趣味の漢詩と日本文学

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August 10, 2016
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カテゴリ: 国漢文
【本文】又、在中将、内にさぶらふに、宮すん所の御方より、忘れ草をなむ「これは何とかいふ」とてたまへりければ、
【訳】これもまた、在五中将在原業平が、宮中に参内していたときに、御息所から、ワスレグサを「これは何という草か」と言って、贈ってくださったところ、
【注】
「内」=内裏。宮中。
「さぶらふ」=出仕する。
「みやすんどころ」=皇子・皇女をお生みになった女御・更衣を指すことが多い。
「忘れ草」=ふつうは萱草(カンゾウ)の古い呼び名。身につけると、心の憂さを忘れられるという俗信があった。ただし、ここではシノブグサの異名として用いられている。
「たまふ」=「与ふ」「授く」の尊敬語。くださる。お与えになる。

【本文】中将、

となむありける。
【訳】中将が、
私がご無沙汰いたしておりますのを「あなたはワスレグサが生える野原のように私のことをすっかり忘れているの」とみなしているのでしょうが、これはシノブグサですよ。あなたが昔付き合っていた私を思いしたってくださるのなら、のちのちまでもそのお気持ちをたよりにいたしましょう。
と返事の歌を書き送った。
【注】
「しのぶ」=「往時をしのぶ」意に「シノブグサ」の意を掛けた。「忍ぶ種」の意の連想から、往時をしのぶものの意に用いる。シダ類の一種、ノキシノブ。『平家物語』灌頂の巻≪大原御幸≫にも「しのぶまじりの忘れ草」という「しのぶ」と「忘れ草」を同時に用いた例がある。

【本文】同じ草を忍ぶ草、忘れ草といへば、それよりなむよみたりける。
【訳】同じ一つの草をシノブグサ、ワスレグサと呼ぶので、それにもとづいてこの歌を作ったとさ。
【注】
この話は『伊勢物語』百段に基づいているとされている





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Last updated  August 10, 2016 06:59:40 PM
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