」
速度がほぼ限界にまで上がった。激しく車体が揺れ、人間も揺れる。余りにも荒っぽい運転なので、何度もジープが跳ね上がった。うるさいエンジン音に混じって、もっと大きい音がした。飛行機のジェット・エンジンの唸り声である。下手に喋ると舌を噛みそうだったので、クリスはマクロードの肩を叩いた。空軍のパイロットは飛行機の方をチラッと見る。
どうやら敵機らしい。機銃掃射の挨拶で分かった。弾丸がジープの尻を掠めた。
確か携帯ミサイルがあったはず。クリスは荷台に手を伸ばしたが、マクロードが思いっきりハンドルを切り、ドリフト走行を何度も繰り返したので、危うく車外に弾き飛ばされそうになった。
何とか体勢を立て直して、クリスはFIM-92スティンガーを取り出す。普通はヘリコプターとかに使うのだが、あの戦闘機にも当たるはずだ。
マクロードが機銃掃射を避けようと、またドリフトを行う。戦闘機は自分達の上空を通り過ぎる。ケツを狙っても駄目だ。頭を狙わねば。
相手が旋回してこっちに向かって来る。今だ。敵の機銃が唸りを上げ、弾痕がこっちに這って来た。
スティンガーが吼えた。相手が携帯ミサイルを持っている事に気付いたバルメシア空軍のパイロットは機体を上昇させようとしたが、その前に翼を木っ端微塵にされてしまい、脱出せざるを得なくなった。
パイロットを撃ち出した後、バルメシア軍機はまたしてもクリス達の頭上を通り過ぎ、近くに生えていた木に衝突し、緑色の土地を赤い炎で染めた。運転があまりにも過激なので、感嘆の声を上げる事も無理だった。
やがて海岸が見えてくる。何とか間に合ったらしく、巨大な船に兵士や車両が大急ぎで乗り込んでいた。輸送船の周囲には駆逐艦やイージス艦が浮いている。敵の攻撃を一切寄せ付けない気で海上で砲門を構えていた。
マクロードはスピードを落とさない。そろそろ落とさないと、車両の列に突っ込みそうなのに。それでなくても海岸には戦車やヘリの残骸が散乱しており、ぶつかればあの世行きだ。
速度を落とせ!落とせ!
車体が更に激しく揺れているので、喋れない。
クリスは砂浜が迫って来るのを見た。同時に砂浜に巨大な鉄板が埋まり、空に向かって一部分が体を起こしている。つまり、まるでジャンプ台の様になっているのである。鉄板の向こうには一隻の輸送船。
まさか・・・・・・。クリスは携帯ミサイルを荷台に戻し、座席に掴まった。
空軍のパイロットを止めようと思った時には、もう車体が空に浮いていた。まるで打ち上げ花火と一緒に斜め向きに放たれた気分だ。一瞬、空を飛ぶ快感に飲まれた。
空も悪くない。
そして激しい衝撃が走った。輸送船の狭い甲板に着地し、またドリフト。甲板には濃いタイヤの跡が。甲板にいた兵士達は腰を抜かしている。。その兵士達を押しのけて、一人の中年将校がこっちへ向かって来たと思うと、怒鳴った。
「車に乗ったまま甲板に降りて来るとは!一体何のマネだ?」
ジョニーが「ブラボー」と言って笑っている。ヴィロとファイアは目を大きく見開いたまま、空を見ていた。仕方が無いので敬礼をしてクリス少尉が取り合った。
「申し訳ありません。敵に攻撃されるのが嫌で。待っていられないのでこうやって乗らせてもらいました」
相手の士官は中佐らしく、ジープを少し眺め回した。そして切り出す。
「何処の部隊だ?」
「第27歩兵大隊B中隊のティルナー・クリス少尉です!国境から撤退して参りました」
中佐の険しい表情が変わった。
「第27歩兵大隊!?よく国境から帰ってきたな!」
そう言うと、中佐がクリスの肩をポンポン叩いた。クリスは微笑んだが、何かが足りないのに気が付いた。
運転席が空っぽだ!
マクロードは頭がボンヤリしていた。空に再び上がったと思った途端に体が車体から離れ、思いっきり砂浜に叩きつけられたらしい。砂浜が柔らかかったお陰で怪我は無い。自分はシートベルトをしてなかった様だ。
よろよろと立ち上がると、迷彩服を着た地上軍の兵士がこちらに駆けて来るのが見えた。
「あんた大丈夫か?」
一人の兵士が銃を抱えたままヘルメット越しにこっちを見ている。
迷わずマクロードはこう言った。
「飛行場はあるか?」
「飛行場・・・・・・すぐ近くにあるが、撤収中だぞ?」
「道を教えてくれ。すぐに行く」
その兵士は後ろを振り向いて真直ぐ横向きに人差し指を立てた。管制塔らしき物が見える。
「すぐそこだ。それよりも船に乗った方が――――――」
陸軍兵士がそう言い終わる前に空軍のパイロットは飛行場目掛けて走り去っていた。
頭打ってどうかしちまったのか?
<<各隊へ通告。友軍輸送船は既に港を出る準備をほとんど済ませている。敵の攻撃もそろそろ始まる。任務成功を祈っているぞ>>
スノー・アイの声が響いた。ちらっと前を見るとローエングリン隊のトムキャットが飛んでいる。マクロードは一体何処に言ったのだろう。もしかして捕虜になったのだろうか。
だとしてもすぐに脱走して帰ってくるかもしれないが。
レーダーに友軍機の点が幾つも現れ始め、横に四機のF-16ファインティング・ファルコンが飛んできた。その向こうにも何機もの航空機が飛んでいる。
<<こちらオーシア空軍第605戦術飛行隊“ホルス”だ。そちらはフォーバット空軍か?>>
「そうだ。第45フォーバット戦術飛行隊“ジークフリート”だ。」
<<フォーバット空軍と飛ぶのは初めてだ。腕前を見させてもらうよ>>
四機のF-16が一足先に飛び去って行く。その先にはガードケルクの岸。何隻もの輸送船や駆逐艦、それにイージス艦が並んでいる。それに加えてもっと小さな船が何種類も見えた。どうやらまだ攻撃は受けていないらしいが、もはや時間の問題だ。よく見ると、地上に小さな飛行場が見える。戦闘機が何機か離陸しているのが見えた。
無線が更に来る。
<<こちらオーシア海軍イージス艦<リヴァイアサン>。輸送船の出航準備はほぼ完了。何隻かはもう出航する。援護を頼む>>
<<こちらAWACS。レーダーに敵性反応>>
「了解。ジークフリート交戦」
<<ローエングリン交戦>>
<<ワルキューレ交戦>>
<<ホルス交戦>>
飛行場はもう撤収している。残っているのはほんの少しの戦闘機と数名の整備兵だけ。そのうちの一人を捕まえると、その整備兵は驚いた顔をした。
「まだパイロットが残ってたのか?」
「まあな。何でもいいから何か飛行機は無いか?」
整備兵は急いでマクロードをハンガーに連れ込む。ハンガーの隅っこに一機だけ深緑色のJ35ドラケンがあった。もうちょっと“高い”のを期待してたんだが・・・・・・。
「あれだけだ。このまま放棄しようと思ってたんだが。ヘルメットは?」
しまった。さっきのジープの荷台だ。
「無いのか?」
「無い」
「ご心配無用だ。ドラケンのコクピットに置いてある」
「おう、サンキュー!離陸は自分でやるから早く逃げな」
整備兵は頷くと、ハンガーから文字通り逃げた。マクロードはキャノピーを開くと、中にあるヘルメットを取り出し、乗り込んでマスクを顎に据え付けた。トムキャットとは全然違うコクピットだ。前も何だか見辛い。それでも何とかなりそうだ。
彼は癖でこう言った。
「ローエングリン1、これより離陸する!」
外で戦闘の音が鳴り始めた。
さあて、空に戻ろう!
A-4とA-7の艦上攻撃機部隊が攻撃を開始した。二機編隊で四方八方から飛来し、輸送船部隊を襲う。輸送船は何隻かは出航しているが、まだ港や砂浜に停まっている船もあった。その周囲を硬く守っているイージス艦や駆逐艦が対空攻撃を開始し、自分達に向かって来る敵を迎え撃つ。
「ジークフリート各機へ。護衛艦の対空攻撃に巻き込まれない様に援護を行え。なるべく固まって行動しよう」
イーグルが低空飛行を行うA-4の後ろに水面に浸からないように食らい付いた。二機編隊の敵機は高度を上げて振り切ろうとする。そのうちの一機を狙う事にした。HUDの真ん中にある円がゆらゆら動く。機銃が当たる距離まで接近すると、バルカン砲がスカイホークの機体に風穴を空けた。高高度を飛んでいたので、ベイルアウトは出来た。二つのパラシュートが海に落ちて行く。機体その物はずっと離れた水面に落ちた。もう一機はヒルが落としたらしく、燃え上がっているスカイホークが視界を通り過ぎた。
「一機撃墜」
アンダーソンはそう言って輸送船に目を向けた。周りを固めているイージス艦が激しい対空砲火を放ち、敵を寄せ付ける様子が無い。灰色の巨大な船から放たれたミサイルが飛行機雲を残しながらバルメシア軍の攻撃機を弾き飛ばす。一番先頭に出ているイージス艦<リヴァイアサン>が奮戦している。イージスシステムによって得られる力を駆使し、一気に複数の標的を攻撃していた。敵軍もまず「盾」を狙う。
<<こちらAWACS。方位250、高度2000に長距離対艦攻撃を行おうとしている敵機を補足>>
<<こちらワルキューレ1。任せろ>>
ヴォレンは一人で飛んで行った。すると、フランカーの腹の下を二本の太いミサイルが通り過ぎる。
「おっと!<リヴァイアサン>、ミサイルだ!」
アンダーソンが敵機を追い払いながら言ったが、イージス艦はすぐに二本ともファランクスによる射撃で落としてしまった。さすがは高価な船だけはある。ちょっとやそっとじゃ沈みはしない。
それに構う様子も無く、ヴォレンは遠くの敵機に向かって飛び去った。
「ヴォレン!一人じゃ危ないぞ!」
アンダーソンが忠告した。
<<大丈夫だ。見た所攻撃機だけで護衛機はいない>>
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