衣装の注目
もっとも間近に観られるのは、バック音楽を演奏するミュージシャンたちである。
ショーの始まりに客席から登場し、ぐるっと会場を廻るからである。
かれらの衣装はコクのある深い白を基調としていて、ハデなことこの上ない。
中でももっとも「普通」の服に近いのであるが、
デザインや装飾は当たり前のこと、
布地の素材というか、つやや張りが全く違って、
こだわり感・贅沢感満点である。
例えばズボンの丈が異様に短いのである。
でも、そのズボンが1cmでも2cmでも長ければダメなのである、
全体のデザインが台無しなのである。
私は普段、テキトウな服を着てしまっているくせにそのダサいのが我慢ならないと思っていたので
自分専用でデザインが完璧、きっと着心地も良いであろうその状態を、とてもうらやましく思ってしまった。
気に入っているのはフライング・マンの衣装である。
上から吊ったバンジーで空を飛ぶのだが、
下半身だけがまるで鳥の尾羽の様なひらひらしたデザインとなっていて、
水平に舞台上を飛ぶとまるで重力がないようだ。
マニピュレーション。
リボンやフープを巧みに操っている。
それまで照明は東洋人に青い光、西洋人に赤い光を当てていると思ったが
彼女には青い光が当たっていて、黄色（？）の衣装が白く見える。
技が決まると道具を扱う以外はピタッと止まって、まるで生きた彫刻のようである。
脚光が当たって道具も光っていて、
いくつも回しているフープのどれもが水平で、しかもバラけてまわって
それが美しいのだということに気がづいた。
ニュー・ロシアン・バー。
よくたわむ平均台の様な長い棒を担いで、その上で跳ぶのである。
ビョーンビョーンと２回高く跳躍して着地時はピタッ！と止まって
まるでバーがたわまない様に見せる。
決めポーズで腕を広げると、衣装の二の腕部に少しギャザーがよっていて、
鳥が羽を広げたように見える。
驚いたのは使っていないバーを、微動だにしないで手の上に垂直に立てて待機していたことだ。
今日はばっちり照明が当たって美しい。
まるで生き物でなくなった様な静かさである。
担ぐ人はベージュ、跳ぶ人は青白く見え、
同じ衣装でも光の当たり方で全く印象が異なるのである。
とても身体の柔らかい二人。ニュー・コントーションである。
私は動きが大ざっぱなので何か励みになることはないかと真剣に観る。
緩やかに絶え間なく動いて柔軟さを披露してくれる。
一瞬どちらが身体のお腹側で、どちらが背中側かが分からないほどだ。
衣装と化粧の青色が演者の表情にとてもマッチしていて、
似合っているといえばこの二人が一番である。
さて照明が全く当たらない登場人物があるのだった。
黒い衣装のお姫様と、ボロボロにやつれた羽を持つつば広の帽子の放浪者である。
かれらは全く光が当たらないがすぐ近くにいて、
二人を「無表情」で見守っているのだ。
強い光の当たるすぐ外側は闇で、
人間には明るい表面からは想像できない重くて暗い感情が沈んでいるのを象徴しているようで、
それがいやで常々、めくっても裏からは何もでてこない
ポスター写真のような人間を目指していた私にとっては
少々重苦しい演出なのであった。
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