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○前回はここいら辺
「今度ほんとに酒飲みに誘ってくれると嬉しいなあ」
「分かった、近いうちにに必ず」
嬉しそうに頷くケンさんに銀塚の冷ややかな声がかかる
「ケンちゃん、行くわよ」
小説 「 scene clipper 」 Episode 27
嵐が過ぎ去った。
大風が吹いたわけではなく、雨が降ったわけでもない。
だが、リョウは己の心の中に立ちつくし、己の背骨にしがみついたまま嵐に晒されていたのだ。
今の今まで・・・。
気が付けば、水城が、夕子ちゃんといて、上妻とスージーも、何よりマリが待ってくれていた。
「みんな、ありがとうな。みんなにとっちゃ退屈な芝居だったろうに」
「本当だよ、夕子ちゃんが引き止めてくれなきゃあたしは二回この店出てる」
「そうだよな、悪かった本当に」
そう言ってリョウは先ずマリに、それからみんなに頭を下げた。
黙って聞いていてくれた水城が可愛いことを言った。
「何すか!頭下げてるリョウさんなんか、俺見たくないっすよ!」
「そう言うなよ水城、俺だって弱みのひとつくらい持ってるさ」
リョウはカウンターを振り返って
「ター君、ビール頼むよ、3本くらいかな・・・」
みんなを振り返ると上妻が代表して
「そんなところでいいんじゃないか・・・」
とまとめてくれた。
「了解、あ、これお前の口癖だったよな。(笑)」
マリが我慢してたタバコをくわえて火を付けた。
「で、あれで決着ついたわけ・・・たぶん初恋だったんだろうけど」
「ああ、完全完結ドリーマーってやつだ」
「何それ?」
「想像力たくましいマリちゃんでも、初めて会った人の中身見通すことは無理だよな」
「あの子の今日の中身なら見えたけど・・・小3の頃からの中身なんて知る余地も・・まあ、あの子が変わってしまったってことは想像つくけど、話し聞いてて」
「さすがだなあ」
「・・・・・」
「そのマリちゃんの想像力、高くてせいぜいがとこ都庁展望台の200メートルほどが生活環境の巡行高度域に暮らす人の想像力のことだが、これは俺もみんなも持ってる想像力だ・・・銀塚はそれを高―い空に置いてきちゃったんだなきっと・・・」
そこへター君が来た。
「はいよ、お待ち。枝豆も持ってきたけど食べるか?」
「お、いいねぇ、ター君気が利いてるねえ」
「江戸っ子だからな」
「はいはい」
「返事はひとつでいいって教わらなかったか?」
「はい」
「それそれ・・・あ、邪魔したね」
とみんなを見回し、優しいター君は去っていく。
リョウはしっかり長話を聞いてくれたみんなにビールをついで回った。
そこで上妻が口を開いた。
「今日のお前の話、なんか納得したよ。銀塚が変わったのには俺もすぐに気づいたし、その原因がお袋さんの親心による束縛だってことも頷けた。
けどな、銀塚が変わった原因はそれだけじゃないと感じたんだ。お前のその生活環境の巡行高度って説、あれを聞いてて直接の原因は彼女自身が創り出したんじゃないか。
あまりに溜まっていた鬱憤が、極端に違う高みに羽ばたいたことで、もしかしたら彼女自身さえ想像し得なかった環境に身を置いてしまったために、性格まで変化してしまった・・・違うか?」
「違わない。それが俺の言いたかったことだ。あいつ、銀塚は昔はあんなきつい言い方をする女じゃなかった。地表近くで暮らす人だった頃、あいつも人並みの想像力を持っていたんだ。
だから相手を思いやることが出来てた。よく言うじゃないか、似た者同士って。
誰にでも弱いところがあるってこと、あの頃のあいつは知っていた。想像できていたんだ、もしかしたら俺たち以上にだ。だからじゃないかな、あいつは人一倍優しかった・・・そこが良かった。
だけど上妻が言ったように極端に変わった生活環境の巡行高度に慣れてしまった。地表のアリが見えなく、いや多分存在さえ忘れてしまったのかもしれない」
「分かった・・・そこそこ納得できる話ね。けどちょっと疲れたから帰る」
みんなも同意らしく、すぐに身支度を始めた。
そんな彼らを見渡してリョウは「済まなかった」と言い、そして続けた。
「今日は水城と夕子ちゃんのお祝いだったのに、とんだ邪魔が入って、俺も結局そのお邪魔虫の片棒担いでしまって、夕子ちゃんごめんね、それに今日初参加のスージーも、ごめん!」
「いえ、リョウさんの違う一面を見れて、なんか得した気分でいますから大丈夫です」
「私も」これは夕子ちゃん
「いやいや、これは参った!上妻も水城も女を見る目あるよなー」
「だろ!お前も見る目を養えよ」
「ああ、俺は今日マリちゃんとふたりで帰るから」
「ほう、やっとな・・・」
「私なら一人で大丈夫だから」
「いや、俺が大丈夫じゃないから」
「・・・世話の焼ける男だこと・・・」
北沢ロフトの入り口が爆笑に包まれた。
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