その時がきた&ムスメ誕生


ようやく普通の生活ができるようになった。

その日も夫が出勤してからあわただしく自分の出勤準備をして
出かける前にトイレに行った。
すると以前とは違う出血があった。
この前は大量に出血したのだが
なんというかじわぁ~と染み出してくる出血。
紙で拭いても止まらないカンジなのだ。

これはただ事ではないと病院に電話をして診察してもらうことにした。
しかし呼んだタクシーがなかなかこない。
運転手さんが似た名前のアパートに行ってしまったらしく
しばらくしてからやってきた。

診察してもらうとどうも先生があわてている。
私の担当医だったベテランの先生も来て
二人の会話を聞いていると
最初に診てくれた先生が
「子宮口がもう8cmも開いているんですよ~」と
おびえた口調で説明していた。
この時私は8cm開いているというのが
どういうことか理解できなかった。
確か入院していた時1cm開いた妊婦さんが
いたが絶対安静だったはず。
もしかしたらかなりやばいのでは?
と思ったが最初に思ったことは
「仕事に行くのはしばらく無理だな」くらいだった。
通常出産時の子宮口は10CMくらい開いている。
つまり私の子宮は妊娠7ヶ月だったにも
かかわらずほぼ全開だったのだ。
薬や入院でなんとかなると思っていたのだが
こればかりはどうにもならない。
ここまで開いてしまったら
後は産むしか手段はなかったのだ。
先生もあわてるはずである。

私が通っていたのは市立の総合病院だったが
NCUがない。
急遽大学病院に搬送されることが
決まり私は救急車で大学病院に向かった。
救急車で大学病院まで運ばれた。救急車ってすごく早いと思っていたのだが
意外に低速。市立病院から車で30分くらいの距離なのだが同じくらいかかった。
乗っている最中も初めての経験なのでどこかワクワクしていた。
大学病院に運ばれるのだから絶対に助かるだろう 何週間入院するのだろう?と安易に考えていた。

診察を受けると「10cm(全開)だよ。すぐに分娩台に移ってください!」と
入院するどころかあっというまに出産の準備に入ってしまった。
分娩台のベットに移るとちょうどお昼だったので
昼食が出た。朝もろくに食べずに出たのでおなかもすいていた。
おまけに大好きな山かけ丼。市立病院は食事が不味くうんざりしていたので
これはラッキーと完食した。

助産婦さんが来て雑談をしながらアンケートみたいなものをとられた。
自分の置かれた状況をまったく理解していなかった私は
いたってのんき。母親学級にも一度も参加してなかったので
呼吸法なども うろおぼえ。ちゃんと産めるかわからないし
初産なので陣痛がどうくるのかもしれない。
おなかもいっぱいで眠りそうだったので
「寝ているうちに気がついたら産まれてたりして~
そのときは起こしてくださいね。」と助産婦さんに冗談をいってたほどだ。
助産婦さんはこんな状況なのになんて楽天的な人だろうと思っていたに
違いない。私だって24週で子供を産むことが
どういうことか知っていたらこんなに明るく振舞えなかった。
何も知らなかった故不安や恐怖もなくリラックスした
状態で産むことができたのだろう。

3時から陣痛促進剤の点滴が入ったがなんの変化もなかった。
陣痛の波は次第にモニターには出ているのだが私はなんにも感じない。
何万人に一人かはまったく痛みを感じないで産める人がいるというから
もしかしたら私もその一人なのかも?と安堵していた。

ところが3時半をすぎたら急激な痛みがやってきた。
時々やむのだが間隔がわからずあっという間に
また激しい腹痛がやってくる。
子宮口は全開だっというのだからもう産んでもいいのかも?
と先生に聞くと
「まだ小児科の先生がきてないのでもう少し待って」
といわれる。
その次の陣痛が来たとき息も絶え絶えに
「小児科の先生まだですか~」と絶叫した。
実は分娩台のすぐ横にNCUがあり
小児科の先生はすぐに駆けつけてくれたのだが
胎児はまだ降りてきていなかったのだ。
「小児科の先生はもう来てるよ。次の陣痛で産むからがんばって~」
次ってもう極限状態なんですけど~と心の中で叫んだが
痛みをこらえるので必死だ。
痛さをこらえようと足をバタバタすると
「だめ」と怒られるので必死にこらえ
苦しさのあまり息を止めようとすると
「赤ちゃんも息できなくなって苦しいよ~」といわれるので
過呼吸になるまで必死にすってはいていた。

一度目のいきみはうまくいかなかったが
二度目では私が押し出したというよりは
先生に引きずりだされという感じ。
気がつくと「産まれました!」と言われ
あっという間に赤ん坊は別室に連れて行かれた。
その間私は何もみていない。
数名いたスタッフも(今思うとインターンも混じってたのか?多すぎ)
も二名しかいなかった。

1997年2月21日16時12分
予定日は来年六月のはずだったムスメは四ヶ月も早く
この世に生を受けた。


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