がらくた小説館

おばあちゃんの思い出

俺は子供の頃からおばあちゃん子だった。

両親とは小さい時に死に別れ、おばあちゃんに育てられた。おばあちゃんは厳しい人で、俺を強い人間に育てようとした。

しかしそんなおばあちゃんも去年死んだ。俺は今会社の屋上に立っていた。風が冷たい。空は今にも泣き出しそうな表情を見せていた。

靴を揃え、俺は空へ向かう柵を乗り越えた。地上を見下ろすと、様々な人達が行きかう姿がいた。それはまるでお人形のようだった。

そして最後に大好きだったおばあちゃんのことを考えた。厳しかったおばあちゃん。優しかったおばあちゃん。俺は…。

その時ふいに、おばあちゃんが昔からよく俺に言っていた言葉を思い出した。その言葉を胸に、俺はここまでやってこれたのだと思う。

「ありがとう」

俺は心の中でそう呟いていた。そして途端にふつふつと勇気が湧いてきた。「俺は何をやっているのだ」と自問自答した。

そして俺は勢いよく空へとバンジーした。勿論ロープなどつけていない。

「やったよ。俺やったよ、ばあちゃん」

俺は迫り来る空と地上の間でそう叫んでいた。

思えば俺はもうこんなことを何十回も繰り返してきたのだ。勇気がなかったのだ。いつも決心がつかず、何度も同じことを繰り返してきた。

でもおばあちゃんのあの言葉が、俺に飛び降りる勇気をくれたのだ。

地上はもうすぐそこまで迫ってきていた。

そしてそこで俺は目を瞑り、おばあちゃんのあの言葉を精一杯の大声で叫んだ。

「お前はやれば出来る子だ~」


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