趣味の漢詩と日本文学

趣味の漢詩と日本文学

July 31, 2011
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カテゴリ: 国漢文
【本文】さてこの男は、呉竹のよながきをきりて、狩衣・袴・烏帽子・帯とをいれて、弓・胡?(やなぐひ)・太刀などいれてぞ埋みける。いま一人は愚なる親にやありけむ、さもせでぞありける。かの塚の名をば、処女塚とぞいひける。
【訳】
ところで、この男のほうの親は、呉竹で節が長い竹を切って、狩衣・袴・烏帽子・帯とをいれて、弓・胡?(やなぐひ)・太刀などいれて土に埋めたとさ。もう一人のほうは愚な親だったのであろうか、そんなふうにもしないでいたとさ。その塚の名を、処女塚と言ったとさ。

【本文】ある旅人、この塚のもとにやどりたりけるに、人のいさかひする音のしければ、あやしと思ひてみせければ、「さることもなし」といひければ、あやしとおもふおもふねぶりたるに、血にまみれたる男、まへにきてひざまづきて、「われ、かたきにせめられてわびにて侍り。御はかし暫時(しばし)かし給はらむ、ねたき物のむくひし侍らむ」といふに、おそろしとおもへどかしてけり。
【訳】ある旅人が、この墓のそばに野宿したところ、人が争う音がしたので、不思議だと思って、連れに見させたところ、「そんなこともない」と言ったので、不思議だ不思議だと思いながら眠り込んでいると、血にまみれている男が、前に来てひざまずいて、「私は恋仇に攻撃されてつらいめに遭ってしまった。お刀をしばらく貸していただこう、それで憎い相手に仕返ししよう」と言うので、恐ろしいことだとは思ったけれども、貸してやった。

【本文】さめて夢にやあらむとおもへど、太刀はまことにとらせてやりてけり。とばかり聞けば、いみじうさきのごといさかふなり。しばしありて、はじめの男きていみじうよろこびて、「御とくにとしごろねたき物うち殺し侍りぬ。今よりはながき御まもりとなり侍べき」とてこのことのはじめより語る。
【訳】目が覚めて夢であろうかと思ったが、刀はほんとうに与えてやったのだった。しばらく聞いていると、先ほどのように、ひどく争っているらしい。しばらくして、はじめに姿を現した男がやってきて、ひどく喜んで、「あなたさまのおかげで、年来憎んでいた相手を殺しました。今後、長い間あなたの守護霊となりましょう。」と言って、この今までのいきさつを語った。

【本文】いとむくつけしと思へど、珍らしきことなれば、問ひ聞くほどに夜も明けにければ人もなし。朝にみれば、塚のもとに血などなむながれたりける。太刀にも血つきてなむありける。いとうとましくおぼゆることなれど人のいひけるままなり。
【訳】非常に不気味だと思ったが、珍しい話なので、質問しながら聞くうちに、夜も明けてしまったので、先ほどの亡霊もいなくなった。早朝、見てみると、墓のところに血などが流れていた。太刀に血もついていた。非常にいやに感じられる話だけれども、人の言った通りの事実である。









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Last updated  July 31, 2011 05:23:16 PM
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