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小説 「 scene clipper 」 Episode 37
「ケンさん、あれに乗るのかい?」
リョウは歩みを止めると隣を歩いてたケンにそう尋ねた。
「ああ、リョウさんが了承してくれたらあれでお連れするようにと、会長がそう言われたんだ」
「ありがたいね」
「ありがたいとは、嬉しいね」
「本音だよ、こんなでかいベンツ初めて乗るんだから」
再び歩き始めると助手席のドアが開き若い男が降りてきて後部座席のドアを開けてくれた。
リョウはケンに言われて先に乗ったが、間際にドアを開けてくれた若者に軽く頭を下げ、後部座席に乗り込む時には
車内全体に向けて「失礼します」と声をかけた。
それを見てケンは少し安心した。
ケンが乗り込むとドアを閉めた男は助手席に戻る、一連の動作によどみは無い。
やがて大きなベンツは走り始めた。
「リョウさん、落ち着いてるなあ、一般人にしては」
「うーん、緊張はしてるけどね今までの経験上ケンさんのような男は友達を裏切らないでしょ?」
「当たり前だけど嬉しいね。けどその自信はどうやって身につけたのか聞かせて欲しいな」
「そうだねえ、自信ってほどじゃないけれど、経験を通して分かったことがあって・・・」
「ほう、どんな?」
「そうだな・・・ある時歩いてて都内のあるお寺さんの前に通りかかったんだけど、そこに何故か例の元気な街宣車が止まっていてね。数人の男たちがお寺さんの門の前で奇声を上げていたんだ」
「うんうん」
ケンは興味を覚えたようだ。
「それだけならまあ、我慢できたんだがよりによってそいつら、数珠を編み上げの長靴で踏みつけてやがった。
とても見ないふりは出来なくてそいつらに向かって『この罰当たりが!!』て怒鳴りつけたんだ」
「おやおや、リョウさん短気だねえ」
リョウの目が光りケンを見た。
ビクっとしたケンにリョウは言った。
「俺のオヤジが僧侶だったとしてもか?」
「え!そうだったの?いや、聞いてないからさあ」
「そうか、ごめん知らなかったよね話してないもんな、俺こそごめん」
リョウは苦笑いしながら頭を下げた。
「いや、それなら話は分かるカッとなるよそりゃあ」
「だよね、で、連中は瞬間口を開いたまま啞然としてたんだけど、その後烈火のごとく怒り始めて」
「だろうな、それで」
話の展開が気になったらしくケンもリョウの隣の若い男も、前の二人までもがリョウを注視しはじめたが
「こら!ちゃんと運転してろ!」
とケンさんに叱られてしょげかえってしまった。
全員目は前方を向いてはいるが、耳だけはしっかり機能を全開にしてリョウの話を聞き逃すまいとしている。それはやっぱり気配で感じるものだ。
「それから人数が増えてね、俺は近所の食べ物屋に連れて行かれて、食べてる最中のお客さんも怖がって出てくし店の人も奥に引きこもったんだ」
「そりゃあちょいとやばいな」
「だろ?俺もこりゃあヤバいことになった今日無事に帰れっかなあって途方にくれつつあったんだが」
「そん時俺が居たらなあ」
リョウはクスッと笑って「ホントな・・・」
「そん時にね、ちょいとマズイ空気を破ってある人が入ってきたんだが、それで何だかほっとした」
「・・・・?」
「その他の連中にないお落ち着きがあって、貫禄っていうか、元気だけが取り柄っていうんじゃなく腹が座っていて頼れるって・・・あの状況で俺は男の力量の判断基準をはっきりと自得したと思ってる。その理由が『本当に腹の座った男は、無暗に力を振るわない』ってことだった」
ケンはリョウの話に大きく頷いていた。
「その男は、俺のオヤジが僧侶だったってことを聞いて俺の目を凝視しながら頷いたんだ。そして『そこで怒りを覚えなきゃ男じゃねえな。まあこいつらも体を張っていることだ、お互いさまってことで引き取ってくれ』そう言って解放してくれたよ」
「そうか、話の分かる男がいて良かったなリョウさん」
「うん、ホンとどうなることかって気が気じゃなかったからなあ」
ケンはホっとした。リョウなら会長の前で卑屈になることも、調子に乗って怒らせる事もないだろう、と。
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