小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.23『回転寿司』



おいらと桃はライバルだ。
おいらがママのところに行くと、時々桃がママのおひざにいるから、おいらぐいぐい桃を押して、おいらもママのおひざにのせてってするんだよ。
でも桃は、ぷいっておいらに知らんぷり。
桃ばっかし、ママにいい子いい子されててずるいよ。
でも桃は、ママがおいらばっかりダッコするって言うんだ。
この前もいたずらして、ママにコラッて怒られたとき、
 『ママ。ママはこにゃんと桃とどっちが好き?』
なんて、わあわあ泣きながら聞くんだよ。
ママってばプンプン怒っていたはずなのに、それを聞いたら、なんだかくしゃみを必死にこらえているような変な顔をして、桃をぎゅってしたんだよ。

おいらと桃は友達だ。
桃は時々こっそりと、おいらにおやつのアイスクリームをくれたりする。
アイスクリームって不思議なんだよ。
舌がぴや~ッと冷たくなって、おいら背中の毛がぶわわってなっちゃうけど、そのあとふんわりあま~いミルクの味がするんだよ。
でも時々桃は意地悪するんだ。
昨日桃が、赤や黄色の積木をたくさん積み上げて遊んでいた。
だんだん高くなっていって、隣で見ていたおいらもワクワクした。
おいらは頭を低くしてお尻を上げ、うずうず体を揺らすと、まっすぐ積木に向って突撃~ってしたんだ。
積木はバンバーン!ッて見事に崩れたよ。
おいらの大勝利さ。
おいら崩れた積木の中で、くるんってお腹を見せてごろごろ喜んだ。
 すごいでしょ。
それなのに桃ってば、おいらを蹴っ飛ばしてあっち行けって・・・酷いよ桃。

今日はね。桃は新しい遊びを考えたみたい。
リビングのテーブルの周りをグルグル四つんばいで廻りながら。
 『まぐろっまぐろっ♪』って歌っているんだよ。
桃は背中に赤いクッションをしょっている。
おいらテーブルの影から、ドドドドド~~~ッ!って桃に飛びついていったり、あとをピョンピョンついていったり大忙しだ。
ママは笑いながらおいら達を見ている。
そしたら桃が急にうぇ~んって泣き出したんだ。
おいらびっくりして、思わずソファーの陰に隠れちゃったよ。
そしたらママってば、
 『どうしたの桃?!こにゃんにひっかかれでもした?』だって、あんまりだよ。
桃はえぐえぐしながら、
 『お腹すいたよ~。』だって。
ママが、
 『あらあら・・・おにぎりでも食べる?』って聞いたら、桃は、
 『違うよ桃は回転寿司に行きたいんだよ。』だって。
おとといパパが、連れてってくれるって言ってたんだ。
 『お寿司がな。お客さんの前でグルグルたくさん廻っているんだよ。』
パパが桃に言ってた。
 『桃の好きなえびも?まぐろも?』
 『食べきれないくらい廻ってくるぞ。みんな好きなのを自由に取って食べるんだ。』
おいら、キジ猫にもらったアラを思い出してよだれが出そうだった。
でも、パパの仕事が忙しくなって、けっきょく行けなくなっちゃったんだ。
お腹がすいた桃は、それを急に思い出して悲しくなっちゃったんだよ。
おいらも悲しくなってにーにー鳴いた。

そしたら玄関がピンポーンって。
ママが、
 『は~い。』って出て行った。
おいら桃のほっぺについた涙の粒をペロンてした。
 『ただいま~。さぁ~桃、おすし屋さんに出かけるぞ。』
パパが帰ってきたんだ。
桃がとたんにパア~って嬉しそうに笑って、パパに飛びついた。
 『桃がね。回転おすしになってね。いたんだよ。』
 『じゃあパパは、桃寿司を食べちゃおうかな?』
そしてパパは桃のほっぺをパクってした。
それからこちょこちょって桃をさんざんくすぐった。
 おいらもっ!おいらもっ!
おいらがパパのズボンの裾に飛びつくと、パパは桃を下ろして、おいらを抱き上げてくれた。
 『おっ?こにゃん。ただいましてくれるのか。よしよし。』
パパはおいらの喉をこちょこちょした。
おいら、パパのおっきなあったかい手にスリスリしながら、に、に、に、にぃ~ってご機嫌さ。
 『おとなしく、留守番しててくれよ。』って、パパがおいらをそっと床に下ろした。
 留守番?お留守番?
おいらがわけがわからないうちに、パパとママと桃は、おいらを置いておすし屋さんに行っちゃったんだ。
 酷いよパパ!酷いやママ!ずるいぞ桃!
おいらはにーにー泣いたけど、誰もいなくなったお家はシーンとして、答えてくれる人なんていない。
おいらのお皿には、いつものおいらのご飯がはいっていた。
いつもは美味しい美味しいって思うけど、今日はむかつく味がした。
全部食べたけどね。
おいらがいい子だからだよ。食いしん坊だからじゃないぞ。
おいらは、お腹もいっぱいになって眠くなっちゃった。
でもおいら、みんなが帰ってくるまで寝たりなんかしない。
そしてみんな嫌いって言ってやるんだ。

おいらは回転寿司の夢を見た。
まぐろやえびやアイスクリームやミルクや猫缶。
美味しそうな物がいっぱい、おいらの周りでぐるぐる廻ってる。
おいらが夢中になって食べてると、ママやパパや桃まで流れてきた。
まってよ。おいらをおいてかないで。
おいらは必死にまぐろやえびをピョんぴょん飛び越えて、ママたちをおいかけた。
気がつくとおいらも一緒にぐるぐる廻ってた。
おいらね。
まぐろもえびも好きだけど、パパやママや桃が本当は一番すきなんだ。
だからね。早く帰って来てね。
おすしのおみやげ買って来てね。


act.24『にゃ~ん』  に続く





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