星の髪飾り

星の髪飾り

2007/02/07
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過去と他人は変えられない。 ならば、希望のかけらをポケットに入れてオバサンの

誇りを口ずさみ、図々しさとグルになって歩いていこう。

 シフト表に倉田と西田チーフの名前がないだけで、食欲が倍になる。

そんな自分がどこか虚しい。

「おまえ、よく食べるなあ」

「体力勝負! 」

 秀明が新聞をずらして裕子の二杯目の「こんもり御飯」を見た。

裕子は少しやつれた夫の横に「自殺者2万人を超える」という新聞の見出をみた。

夫と同年代の倉田を想う。 訳ありの料理人、なぜか家族の気配が見えてこない。

「来年あたりは3万なんて数になるのだろうか」と、ぼそぼそ話しながら朝食を終えた。

 ひっきりなしにやってくる苦手のハードル、不況のハードル、越えても温和なんて甘い。

ただ、次のハードルが多少高くなっても、勇気という剣が味方になる。 

一年あまりの病の中で、天井を見つめながら「平凡」の贅沢さを知らされた裕子は

二膳のごはんに心から感謝をする。



 2月最初の土曜日。 気温2度。 

外の元栓、温度チェックを終え、中の仕事にとりかかる。

 12時を回った頃、ヤングママの一人古川千尋の一声があった。

「9名様、お入りです! 」

 切れのいい爽やかな声が響いた。  

キッチンの面々はコンピューターから出てくるオーダーを待つ。 

「何ですか、このレシートみたいなの? 」

「フロア―の子がオーダーをハンディーターミナルに入れて、ここに打ち込むと・・・」

「ハンディーターミナルっていうんですか、あのリモコンの複雑化したの」

「そう。 とにかくしっかり頼みます! 香川さん」

 9名の集合体はどうやら中高年の女性らしい。 オーダーの前からお喋りは忙しい。

ダンスサークルの面々を思い出すと同時に、明後日はダンスの日だと言い聞かせる。

浮腫みがちな下半身をストレッチ。 リズムに乗って血行促進、振り付け覚えて脳の

衰えにブレーキをかける大事な日。


 次々とドアが開く。 隣のグランドで野球があるらしい。 今日は混むと朝礼で言われた。

美味しい料理をいかに素早く提供するか。 店長瀬川の口癖、もうひとつ「売上げ」

腕とテンポと阿吽の呼吸。 チーフ西田の口癖、もうひとつ「節約」

小林が帯びのようなオーダーを卒なくこなしている姿に、ついつい見惚れる裕子。

口が開き、手が止まり、フライパンを自在に使いこなす姿に感心する。 

倉田の視線がないから緩む。 ついでに知ってしまったリーダー西田の遅刻常習。 

ありえない弛み。 


「すみませーん! ルッコラ取って下さい」

 竜也が言った。

「はい! 」

 我にかえった裕子が冷蔵庫に入る。 2月の冷蔵庫は氷河期の若者より寒い。

左に並ぶ多くの野菜やハーブ類。 それらの指定席を今だ覚えられない。 

クレソン、パセリ、バジル・・・「ない!」

というより、正直探せない。 なぜならクレソンを知らないからだ・・・・・・

「すみません! どのへんですか? みんな同じ葉っぱに見えるんですが! 」

「上から2段目の手前」

 ベテラン小林は、自分の仕事をしていても周囲の動きにアンテナを張り、機転が効く。

「ありました! ありがとうございます」

 裕子はルッコラを覚えた。 (今日の収穫その3だ)

スープに卵を落とすタイミングをこの歳で知った。(その2)



「3番(トイレ)、行って来ます」

 小林がトイレに向かう途中、バックヤードの作業台に準備したホテルパンをチラリと見た。

そうして控えめに微笑んだ。

 そこには、裕子がスライスしたレッドオニオンが入っていた。(その3としておこう)



撮影 pooh0529さん





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最終更新日  2007/02/08 05:04:53 PM コメント(6) | コメントを書く


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