音楽の妙



短調の音楽が苦手だからだ。
曲調に飲み込まれて2-3日沈んでしまうからだ。
店などでうっかり聞いてしまった時は、その場を立ち去るのだった。
音楽を聴きにいくこともあるが、そんなときはたいてい演奏中の一人が緊張していて
音が固まっている、それに救われて飲み込まれずに済んでいたりするのだ。

だから、サーカスのバック音楽が短調一辺倒なのには参った。
例えば自分を、笑顔だけで移っているポスターにたとえると、
そのポスターを剥がして裏を覗きに来るようだ。
特にアコーディオンでワルツのリズムでやられた日にはお手上げである。
あともうちょっとテンポがゆっくりであれば、確実に飲み込まれているはずだ。

でも今日は技のダイナミックさ、高揚感に引き上げられて
音楽が私にとっては中和されて感じる。
注意して聴くと、アクシデントの起こりうる演目には
時間調整が可能なように、4小節単位のサビの変奏を多用した曲が充てられ、
他、演者の出身地、演目の内容などが考慮してあるように思える。

それに気づいて、常日頃、自分専用のファンファーレが欲しい、元気が出るのに、
と切望しているバカな私は、猛烈にびっくりしてしまう。


そして音楽を覚えていたことにもびっくりした。
曲が始まるタイミング、演目との対応もかなり正確に覚えている。
前に観たのは1年前である。
やはり確実にしみこんでいたのだ、
私には音楽の素養がないが、
きっとこれはとてもいい音楽で演奏技術も高く、
演目との調和も緻密に計算され尽くしているのであろう。


そんなわけで買うつもりのなかったCDを買ってみる。
友人に頼まれたこともあるのだが、
専用の再生機を持ってないのにどうするつもりだろう。
CDはチケットの値段の1/4である。

お得!?
そんなわけない。
4回聴いたからって曲を覚えたり、
実際に観るのと同じ感動を味わえるとは思えない。


生にかなわないことは分かり切っているのだ。








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