椿荘日記

椿荘日記

アウトドアとマリ①


「破目」と申しますのは、この「椿荘日記」を日頃ご愛読下さっている方々には、容易に想像が付かれるかと思いますけれど、マリは所謂「アウトドア活動」が大の苦手なのです。
涼しい高原や広々とした海辺に滞在し、野外料理を楽しんだり、朝のお散歩や、寝椅子にまどろみながらの読書は、とても惹かれるのものがあるのですけれど、アウトドアには着きものの、マリの天敵「数学(算数)」「歯」と続く第三の存在である、「虫」との遭遇が頻繁に行われ、それがマリを躊躇わせているのでした。
マリも世の多くのご婦人方の例に漏れず、虫の類、ことに大仰な形態の蛾と、俗名「イモ虫」と呼ばれるその幼虫が大の苦手で、毎年夏になると否応なく連れて行かれる、キャンプ生活の到る場所で、哺乳類たる人間の目からは、どう考えても奇妙な形状の生物に脅かされ(?)、その度に辺り構わない不調法な悲鳴を何度上げたか知れません。

夫はマリと違い、キャンプなどの野外活動が大好きで(本当に尽く趣味や好みが違うのです。大学時代は、自転車にテントを積んで、友人達と全国を廻るほどでした)、今回もウィンドサーフィンの道具一式を携え、テントや タープ(野外用の天蓋)などの装備も怠りなく出掛けます。
最近のキャンプサイトは昔と違い、衛生施設、炊事場などの各設備も整っていて、快適に過ごせるようになりましたけれど、サバイバルな(?)夫の好むサイトは、テントの張場に措ける占有面積の制限などが余りない代わりに、そういった近代設備には事欠く、ある意味では「野生生活」の味わえる、旧態然とした不便な場所に、より魅力を感じるようで、そのことも、マリの同行のに対する気持ちを削いでいるのでした。
とは言え、日頃は忙しいマリですし、家族サービスの必要性は大いに感じるところですので、そこは大きく譲って「条件付き」で、半ば渋々、三泊四日という長期の日程で出掛ける事を承諾致しました。
火曜日の朝は、何時ものように早々に起きだし、キャンプ生活は、ある面では日常生活の移動となりますので、台所用品を大童で揃え、その他の大荷物を積んで出発です。

お盆休みですし、道路のかなりの混雑を予想して、要所要所を上手く免れ(夫は抜け道を探すのが得意の様です。野生の勘でしょうか)快適なドライブの末、丁度お昼頃に目的地に到着です。
一昨年以来(昨年は、マリの体調で、流石に夫も諦めてくれましたので)の訪問ですが、様子は殆ど変わらず、混み合っているのにも拘らず比較的良い場所にテントを設営することが出来ました。
幸先良い、「アウトドアライフ」の始まりです。

そう、先ほど申しました条件とは、このキャンプ生活で、マリがなるべく日常の延長にならない様、家事(つまり「おさんどん」ですね)を、夫と息子が分担するということで、食事の用意などの指示はしても、極力夫と息子が手を動かすよう、約束してもらったのです(そうでないと、主婦たる女性は、一体何をしに来たのか判らなくなりますものね)。
イギリスなど欧米では、キャンプ生活の食事の仕度と後片付けは、ご主人方の役目と決まっており、バーベキューパーティに招かれましても、忙しく立ち働くのは殿方ばかりで、ご婦人方はグラスを片手に、ガーデンチェアに座ったままお喋りに興じていて、勿論お料理のサーブも受けるだけで、ご主人の為にはフォーク一本動かさないという方も多く見受けました(ある日本の企業の男性の方が、パーティの場で、飲み物やお料理を何時もの伝で奥様に運ばせていたところ、「非常識」だと顰蹙を買ったというお話を聞いたことがあります)。
夫も、その習慣と雰囲気の中ですっかり再教育されまして、渡英前は文字通り、指一本動かさなかった人間が、今ではバーベキューでの焼き方は自分の役割と心得、朝食の目玉焼きも進んで作る様になりまして、今回も前述の条件を素直に(笑)飲んでくれました。


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