小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.15『みんなで踊ろう』



病院から家に帰ると、ママはまた電話を始めた。
 『はい・・・はい・・・そうです。今日お伺いする予定でしたが、猫が急に下痢をしまして、明日に・・・え?・・・でもそんなご迷惑・・・はい・・・はい・・・いいんですか?・・・解りました。ありがとうございます。お待ちしています。』
 誰か、お客さんが来るのかな。
おいらはその時、自分のお尻を舐めようと苦労していた。
背中を丸めてくるんと座って、片方の足をあげてっと。
 おっとっとっと!
おいらはコロンと転がってしまう。
ママは笑いながら、
 『ほらほら、支えてあげますよ。』と、おいらの背中に手を当てた。
おいらは、やっと満足がいったので、ママにお尻を向けてしっぽを立て、ちゃんときれいになったよと見せてあげた。
そうしているうちに、ピンポーンと何かが鳴った。
ママは、
 『あら、もうきたのかしら。はやいわね。』と、パタパタ出て行った。
おいらは、こんどは前足の爪を、1本1本引っ張るように、ガジガジ噛んで掃除していた。

そこへ、ママが男の人を連れて戻ってきた。
青い服を着た男の人はおいらに、
 『やあ。君が迷子の迷子の子猫ちゃんだね。』と挨拶した。
よく日に焼けて、笑うと顔中くしゃくしゃになる面白そうな人だ。
おいらは遊ぶかなと思ったけど、猫は警戒心が強いんだ。
しばらく様子を見ることにして、ピアノの上に飛び上がって、眠ったふりをしながらこっそり見ていた。
男の人は、どうやらおまわりさんと言う名前らしい。
 『すみません。わざわざいらしてくださるとは思いませんでした。』
ママは男の人に、コーヒーを出した。それから美味しそうなクリームも。
おいらにちょびっと舐めさしてくれないかな。
おいらのお腹はすっかり元気だ。
 『はい、神社の隣の緑が丘公園で、昨日の夕方です。』
ママはおまわりさんに、おいらの話をしているのかな。
 『こちらで預かることも出来ますが、どうしますか?』
おまわりさんがママに聞いたので、おいらは思わず耳をピンと立てた。
ひげがだらりと垂れた。
 おいらココを出て行かなきゃいけないの?
 『いえ、うちで預かります。もし飼い主がいないようでしたら、私が飼います。』
ママの言葉で、おいらのひげはぴんぴんになった。
 おいらはココにいていいの?
『拾得物扱いになるので、1年間は預かりという形になります。もし1年たっても持ち主が現れなければ、この猫はあなたのものです。』
おまわりさんは、そういって苦笑いをした。
 『ペットを物というのは嫌なんですけど、拾得物扱いになるんです。』
それから、おいらに片目をつぶって言った。
 『いい人に拾われてよかったな。』
おいらの寝たふりは、とっくにばれていたらしい。

夕方桃が幼稚園から帰ってくると、おいらはママがあわてて取り上げるまで、
桃にぎゅっと抱きしめられた。
 『猫ちゃん。うちの猫ちゃんになるよね。』
 うん。おいらここんちの猫になるよ。
 桃やママやパパと、ずうっと一緒に暮らすんだ。
 『仮かも知れないけど、いつまでも猫ちゃんじゃ何だわね。何か名前をつけようか。』
おいらはワクワクした。
 すごく強そうで、かっこいい名前がいいな。
 『うんとね。だんご虫ちゃん。』桃がいった。
 だ、だんご虫???
 『今日ね。桃ね。だんご虫捕まえたんだよ。』
ほら。といいながら、桃は園服のポケットをひっくり返した。
うじゃうじゃとか、コロコロとか、だんご虫がたくさん床に落ちた。
見ると玄関から転々と、桃のポケットから逃げ出したらしいだんご虫が落ちている。
おいらはそれに向かって突撃した。
 ウ!ウ!フ!オ!オ!ア~~~ッ!
おいらは、だんご虫に向かって突っ込み、両手に救い上げるようにして持ち上げ、ジャンプし床に転がった。
ママはキャーキャー言いながら、脚を片方ずつ上げて踊っていた。
桃も嬉しそうにキャーキャー笑っていた。

その日の夜。おいらはこの家のこにゃんになった。


act.16 『ねんねん』  に続く






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