助産婦メモルの日常~Happy Birthな毎日~

ツインちゃん



ツインちゃん

小さなツイン(双子)ちゃんが生まれた。
二人とも体重は1800gほど。
すぐに新生児専門の病院に運ばれた。

低血糖、また体温調節と呼吸が不安定で、まだ保育器の中にいるが元気に生きている。
最近ではお腹がすくと、大きな声で泣き、ミルクをせがむようになってきている。

このツインちゃんは、この世にいなかったかもしれない二人。

ツインちゃんのママとパパは、恋人同士ではなかった。
付き合いは5年ほどあったが、その間はそれぞれに恋人がいて、二人はあくまでも仲のいい友達だった。

しかし、それぞれが恋人と別れてしまった。
意気投合してしまった二人はそのまま・・・
初めての夜、ツインちゃんの命はママのお腹の中に宿った。

生理がこない。
ママは妊娠に気付いた。
薬局で妊娠検査薬を購入した。
説明書には『尿をかけて、1分待つ』と書いてある。
1分なんてとんでもなく、数秒で結果が出た。
陽性だった。

パパには言わなかった。
そして、母体保護法で指定されている中絶手術のできる病院をさがした。

待ち合い室にはお腹の大きな妊婦さんがたくさんいた。
どこかの病室から、赤ちゃんの泣き声がした。

「妊娠してますね。」
医師はそう言った。
母体保護法に認定されているその病院は、中絶目的でくる人も多い。
だから、妊娠が判明しても「おめでとうございます。」を言わない。

「おろします。」
ママはすぐにそう言った。

手術の概要について、説明を受けた。
3日後に手術が決まった。

診察室を出ると、赤ちゃんを抱いたお母さんとすれ違った。
泣いている赤ちゃんを一生懸命あやすお母さん。
ママは心が揺れた。

3日後、ママは病院の前でパパに電話した。
「妊娠してるの。でも今からおろしてくるから。」
それだけを言った。
電話の向こうでパパが何かを言った。
その途中で、無理矢理電話を切り、そのまま電源を切った。

病院に入り、再度手術について説明を受けた。
そして、手術衣に着替えた。

「こちらで手術しますので。」
看護婦が手術室に案内した。

また赤ちゃんの泣き声が聞こえた。

ママは考えていた。
ドラマでこんな場面があったなぁ。
ドラマでは「やっぱやめます。」とか言って逃げたりするんだよなぁ。
そんなことできるわけないよなぁ。
そう思って、手術室に入った。

手術台を目の前にしたとき、ママの頭の中に一気にいろんなことがよぎった。

エコーで見た子宮内には確かに何かの袋があった。
最近、つわりらしきものもある。
お腹の中に生きてる命がある。
生きてるのに!!

ママは手術室を飛び出した。
手術衣のまま、病院を飛び出した。

走って走って、ビルの影に逃げ込んだ。
泣きながら、パパに電話をした。
「やっぱりできない・・・。できないぃ。」

すぐにパパは来てくれた。
しばらく、二人は車の中で話をした。
そして、一緒に病院に戻った。

二人で、診察室に入った。
「生みます。」
そう言った。

「手術室まで入って、逃げた人は初めてですよ。こちらだって、準備してるんですからね。」
医師から、怒られた。
ひとしきり、ぶつぶつ言ったあと、
「まぁ、そんなことはいいんですよ。それより、よく決意してくれましたね。
これから長い妊娠生活になりますけど、一緒に頑張りましょうね。」
と言った。

「よろしくお願いします。」
二人は頭を下げた。
ママは涙がずっと止まらなかった。

次の健診日、ママはパパと一緒に行った。
「まだ小さくて分かりにくいですけど、おそらく双子ちゃんですね。」
医師からそう告げられた。
「見えますか?」

エコーには確かにふたつの何かが写っていた。
「よかった。ふたつの命を殺すところだったんだ・・・。」
ママは内診台の上で泣いた。

それから約8か月後、ツインちゃんは生まれた。

その間にパパは毎回健診に付き添った。
インターネットで双子サークルの研究もした。
ママの体調がよい時には、ドライブや映画を見に行ったりもした。
そして、入籍もした。

妊娠、恋人、結婚・・・。
世間一般とは順番がめちゃめちゃになってしまった。
でも二人は、「今、幸せだ。と胸をはって言える。」と言った。

妊娠中毒症にもならず、順調に妊娠生活は経過した。

妊娠35週、陣痛は始まった。
ツインちゃんは二人仲良く下に頭を向けていたので、帝王切開になることなく、自然分娩で生まれた。

低出生体重児のため、入院となってしまったが、だいぶ容態は安定してきているので、もう時期保育器から出るだろう。

ママもパパもおうちで一緒に暮らせる日を楽しみにしている。

初めての育児が、二人相手。
戸惑うことも多いだろうけど、これからも仲良く4人で頑張って下さい。
応援してます。




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