碧山窟

里山を買うまで(3)


同級生の医師は、私に告げました。

仕事をしているある日のこと、紙が妙に黄色でザラつくので、部下に聞いたのです。
「うちは、いつからこんな安い紙つかってるの?」
「いつもの紙ですよ、カケルさん。」
「・・ぇ。。」

もちろん、社長には「ごめんなさい」しておきました。
当然です。
私だって責任ある立場ですから責任はまっとうしなくてわ。

・・・酒の飲みすぎかなぁ。。
なんて思ったりしました。
精密検査をしてもらったほうがよいと判断して、脳のMRI、MRSをとってもらいました。そして、瞳孔の収縮なども診てもらいました。
結果、異常ナシです。

その病院の駐車場で、ばったり同級生の彼と会ったのです。
診断結果を伝えて、
「ひょっとして、おめぇの所かなぁ。」
と、冗談まじりに言うと、
「いつでもいいよ。同級生だって電話入れてもらえば・・」

彼とは、小学生のとき、算数の問題をどちらが早く解けるか、いつも競争していたのです。もちろん、彼の方が早かったですけどネ。
でも、たまーに、私が早く回答出したりすると、「なんでだぁ!」と言って、解法をしつこく私に聞いていたんです。
ま。浪人しないで、医大に一発合格したんですから、エライもんです。

・・

もし、彼との出会いがなかったら、ちっと恐ろしい気がします。
同級生に精神科医がいるって、ありがたいものだと、今では思っています。

・・

ひどくなってきたのは、それからでした。
下痢が続き、朝の嘔吐感、昼の脱力感。
眠れない夜、夜中に目覚めて眠れない。
更に、ネットで頻繁にモノを買うようになりました。
そして、スーパーで買い物をすると、いつまでたっても出てこれなくなりました。

・・

「肝機能はそれほど悪くはないよ。」
酒ののみすぎかな・・と、思う私に彼は言いました。
「診断書を書くから、休みなよ。」

・・

病気がひどくなっていく原因のひとつに、「職場環境」があると、銀行出身の人たちは、認めたくなかったのだろうと思います。
彼らのような人種は、よく、「人を使ってきた」と言うのです。
傲慢もはなはだしいですよ。
無能な立場ある人たちのせいで、どれほど多くの人たちが疲弊していったことか。

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夏には、カジカガエルが鈴のように響く川沿いの道を、自動車でくねくね上って行くと、11月の小雨が降りはじめました。
待ち合わせの場所に着くと、第四のじいさんの自動車が見えました。
その日の事は、鮮明に覚えています。
第四のぢぃさんは、古民家をとうとう買ってしまったのです。

ぢぃ「どぅ~だい。」
おれ「すげっ。」
屋根の北面が半分おちた、わら屋根です。
ぢぃ「中にはいってみるかぃ。」
おれ「みるみるっ。」
玄関のかけあがりを見るとクリの木です。
おれ「ぃぃ材使ってるなぁ。」
ぢぃ「見なよ。ケヤキの柱だぜ。」
おれ「すごい神棚だなぁ。こりゃ、蚕御殿だ。」
ぢぃ「んだっ。二階でカイコ飼ってたんだ。」

二階に上がると、長野県で造られた、糸つむぎの「ましーん」が転がってました。

外に出ると、ぢぃは、「あっちが味噌蔵」「こっちが鶏小屋」と、付随する小屋を見せてくれました。

ぢぃ「そして、ここが、おれの城だ。電気も来てるしよぉ。」
広さ12畳ほどの小屋は、まだ新しかったのです。
ぢぃ「ここで、カメラの整理をしたり、毛ばり巻いたり、木工したり。」
第四のじぃさんは、炭焼きをしてますが、若い頃はゼンザブロニカにニッコールレンズをつけて、野鳥をとったり、2トラ38で、さえずりを録音したりしていたのです。
私は、彼がヤマセミが好きだったのを思い出しました。
おれ「工房ヤマセミ」かぁ。ぃぃなぁ。
第四のぢぃさんは、にんまりしました。
ぢぃ「これから屋根と風呂と便所を修理して、来年には住むぞ。」

小屋から外に出ると、小雨は強風に乗って、針のように頬を突き刺しました。

そのとき、目の前を流れる川から「ヒィー」と声がしました。
二人で同時に叫びました。
「ヤマセミだっ!」
ぢぃ「どこだ」
おれ「あそこの白いやつ」
私がヤマセミを指さすと、強くなる雨の中、山のほうに飛んで行きました。
ぢぃ「ヤマセミだな。」
おれ「うん、ヤマセミだ。あの山に営巣してんだべ。」
ぢぃ「あの山、売りにでてるんだと。」
おれ「なんぼ?」
ぢぃ「300万」

・・・


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