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2006/04/26
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カテゴリ: 個人図書館
恋名月

●山手樹一郎
●春陽文庫



なんとしても寂しい。東助は金をしまってなにかを求めるように茶の間へきた。今まで津也が座っていた炬燵へ膝を入れて、ぼんやりあたりを見まわすと、箪笥の前へ片寄せた針箱と並べて、脱いだふだん着がそでだたみにしておいてある。
(略)じいんと目の奥が熱くなって、思わず横になりながら手をのばしてそれを引きよせ、枕がわりに頬をうずめた。しみいるような妻のにおいが胸を揺さぶる。
「これだけはそっともらっておいてもよかろう」
そんな気になると、ひとりでに涙がわいてきた。ほかほかとあたたかい炬燵である。


 時代小説というと、皆さんは、池波正太郎や山本周五郎、藤沢周平などを思い浮かべるかもしれません。
が、私がひそかに大好きな時代小説家は、この人、山手樹一郎なのです。

 彼の小説は春陽堂の文庫で出ています。昔から、書店の本棚の一角にある猩猩緋色の背表紙、その存在を認めつつ、滅多に手をのばしませんでした。
何かの拍子で手に取ったことがあっても、表紙の国貞の浮世絵になんだか、池波正太郎たちと違う雰囲気を読み取って、やっぱり棚に戻しました。

 が、なぜでしょう、去年、ふっと彼の短編時代小説全集を買ったしまったのです。
すると、これが、面白い。
池波正太郎よりのめりこみ、山本周五郎より明るくて、藤沢周平の悲哀が漂わない。


なんです。

 さすが桃太郎侍の作家です。
途中色々とあるけど、終わりはじわじわと口元がゆるんでしまうような、ハッピーエンドです。

 上で引用した文章の作品、旦那さんがなんとなくかわいそうで愛しいです。
いつまでも心を開いてくれない妻に、勤務上の失態で永のお暇となるのをきっかけに、とうとう離縁状をそれとわからせずにもたせるのですが、それでも未練が残って、炬燵に入りながら、妻が脱いでいった着物を引き寄せて、顔をうずめ、涙を浮かべながら、うとうとしてしまう。
 可愛いじゃありませんか。

 猩猩緋の背表紙は長篇時代小説全集のほうです。
花浅黄色の背表紙が短編時代小説全集、一冊だけ品切れで買えなかったのが、とても残念です。
この全集も、棺に入れる本リストの中に入っています。
私の棺は、重いが、さぞよく燃えることでしょう。

 春陽文庫、山手樹一郎の短篇小説の再刊を始めています。

旧装丁もいいけど、新装丁もいい。買わなきゃ。





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最終更新日  2006/04/26 08:15:26 AM
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