こんなにも明るい闘病記を私は知らない
その先生は山野井道子さんといいまして、
僕は彼女と中学入学と同時に出会いました。
中学校までまったく勉強をしなかった僕に、
学習の楽しさを教えてくれたのが彼女でした。
「わからない、ってことは素晴らしいことだ。」
「わからないことをわからないと言える勇気をもちなさい。」
こんな指導をされた記憶が残っています。
「なんで英語の綴りはローマ字と違うのか？deskじゃねーでしょ、desukuでしょ？」
「アメリカの子供はどうやって国語辞典（アメリカの）をひくんだ？」
こんなウスラ馬鹿マルだし質問にも、
根気よく徹底的に付き合ってくれたのです。
（「質問力」ならぬ「質問バ力」ですな。）
けれどおかげで、
中学校入学時に、４５０人中４０５番だった僕の成績は、
あれよあれよと、１２５番、１番となったのです。
国士舘大学暴力学部ヤクザ学科のサングラス体育教師は、
テスト業者からの成績表を僕に手渡すときに、
「信じられないだろうが、なにやら本当らしい。さっき業者に再確認したから安心しろ。」
などと言ったのでありました。
それはさておき、
僕にとって大恩人である先生は、
その後、シュタイナー教育を学び、フリースクールのあり方を模索しはじめ、
学習塾の看板を下ろしました。
ちょうど学校の荒廃化が叫ばれた時代です。
「教育からいっさいの強制を排除する」
こんな試みに憑かれたように挑戦をしはじめたのです。
さまざまな実験がなされ、
さまざまな共鳴者があらわれ、
さまざまな仕事が生まれました。
そのさなかに、
彼女は膵臓癌を発症するのです。
新しいムーブメントを立ち上げた改革の主は
突然に、入院、闘病、という囚われの身になってしまいました。
「明るい闘病記」を書きたいという先生に、
当時もうすでに社会人だった僕は椎名誠本を沢山贈りました。
かきかけの原稿をみせてもらうと、
まさしく、あの「シーナ文体」で、
病院の日常半径３０メートルを明るく面白く書き綴っていました。
そしてそれが彼女の遺稿になったのです。
先生が亡くなったのは、確か１９８７年。
大学２年で周囲の反対をよそに学生結婚をし、
３９歳で突然「やっぱり子供が欲しい」と、
長男（遊くん）を産んだ山野井道子さん。
４４歳の若さで逝った先生の告別式は
本人の希望もあり、
明るくユーモアにあふれるものでした。
（なにしろ「私も是非参加したい」と言っていたらしい。）
「絶対に書き直す、書き直す。」
といっていた原稿は翌年、窓社から出版されました。
こんな心に残るフレーズがあります。
「人間は、自分が幸せでないのに、
周りの人を幸せにするというスゴイことを
やってのけたりするのです。」
あの森詠さんが
『こんなにも明るい闘病記を私は知らない』と評したこの本を、
読んでもらおうと思ったのです。
んじゃ。
みなさまへ
もう絶版だと思っていたんですが、
この機に調べてみたら未だ入手可能でした。
「ガン病棟にきてみない？ダメ患者の逃病記」窓社（山野井道子）です。
ご興味のある方は是非読んでください。
泣けますが、笑えます。
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