がらくた小説館



 この前妻に、いきなり怒鳴られた。
「別れたい」と。

 何のことやら分からずに押し問答を始めたが、口先の立つ女にはかなわない。とにかく親権もとられて、子供と一緒に出て行くと言って聞かない。
確かに俺にも非があったのかもしれない。だが妻は離婚の原因を何も語ろうとはしなかった。

 思い起こしてみる。そう言えば毎日風呂に入らなかったのがいけなかったのか、給料が安いのが駄目なのか、俺の足の臭さに耐えられなかったのか…。
 考え出せばいくつか要因らしきものは出てくる。だがこれと言って決定打が思いつかない。
 確かに俺はチビでデブで甲斐性なしで頭もちょっと薄い。この歳で道にはよく迷うし、風俗にも頻繁に通う。眉毛は抜きすぎて最早手遅れだし、自販機の下は毎日覗く。この前なんか小学生からかつ上げにあった。
 でも…。

 そこで俺はとにかく別居中の妻に電話を掛けて聞いてみることにした。
「俺の何がいけないんだ?」と俺。
「それじゃはっきり言うわよ」と妻。
「頼む。それを聞かないと納得いかないんだ」
「あんたの子供のことよ」
「正人のことか?」
「ええ、正人はもう小学生に上がるのよ。あなたちょっとおかしいと思わないの?」
「何が?」
「ちっとも私に似ていないじゃない」
「えっ?」
「あんた別の女と子供作ったんでしょ。私知ってるのよ。だから正人は私に似ていないのよ」

 そこで電話は切れた。

 あれからもう十年が立つ。
 正人は立派な大人になっているだろうか?ただ、あの時以来ずっと疑問に思っていることがあった。
 確かに正人は元妻には似ていなかった。
 しかし俺にも似ていなかったのだ。もしかしたら俺と風俗嬢との間に生まれた子供なのか?いや、正人は妻のお腹の中から生まれたのだからそれは考えられない。

 だとしたら、正人はいったい誰の子供なのだろうか?

 謎はますます深まるばかりなのだ。





ちょっとオチが分かりにくかったかもしれません…。
説明させていただきますと、正人は(子供)は妻にも主人公にも似ていないのです。ですが「正人は妻のお腹の中から生まれたのだから」とあるように、妻から生まれたのは確かなんです。
ということは、妻の子供であることは間違いないんです。
つまり結果を言いますと、妻と誰か?の子供ということです。
だから主人公に似ていなくても、妻に似ていなくても成り立つんです。誰か?に似たということになるので。
結果、妻の浮気なんです…。主人公はだまされたということです。


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