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LunaLowe-ルーナレーヴェ-
03.『異界死滅』
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黒く覆われた世界。赤く瓦礫の燃えた世界。紅く血で染め上げた世界。
―― それは赤く黒く彩られた絶望と言う名の世界。 ――
肉が肉を穿つ音。
血が爆ぜり滴る音。
荒れる小さな吐息の声。
一人の青年の手が緑髪の少女の胸を貫いていた。
その手は心臓にまで達している。
女の体は右半身が吹き飛ばされ、傷口は焼け爛れ塞がっている。
呼吸も絶え絶えに途切れ、気管にまで達していた胸元の傷から空気の抜ける音すらしていた。
見るも無残な姿の女だが、その息は今も続いている。
「くぁ・・・!ぁ、ぁ・・・・」
女とは対照的に青年には傷は無く、この世界と不釣合いな程、穢れなく清楚に佇まっている。
だが、女の夥しい血溜りの上に立ち、その瞳には生気を映していない。
唯、亀裂の様な微笑を浮かべながら、弄ぶ様に女の心臓を握っているだけ。
一通り愉悦に浸り終わった青年は玩具を捨てる子供の様に、一遍の慈悲も無く
その亀裂の微笑を浮かべたまま掴んでいた女の心臓を一気に握り潰す。
「キァハ・・・・ッ!」
心臓から押し出された残りの血が女の胸、孔と言う孔から夥しい勢いで噴出す。
全身が痙攣するが、筋肉は既に焼け爛れ硬直し不安定で。
其れは狂った糸人形[マリオネット]の様に、憐れみすら覚える様に、無様にすら思えた。
「ゆ、遊・・・さ・・・・・」
やがて女の胸から血に染まった青年の腕が抜き取られる。
同時に支えを失った女の体は静かに、崩れ落ちる。
その瞳に悲しみと憂いを秘めた涙の雫を堕としたまま。
「・・・つまらんな・・・ふっ、彼の妻と聞いて多少は興味があったが、所詮はこの様なものか」
青年は落胆した様に嘆く声で呟く。
「あ・・・あぁぁ・・・・」
その惨状とも言える光景を見つめる別の青年が、一人。
彼も服は引き裂かれ、口元に血を垂らし、全身に無数の傷や赤く染まった皮膚を見せている。
―否、其れは皮膚などではなかった。
―筋肉組織。
剥き出しとなった筋肉の所々が千切れ、指先は痙攣し、膝は笑っている。
其れでも彼は立ち上がろうとする。
瞳に深く暗い憎悪と怒りの色に染めた紅い狂気を秘めて。
「ほぅ・・・"偽神"を破壊される寸前に脱出していたか。だが偽神はその命を終えた、其でも余に牙向くつもりか」
彼の姿を確認するや否や、青年の口元は再びあの亀裂の様な微笑を浮かべる。
其れは、何処までも無邪気で、何処までも邪悪に満ちていた微笑だった。
そして彼の忠実なる偽神、■■■■は眠っている。
四肢は無く、頭を穿たれ、貫かれた胴体だけを残して眠っていた。
二度と醒めない、盲目の悪夢の中で。
「ァ・・・ッ!!」
「貴公も愛する妻の下へと送ってやろう・・・」
彼は大凡重傷を受けた人間とは思えない程の跳躍で青年の下へ飛び込む。
指が二本ほどあらぬ方向へ捻じ曲がりながらも拳を握り締め、青年の顔面へ向ける。
だが彼の行動よりも早く、顔面に青年の掌が翳される。
青年の掌から紫電が迸る。それは息を吐くと同じ様に、ただ当たり前の行為を行う様に。
自然には存在し得ない光―異形の光―を宿し、其を放つ。
瞬く間に彼の体は吹き飛ばされ、血溜まりとなった瓦礫の上へ仰向けに叩き付けられた。
その衝撃は損傷した内蔵にまで響き、鮮血を吐き散らす。
自らの血で、自らの顔を、血溜まりを更に朱へと染め上げる。
「どうして中々・・・その状態でまだ持つとはな」
青年は顎に手を添えて首を傾げる仕草をしながら、彼の元へ歩き出す。
その無邪気な仕草だけを見れば外見相応の青年にも思えた。
「だがそれも風前の灯の様だな、貴公との長き因縁も此処までか・・・」
足を止めた所で、ふと青年は何かに気付く様に振り向く。
其処には血の様に紅い塗装を纏った、一体の人型機械が瓦礫に凭れている。
他の瓦礫と異なり、傷は見られず起動前と言うべきモノだった。
「・・・娘には手を出さないでくれ・・・!!」
「娘・・・?自ら開発した機械人形を娘と呼ぶか」
気だるそうに青年は右足を上げ、仰向けに倒れる彼の腹部に向け、踏み下ろす。
内蔵から一気に押し上げられた勢いを抑え切れず、更に血を吐き散らす。
声にならない唸りを上げるが、その足は更に腹部へと押し込まれて行き、その度に彼は血を吐き散らした。
「幾ら貴公とはいえ、最早既に死に体・・・ならば余が最も安らげる詩を送ろう」
青年の『聲』は音程を調整する様に中世的な『声』へと変わり始める。
そして青年は歌い出す。死の道を歩もうとする、自ら殺した者への手向けの歌を。
其れは心地良く、聞く者を安らぎへ誘う歌声。
そして其は足掻く事を忘れ、死の淵へと導く死神の聲。
詩を持って死を連ねる異形の詩[うた]である。
「そうだ・・・余からの褒美だ、確かにその機械人形には手を出さずに置こう・・・今の所、はな」
既に息絶えた彼の骸に一瞥だけ残し、青年はその姿を消す。
跡に残る物は只、瓦礫と、屍だけとなった。
―― 否、彼の忘れ形見となった、一体の ――
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