がらくた小説館

できちゃった結婚


「できちゃったみたい…」
 突然の彼女からの電話だった。

 30を前にしてやってしまった…というのが本心だ。
 彼女とは同じ歳で、結婚を前提に付き合ってきたのだが、まさかこんな形でとは思わなかった。

 しかしこうなっては仕方が無い。迅速に結婚までの道を進まなければならない。そしてその登竜門がご両親への挨拶だ。だが、これがとても難関だというのを彼女から聞かされていた。

 それというのもそこの親父さんというのが大変厳しい人らしい。なんでも警察官の偉いさんらしく、昔気質の人だというのだ。

 二三発は殴られる覚悟はしていたのだが、いざその親父を目の前にすると、ビビッて声もでなかった。

 優しそうなお母さんの隣であぐらをかいて座る鬼軍曹。それはまるで警察官というよりは、その天敵である組の親分と言ったところか。
 そしてこの張り詰めた空気。

 さすがにその状況に耐え切れなくなった俺は、土下座から始めようと思っていた。
 するとその刹那、いきなり鬼軍曹が立ち上がった。
 殺される!!!
 そう思った瞬間、軍曹は「まあ、そんなに緊張することはないよ。足を崩しなさい」と言って俺の肩にそっと手をかけたのだ。

「はい」
 思っても見なかった一言に声が裏返る俺。

 途端に部屋中に笑いが広がった。
 もうそこにはあの重々しい空気は存在せず、和やかな雰囲気が立ちこめていた。

 もしや?と思って彼女を見るが、同様の笑顔が返ってくる。
 どうやら彼女は、子供ができたことを親に話ていたみたいだ。そしてもう怒ってはいないのだろう。やってしまったことは仕方が無い。そんな様子が軍曹の顔にも見てとれた。今ではケロロ軍曹のようにさえ思えてくるから不思議だ。

 そこで俺は一応筋を通すためにも、自分の口から伝えることにした。

「この度はは本当にすいませんでした」と頭を下げる俺。

「もういいのよ。早く初孫の姿が見たいわ」と微笑むお母さん。

「初孫?二人目ができちゃったんですよ。ははは」と答える俺。


 その瞬間、ケロロ軍曹の顔が、般若に変わるのを、俺は見逃さなかった…。







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