第百二十四段
【本文】
むかし、男、いかなりけることを思ひけるをりにか、よめる。
思ふこと 言はでぞただに やみぬべき われとひとしき 人しなければ
【注】
〇いかなり=どんな。
〇をり=場合。
〇で=~ないで~ずに。打消し接続の接続助詞。
〇ただに=むなしく。
〇やみぬべき=きっと終わりにしてしまおう。「べき」は「ぞ」の結び。
〇人しなければ=「し」は、強意の副助詞。そんな人なんてどこにもいないのだから。
【訳】むかし、男が、どんなことを考えていた時のことだったのだろうか、作った歌。
心中で思っていることを言はないで、むなしくきっと終わりにしてしまおう。私と思いがまったく同じそんな人なんてこの世のどこにもいないのだから。