短編 F氏登場
F氏は失業中である。
しかも失業歴999回という猛者で、年期が入った 筋金入りの失業者
である。
いままで、就職しても3日ともたず、自己理由または他者理由のいずれかにより離職してきた。
不運といえば不運であり、自業自得であるといえば自業自得である。
「あー、また失業か、もうすぐ1000回になるな」
「もしもし、Fさん。耳寄りなお話があるのですが、お時間いただけますか?」
「あ、いいですよ、どうせ失業中ですから」
「ありがとうございます。ではちょっとそこまで」
F氏はばらっくに連れ込まれた。
異星人グレイの侵略

「失礼いたしました。私は政府の者です。実は公表していませんが、今国際連邦政府は危機に陥っています。」
「どうしたのですか。ごきぶりが大量繁殖でもしたのですか?」
「さすが、といいたいのですが、実はちがいます」
「今地球は異星人により侵略されようとしています。秘密裏に国連軍が防護につとめているのですが、このほど主力の米国宇宙軍が全滅してしまい、敵に対し、まったく歯が立たないのです。」
「まったくですか?信じられない。」
「そうです。わが軍の攻撃が1回は通用するのですが、なぜか2回目は通用しないのです。日本のことわざにありますね、柳の下にどじょうはいない?でしたか」
「とにかく万策つきてしまったのです。」
「それでぼくにどうしろと、失業中ですよ。」
「あなたに人類を救う大切な用があるのです。」
「A氏の論文を読んだことがありますか?」
「いいえA氏とは、親戚関係はありませんので。」
「ここに要約コピーがありますので、急いで目を通してください。」
A氏の論文、「イーストエンド文明論」
「人類発祥の地アフリカ、エジプト、メソポタミア、ガンジス、黄河それらの文明の潮流が大陸の東端に結集し、独自に発展し、大いなる大輪の花を咲かせた、イーストエンドの文明、それが日本である。
同時に人類の弱点も、掃き溜めに集まるがごとく、すべてイーストエンドに集積され続けてきた。
それが、一個体いやひとりの人間に実体化されることがある。
かつて古代インダスに出現したブッダのように、人類の英知が結実、いや人類のあらゆるマイナス要素が、この日本で凝縮する。……
日本には数百年に一度優れた人物が出現する。しかし、同一確率でどうにもしょうがない人物も出現する。………
次回は1999年の七の月に出現する計算だ。原種日本人が出現する……」
著者注釈:すみませんこれを書いたのは1995年です。
人類最後の抵抗、最終兵器F氏
「どうです、画期的な論文でしょう。日本はよいこととどうしょうもないことの終着点らしいですよ。」
「異星人から地球を守る話はどこへ言ったのですか。」
「私の話を聞いて下さい。人間は多種多様の欠点をもっています。
特に体質的・遺伝的欠点、気質・性格的欠点、体格・才能不足・許容力の無さ・視野の狭さ・包容力の無さ、免疫能力の無さ等々です。」
「人類の欠点の洗い浚いを、人類を守るために、人類の最後の反抗手段として、用いることにしたのです。」
「それがぼくとどんな関係があるというのですか?」
「A氏の論文にもあるように、まもなく 人類の汚点
ともいうべき人物がこの日本に出現するのです。これはビッグニュウースです。」
「それが ぼく
というのですか?」
「ピン。ポーン。正解です。異星人グレイの攻撃から地球を守り抜かなければならない。あなたの協力が必要です。」
「あなたは政府最高の上級職として迎えられます。」
「ほう、就職できるのですね?」
国際連邦政府最高機密、「ウイルス計画」
電子科学庁長官「彼自身のすべて、あらゆるウイルス的データーを敵側陣営の作戦コンピューターに送信し、感染させます。すなわち宇宙からの異星人グレイを洗脳する作戦です。」
首相「人類の欠点を武器にするのだな、皮肉なことだ。ところで現在の戦況はどうか?」
防衛軍日本支部長官「前回報告したとおり、最強主力の米国宇宙軍は壊滅したため、組織だった反撃が不能状態となっていますし、指揮系統も支離滅裂となっています。あとは各国政府による自主的抵抗が続いている程度です。」
首相「それはいかんな。米国大統領はどうしている。」
外交部長官「ホワイトハウスとは現在連絡がとれていません。」
首相「そうか、それでは自分の判断で決断するしかないな。よし、ゴーサインだ。F氏に世界の運命を託そう。」
グレイ軍との戦い
人類の長い戦争の歴史において、初めての経験である。
あらゆる武器による攻撃がまったく通用しない。
グレイ軍兵士は極度に指揮系統が自動化されている。プログラム化されているのである。
こちらが攻撃すれば、すぐさま攻撃を無効化させる対抗手段をとってくる。同じパターンでの攻撃は2度以上通用しない。
そして、好き放題の暴虐無尽ぶりな目的達成行動をとる。
防御遺伝子を自在に変化させるエイズウイルスを連想させる。
しかも敵軍の戦術情報伝達スピードは驚異的であり、局地戦での戦い振りや味方の作戦、手の内はすべて敵全軍に読まれ記憶されてしまう。
グレイ軍の思想
個人が完全に抹殺された全体主義イデオロギーで統一されている。
個人はすべて部品である
自動攻撃兵士としてプログラム洗脳された後、地球遠征に派遣されている。
計算は地球のように十進法ではなく、ON/OFFの二進法であり、コンピューターは彼我の共通手段となる可能性が高い。
最後の戦い、F氏データVSグレイ軍
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F氏から採取されたあらゆるデータはただちに解析し分析され、培養強化され、50ギガワットの無指向性アンテナによってあまねく世界に発信放射された。
(1)地球国際連邦軍の作戦情報を聴取していたグレイ軍作戦コンピューターのセキュリティ突破に失敗。パスワード解除できず。
(2)完全同期にも失敗、プロトコル接続拒否される。
(3)しかし、なぜか作戦アルゴリズム部分にF氏データ注入開始。原因不明
(4)注入完了。作戦目的達成。
あっけない作戦終了である。はたして効果は出るのか?
成果
グレイ軍作戦コンピューターはただちに反応した。
最初、国連軍の電子攻撃と解し、防護免疫機能確立の為、防御システムの一部をF氏のデータと置換したのである。
とたんにグレイ軍の指揮系統は乱れはじめた。F氏データが等比級数的に自己増殖を開始したのである。
一糸乱れることのなかった各軍団、編成軍が離間しはじめ、中には疑心暗鬼となり、同士討ちを始めたのである。
すべての軍勢が消滅するのに14分間を必要とした。
おそるべし最終兵器、F氏データ。
再びF氏の登場
「あー、また失業しちまった。これで 1000回目の失業
だ。政府への就職ばかりなのは苦にならないが、長続きする仕事はないのかな??」
おしまい ーーV/(^▽^)/
ブイ 就職試験がんばってね


