もえぞーるHOUSE( ゜Д゜)y─┛~~

第2章.宣戦布告

第2章.宣戦布告


さっきのプレゼントが意味するものは単純でわかりやすい。
だからこそ道は直ぐに2つに別れていく。
1つの道は、プレゼントを受け取り幸恵に従いついて行くこと。
もう一つの道は、プレゼントを友美に返し幸恵の標的となること。

―宣戦布告―

それが私の選んだ道だった。
これが本当に正しい道なのか、これが正解と言えるのかはわからない。
でも何が正しいのかわからなくても、自分自身を信じられればそれでいい。
例えどんなに周りが反対しようとも、意見が食い違おうとも、自分が正しいと思う。
そう思わなければこの空間では生きていけない。

幸恵の怒りに気づいた生徒達が徐々に集まっている。
幸恵自身も、私がこんな返事を書くとは思っていなかったのだろう。
怒るのと同時に驚いてもいるようで、信じられないと言わんばかりの顔で私を睨んでいる。
しばらくして友美が現れ、女子達の視線が一斉に私の方へと向いた。
怒り、驚き、戸惑い、その様々な視線を感じながらも、私は全てを無視した。
何も考えずに前だけを見て、窓の方へと歩み寄り友美の席の前で足を止める。
友美はただ怯え、私の方に顔を向けることもせず席に着く。
私が幸恵の部下になったと思い、私からの攻撃を恐れている様子。
もちろん攻撃する気などない私は、突き刺さるような視線の中で上履きを差し出した。

「はい!」
「え……?」

驚いたのだろう。
なぜなら私はこのクラスで、この空間で幸恵に背いたのだから。
誰も背くことのなかったこの世界で、私はたった1人違う道を選んだ。
他の生徒達とは違う道を、自分自身が正しいと思うただ1つの道を。

「ありがとう……」

目を合わせはしなかったものの、友美は微かに微笑み上履きを受け取った。
昨日は無関心のように見えていた男子生徒までもが、動きを止めて私の方に目を向けている。
教室内から音が一気に消え、凍りついたようにみんなの動きが止まっていた。
ホームルームまでの数分間、まるで時間が止まったかのような感覚。
それがチャイムと共に一気に動き出し、教室内は突然騒がしくなった。

「あり得ねーだろ!?」
「信じられない!」
「馬鹿じゃないの?」

罵声にも似た言葉が飛び交い、友美は俯き耳をふさいで必死にやり過ごそうとしている。
すぐに自分の席に戻った私は、ざわめく教室内でただ黙って座っていた。
この私の行動で幸恵の怒りは膨れ上がり、その怒りは確実に私に向けられる。
昨日まで友美が受けていたことを、今日から私が代わりに受けることになる。
もう昨日のうちにその覚悟はできていた。
だから不思議と恐怖を感じたりはしない。
やられたらやり返せばいい、ただそれだけのこと。
けれどそれをできない人が多すぎて、虐めは絶えることなく続いてしまう。
それが原因で亡くなる人も多く、もしかしたらあの子だってそうなっていたかもしれない。

「篠田さん……もう私のために戦わなくて良いよ……」

思い出すだけで怒りがこみ上げてくる、前の学校での出来事。
虐められていたあの子を助けたくて、私は闘うことを決意した。
それなのに、あの子への虐めはさらに酷くなった。
クラスから存在を消された私は最後の賭けに出る。
首謀者とその部下を屋上に呼び出し、本当のことを教師の前で吐かせようとした。
でも逆に罠を仕掛けられ、私は虐めの首謀者に仕立て上げられ追放。
私の意見なんて誰にも届きはしなかった。

「席に着け! 何やってんだ?」

担任の言葉に我に返った私は、前後から感じる凄まじい視線に寒気を感じた。
特に強く感じる後ろからの視線は、後ろの席の幸恵の側近によるもの。
前の方からは幸恵の強い視線が私に向けられていた。
反射的に思わず幸恵を睨み返してしまい、空気はさらに重くなる。
その空気を感じたのか、必死に明るくしようとする担任の姿。
だがクラスの生徒全員が担任を無視して、私と幸恵を気にしている。
幸恵は気づかれないように、鏡を使い鏡越しに私のことを睨みつけていた。

「お前達聞いてるのか!? ホームルーム始まってるんだぞ!? 返事をしろ返事を!」
「先生!」

突然幸恵が手を挙げた。
これには誰もが驚き、皆凍り付いたように固まったまま幸恵を見つめる。
幸恵はゆっくりと立ち上がり、私の方に身体を向けた。

「篠田さんともっと親しくなりたいので、歓迎会を開きたいんですがいいですか?」
「篠田の歓迎会か~良い考えだな!」
「明日、1時間目のホームルームにやりたいんだけど……みんな良いよね?」

幸恵の言葉に誰もが顔を見合わせ、友美はただ俯きやり過ごそうとしている。
そこに追い打ちを掛けるように、友美に向かって話しかける幸恵。

「金田さんはどう思う?」
「え……!?」

あまりに突然な振りに友美は焦り戸惑い、怯えた様子で再び俯く。
そんな友美に満面の笑みで話しかける幸恵。
他の生徒も動揺を隠しきれない様子で、友美のことを見つめている。
張りつめた空気の中、幸恵の声が高らかに響いた。

「賛成してくれるよね? 友美ちゃん」
「は……はい……」

友美が弱々しく返事をすると、他の女子や男子達も一斉に手を挙げ始めた。
担任は何も気づかずに、幸恵の意見に皆がただ賛成しただけだと思い込んでいる。
これは良くある騙し行為の一つであり、幸恵の権力がどれ程の物かを思い知らされた。
だからと言って、ここで黙っているわけにはいかない。
幸恵が言い出したことだからこそ、普通に歓迎会が行われるとは思えなかった。

「篠田! それで良いか?」

嬉しそうな担任の笑顔が、なぜか心を苛立たせる。
何もわかっていない、何も知らない脳天気なその顔。
どうせ今ここで虐めのことを話しても、この担任に何もできはしないだろう。

「歓迎会なんていりません! そんなことされても嬉しくないです」
「お……おぃおぃ……せっかく原田が提案してくれたんだぞ?」
「別にそんなことしなくても、仲良くしようと思えばできます」

この私の発言で、教室内はさらに重い空気へと変わっていった。
誰もが幸恵を気にして何も言えず、担任は困ったように溜め息を漏らす。
私がそれらを全て無視するように座ろうとすると、後ろからぼそぼそと声が聞こえた。
後ろの席に座っている幸恵の側近、佐藤清美が私のことを睨みながら呟いている。
ゆっくりと立ち上がり、幸恵に対し何やら合図を送る清美。

「あんたもゴミだね……」
「それはどうも……」
「幸恵に背いたらどうなるか……」
「何? 女王様ごっこならあんたらだけでやればいいじゃん……」

突然胸ぐらを掴まれ、驚いた担任が制止するも清美はそれを無視。
私はただ全てのことに怒りを覚え、清美の手を振り解き胸の当たりを強く押した。
清美の身体は勢いよく後ろに下がり、足が縺れたのかそのまま床に尻餅をついた。
途端に泣き出す清美に、私の怒りは大きく膨れ上がっていく。
私に突き飛ばされた衝撃など、友美が受けた痛みや苦しみに比べたら大したことないはず。

「お前達いい加減にしろ!!」
「待ってください!!」

担任の声に幸恵が真っ先に反応し、私を押しのけるようにして清美の元へ。
スカートのポケットからハンカチを取り出すと、清美に差し出し微笑んだ。
清美もそれに反応し微笑み返すと、幸恵に手を引かれ立ち上がる。

「佐藤さんは悪くありません! 篠田さんに突き飛ばされたんです!」

端から見れば私は悪者で、幸恵は正義感の強い優等生だろうか?
現実を知らない担任にはきっと、こんな風に写っていたのだろう。
担任は幸恵の言葉を鵜呑みにし、昼休みに職員室に来るようにと私に命じた。
そして明日のホームルームで予定された歓迎会は、中止すると言い教室を後にした。
担任のいなくなった教室は静まり返ったまま、清美の笑い声だけが響く。
このまま私を悪者にして、自分たちは被害者でいようとしている。
もし私が編入生でなければ、今までの友美への虐めの罪も私に押しつけていただろう。
そうやって真実を隠し、虐めはどんどんエスカレートし尚も続いていく。
絶対的な権力を持った首謀者が、クラスを仕切り信じがたい形で固まってゆく。

「ちょっとやりすぎじゃねーか?」
「バカ……言うなよ」

どういう訳か男子までもが幸恵を恐れ、何もできずに俯いてばかり。
どんなに力があっても、男子をここまで黙らせることは容易ではない。
一体幸恵にどれ程の力があるというのだろうか?

「篠田も従ってりゃいいのにな」
「イカレてんじゃん?」

静かな教室の中で、男子達のささやく声が微かに聞こえた。



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